四国中央 朝からラーメン屋台、なぜ集う?
- 2023年04月12日
みなさんは、毎朝、朝食をとっていますか?
愛媛県の四国中央市では、早朝からたくさんの人が集まるラーメン屋台があるんです。
いったいなぜ、朝から“ラーメン”なんでしょうか?
3月末、開店の6時から閉店の昼1時まで、ラーメン屋台に集う人々に密着しました。
(NHK松山放送局 望月悠伍)
※映像で見たい方には、記事の最後に動画のリンクがあります。
オープン前から仕事前の一杯
オープンは朝6時。
この日、一番客の男性5人組がやってきたのは、開店前の朝5時51分でした。
早すぎっ!
大西さん
「今日は新居浜から来ました。仕事で四国中央の方に来たら寄る感じやね、仕事は左官業やね。家の外壁を塗る仕事」
朝7時に始まる仕事の前、朝食はラーメンなんだそうです。
大西さん
「いまから左官の仕事で高知に向かって行く。ここは新居浜からの通り掛けやから、いつもここでラーメン食べてから高知に行く」
続いてやってきたのも、これから仕事だという四国中央市の男性。
週に1回は来るといいます。
西村さん
「仕事は運送会社の倉庫管理。早朝やけんありがたい。朝はや開いとるけん。仕事前に食べられる」
一杯のラーメンを食べてから仕事に向かいます。
こうして見ていると、朝にラーメン、意外といいかも。
朝7時30分からは夜勤明けの人が“仕事終わりの一杯”を
朝7時30分を過ぎると、仕事は仕事でも、仕事“終わり”の人々が多く集まるように。
植村さん
「夜勤明けでお腹がすいたんで、ガッツリ系のカレーそばですね。夜勤はおなかがすくんで。朝いっぱい食べたいなと思って」
メニューの中でも一番ガッツリのカレー!
仕事終わりの一杯ですもんね。
守谷さん
「朝開いてるところは少なかろう? 朝ご飯というより夜ご飯じゃ」
なぜ夜勤明けの人が多いのか。
このラーメン屋台がある四国中央市は紙のまち。
約180の工場が集まり、“三交代”24時間体制で働く人たちがたくさんいます。
そのため、夜勤明けの人々が店にやってくるんです。
店主の思い「コロナで沈んだ地域を盛り上げたい」
店を切り盛りするのは、長野今さんと父の繁之さん親子。
四国中央市で料亭を営む2人は、2年前コロナ禍、この屋台をオープンさせました。
店主・長野今さん
「始めた当初、コロナスタートの頃で、簡単に言うと制限がすごく厳しくなったんですよ。そのときに屋外で食べられる店、しかも皆さんが喜んでいただける店をちょっと作りたくて」
お店は息子の今さんに任せていますが、父の長野繁之さんは、みんなからは“大将”と呼ばれ、親しまれています。
父の長野繁之さん
「お客様に対しても食材に対しても一期一会な気持ちで接していくっていうような感覚で創業したんよ」
お店をオープンした当初のメニューは“しお”と“しょうゆ”の2種類だけでしたが、客の要望に応えながら、味噌やカレーなど増やしていき、いまでは10種類以上に。メニューはどれも人気だといいます。
人との語らいの場としての魅力も
人気の秘密は、味だけではありません。
内子町出身で、製紙会社に勤める男性は。
宮内さん
「居心地がいいんでよく来るという感じ。大将も気さくですし。ふつうに、話して帰ることもありますから」
宮内さん、食べ終わって帰ると思いきや…大将の隣に座り、話し始めました。
大将
「仕事のことはあんまり話さんけどな」
宮内さん
「仕事のことは・・・そうっすね」
大将
「彼の仕事は知っとるんですけど、仕事の話はあんまりしても、面白くないですもん。話すのは遊びのことよ。こいつ、彼女おらんのよ」
望月ディレクター
「どれくらいいないですか?」
宮内さん
「こっち来てからいないんで、もう8年とか?」
ちょっと踏み込んだ質問をしても答えてくれるくらい、ここは気さくな場所なんです。
そこに、食べ終わった別の客が。
今井さん
「子どもが生まれる言うたらもう、すぐあの、名前考えるわって大将が言うて」
大将
「名前決めよったな!決まった?決まってない?」
今井さん
「いやいやいや。まだですよ」
大将
「わしが、名前決める言うんじゃけんいかんわな」
今井さん
「なんか何日かして、“めいちゃん”ええと思うけどなぁとかって(言いましたよね)」
大将
「めいちゃんなりそうやない?カタカナのメイとかでもええよ」
こうした大将との何気ない語らいが、人気の秘密でもあるんです。
中には3時間も居続けるお客さんもいたんですよ、驚き。
さらに、こちらの常連客たちは。
右側の男性は、この店に来たことがきっかけで……
早川さん
「僕元々地元が松山で、派遣で四国中央に来て1年半くらいになるんですけど、ちょっともうこっちに住もうかなって。もうそこの派遣会社辞めて、で、ここで知り合った社長さんのところで働くことになって。ここで知り合った人と。で、四月から。あともう2・3日後に、もうそこの鉄工所で溶接とかをして働く形になってます」
ここは本当にラーメン屋台なのか!?という話。
早川さんは「一応ラーメン屋です」と笑っていました。
一方、左側の男性は……
八幡さん
「病気が最近発覚して。難病で。手の震えとかがあって、がっつり『なんだこの人』みたいなのにはあったことはないですけど、なんか変な感じに見られてるんじゃないかっていう自分の中の意識があるので、あんまり一人でご飯屋さんに行ったりとかはしないんです。だけど。この屋台は、そんなんも気にせず優しく接してくれるんですごく来やすいし、居心地はいいかなぁ」
話を聞いていくと ひとりひとりにドラマが
朝の練習帰りにやってきたという男性…
加地さん
「練習帰りに屋台に来た。大学時代から30年以上弓道を続けていてね。たまに奥さんとも来るんだけどね、今日はひとり」
望月ディレクター
「奥さんとはどこで出会ったんですか?」
加地さん
「弓道で。松山で弓道の稽古に毎週行ってたんですよ。で、飲み会があって参加したら、面白い子おるなって。で、一応メールアドレス聞いて。そんな感じですよね。弓道を続けてたからね、会ったんかもしれんね」
話を聞くと、この方、実力者だったんです。
加地さん
「この前、国体も行ってるしね。これは優勝したときの写真。いちばん活躍してないのに、僕が中央にいるっていう。初めは大学のサークル勧誘で入れられて、本当は嫌だったんだけど、ずーっとしよるともう辞めれんかったのよ。でも、東京で仕事して帰ってきて30代で、やることのなんにもないなーって思ったら、弓でもしようかーと思って。それでいまも続けてるの」
国体優勝者も通う店!やっぱりすごい。
家族連れの4人は、この日長男の卒園式後にやってきました。
篠原さん
「喜ぶかなーと思って。外食なんで。美味しい?」
長男
「ラーメン好き、ラーメンいっぱい」
望月ディレクター
「卒園式どうだった?」
長男
「楽しかった。歌うたった」
母親
「卒園式、大きくなったなぁと思って、少し泣いちゃいました」
聞いてみると、ここのラーメンがすごく好きらしい。
卒園式も、一杯のラーメンも、成長しても覚えていてくれるとうれしいですね。
そして、付き合って4年目になる18歳のカップル。この日は彼女からデートに誘ったようで……
加地さん
「私は2回目です。屋台みたいなラーメン屋があるけん、行こうみたいな」
なれそめを聞くと……
西原さん
「中学校が一緒で。なんか、まあ、こう、彼女が『好き』みたいな感じで来てくれてて、ほんで、卒業式のときに、学ランだったんで、第二ボタンをあげて、まあそこで写真撮ろうってなって。これ撮ってからボタンをあげたんです」
西原さん
「高校は、僕が香川で彼女が新居浜で、遠距離なんですけど、1年に2・3回くらい家に帰る機会があって、その帰省が終わった最後の帰る日はいちばん寂しかったです」
でも、春からは地元新居浜でふたりとも就職。
3年間の遠距離を乗り越え地元での就職を機に、また近くで暮らします。
取材後記
ご覧いただきありがとうございます。
朝食にラーメン。初めてその情報を目にしたときは純粋に「なぜ?」と思いました。
翌朝5時半、さっそく四国中央市に向かいました。
取材をしてみると、見えてきたのは“味だけではない魅力”。
大将との語らいだったり、客同士の交流だったり、果てはここで仕事を見つける人まで……
ラーメン屋台が単なる飲食店ではなく、交流の“場”でもあることがわかり、お伝えしたいと思いました。