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岡田武史さん、なぜ教育に? 今治で学園長に就任

  • 2023年04月28日

サッカー元日本代表の監督で、サッカーJ3「FC今治」の岡田武史会長が今治市の学校法人の学園長に就任しました。来春からは、既存の私立高校の名称を変える形で「FC今治高校」が新たに開設されます。サッカー選手の養成学校かと思いきや、そうではないようです。その狙いに迫りました。

(NHK松山放送局 荒川真帆)

少子化のなかでオファー

来年春にスタートする「FC今治高校」。
今治市の学校法人「今治明徳学園」が運営している私立高校の名称を変更し、特に分校のカリキュラムを刷新。「里山校」として開校します。

「新しい学校作りについて」と題して学校法人は4月24日に記者会見を開きました。
村上康理事長の隣には4月から「学園長」に就任した岡田さんがいました。
冒頭、理事長が口にしたのは、意外にも法人の厳しい現状でした。

村上理事長

「以前から私たちは生徒募集に非常に苦しんでいます。何とかしなければいけないと改革を考えてきたなかで岡田さんと知り合うことができ、きょうのご縁を結ぶことになりました」

創立117年を迎えるこの学校法人。戦後のベビーブームや高度経済成長期の中で短期大学や中学・高校を運営するなど経営規模を拡大してきましたが、少子化で特に高校の定員募集は次第に右肩下がり。定員割れも続く事態になっています。
今後も少子化に歯止めがかからないとみられるなか、学園が希望を見いだしたのが岡田さんの存在でした。
「FC今治」の運営会社の社外取締役を務めていた村上理事長みずから岡田さんに学校運営への参画を打診をしたそうです。

村上理事長
「岡田さんは『次世代のために何かをしたい』ということを常に話していてその姿に共感していた。より踏み込んで教育の運営に携わって欲しいと思って学園長の立場を打診した。少子化で私立高校が公立の受け皿にならない今の時代に新しい学校を一緒に考えてほしいと思った」

2年間熟考した

岡田武史さん

オファーを受けた岡田さんは2年間熟考したといいます。
会見では決断した背景や自身の掲げる理念、教育への思いを語りました。

岡田さん
「『FC今治』は『共助のコミュニティ作り』を企業理念に掲げています。次世代のため、心の豊かさを得られる社会作りに貢献するというものですが、その実現のためには教育というピースが必要だと考えてきました。そんな折に声をかけてもらい、2年近く熟考しましたが、これは天の配剤だと感じて『思い切ってやろう』と。
生成AIのチャットGPTの登場など、社会は大きく変わってきています。ロールモデルがいない時代を生きていくうえで、今の教育ではちょっと物足りないものがあるんじゃないか。自分の『生き残り方』は、自分で考えていかないといけない。そのための自律性・自主性が大事で若いうちから培っていく必要があります。今の教育が悪いと否定しているわけではなくて新しいチャレンジする教育をしてみよう。そのために、一歩踏み出すことにしました」

さらに、高校名の由来についてはこんな風に話します。

岡田さん
「名前もいろいろ考えましたが、県外からも多くの人を集めることになるので、ある程度インパクトがないといけない。それなら思い切って『FC今治高校』にしようと。そういう経緯です」

どんな学びになるのか

では、その新しい学校とはどんな教育内容なのか。
岡田さんのこれまでの経歴を考えると「サッカー選手の養成学校?」と想像してしまいますが、会見で記者に尋ねられると「全く違う」と否定しました。

配布されたパンフレットには「ヒストリック・キャプテンを育む、歴史を動かす高校」と書いてあります。何やら聞き慣れない言葉ですが。岡田さんはこう説明します。

岡田さん
「これに歴史を動かすと書いてあるから、スーパーヒーローみたいに思われるかもしれないけど、そうではない。歴史を動かすと言うのは、地道な小さなコミュニティーを作って人を巻き込んでいく力のこと。つまり、コミニケーション能力。それとこれからの時代を生きていく心身のタフさ。想定外のことが起きたときに適応する能力。そうしたものを持った人材をと言う意味です。歴史に名を残す大谷翔平のような人を出そうと思っているわけではない。
(サッカーをやるのかと)よく問い合わせが来ています。サッカーをやる子がいてもいいですよ、他の高校と一緒ですから。部活でサッカーをするとかFC今治でサッカーをやるとかもちろんいいですがそのための学校ではないです」

会見や資料の内容をまとめると、具体的には、「探求」や「体験」学習に力を入れ、実学・実践を学ぶ内容が豊富なカリキュラムだということです。

例えば、午前中は英語や数学などの座学を実施。午後には、学校の外へ。
FC今治の本拠地、里山スタジアムに関わる企業とも連携しながら現場で地域課題に取り組んだり、農業や漁業などさまざまな体験学習を行ったりするということでした。

さらに、岡田さんの人脈を生かし、講師には多種多様なメンバーを招きました。
野球解説者の古田敦也さんや、大手IT企業「サイボウズ」の青野慶久さん。
東京大学の教授で元文部科学省副大臣の鈴木寛さんなど、著名な人たちが紹介されました。

岡田さん
「必修の授業は午前中に、それも個別対応で行います。全員が一斉に先生の授業を受けると言うのは少なくなります。午後からは実習または探求、実学。自分の経験値を上げていくことをメインにしたカリキュラムにしていくつもりです。
来てもらいたい子はどんな子ですかとよく聞かれますが、僕は『現場を変えたい』『何か自分が変わりたい、踏み出したい』、『チャレンジしてみたい』という思いを持っている子供たちに来てもらいたいなと思っています」

会見で岡田さん自身の経験をどう生かしていくか聞きました。

岡田さん
「僕の経験?僕1人の経験だけでは大したことがないから、あえて『岡田武史学校』にはしなかった。これからは一人の『知』ではなくて『集合知』をうまく巻き込んでコントロールしていける人が必要になります。いろんな人たちが集まってそれを活かしていけるような学校にできればいい。みんな優秀と言うと変ですが、個性が強い人がいろいろ集まってくるので、そういうものを吸収してもらえる学校にしたいと思っています」

寮も併設、生徒は全国から

「里山校」の定員は男女80人。
全国から募集し、新たに寮も併設する予定です。
また、本校にあたる「明徳校」では、不登校などの生徒に対応したコースも新たに設置し、高校卒業の単位をとるだけではなく、社会に出るためのさまざまな学びを設けるということでした。法人では、8月と9月に、学校説明会を開くことにしています。

新たな挑戦どうなる

会見では、『サッカーのスペシャリスト』のイメージとは異なり、岡田さんの熱っぽく教育への思いを語る姿がとても印象的でした。
一方で、里山スタジアムのプロジェクトなどこれまで地域を軸に様々展開してきた岡田さんの活動を踏まえると、教育に乗り出したのも自然な流れのようにも感じました。

いま、日本の高校の学びは大きく変わろうとしています。
社会が複雑化、グローバル化を迎えるなか、答えが一つではない問いにどのように自分が向き合い、他者と協働して答えを導き出すか。その力をつけるため、2022年度の国の学習指導要領で新たに位置づけられたのが、高校での「探求学習」です。
「高校教育は大学入試を意識した知識偏重だ」との指摘もあったなかで、小学校から高校まで一貫して、この「探求」時間が設けられることになりました。
今回の新しい高校はその流れを汲み、いわば「トレンド」をふんだんに取り入れた教育内容に見えます。
ただ、教育取材をしてきたなかでは、この探求学習、「簡単ではない」とも学校現場からよく耳にします。

果たして岡田学園長率いる新学校では、どんな展開になるのか。
その行方に引き続き注目したいと思います。

  • 荒川真帆

    荒川真帆

    新潟県上越市出身、08年入局。
     長崎、大阪、社会部などを経て現在。文科省など教育取材を長く担当。 
    座右の銘は「愛ある野次馬根性」。現在は2歳児の主張に翻弄される日々です。

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