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伊予弁を語り継ぐ 方言をどう残すか

  • 2023年04月19日

方言って、どうやって残っていくのでしょう。
方言は、その存在があまりにも身近で当たり前だからこそ、何もしなければ消えてなくなってしまう日がくるかもしれません。
そんな中、愛媛の方言、伊予弁を後世に残していこうと、愛媛に伝わる民話を語り継ぐ人たちがいます。
ことしで20年目の節目を迎えた朗読ボランティアグループ「お伽座」のみなさんに、伊予弁を語り継ぐことへの思いを聞きました。

(NHK松山放送局 岸本南奈)

20年語り継ぐ「お伽座」とは

松山市を拠点に活動する朗読ボランティアグループ「お伽座」
愛媛に伝わる民話を、伊予弁で語り継ぎ続けて、ことしで20年目になります。
50代から80代の15人ほどのメンバーが所属しています。
小学校やミュージアムといった公共の施設など、さまざまな場所で語り継いできました。

この日、お伽座のみなさんが訪れたのは松山市の道後小学校。
学校では月に1回、授業が始まる前に、読み聞かせの時間を設けていて、お伽座のみなさんは、12年前からボランティアで携わっています。
道後温泉の発展に努めた偉人・伊佐庭如矢(いさにわゆきや)のお話を語りました。

「ゆきやさんは道後に人を呼ぶために道後に鉄道をひいたり道後公園の整備をしたり、名物・坊っちゃん団子も考えたんよ」

読むのではなく、語る

読み聞かせの際、手元を見てみると、何も持っていません。
物語を覚えて語りかけるのがお伽座のスタイル。
読むのではなく、語るほうが、より伝わるというこだわりからです。

お伽座 代表 大亀昌子さん

「覚えて語らないと、読んでたら読んだ話にしかなりませんよね。覚えると、本当に心の中から言葉が出るような気がするんです」

(小学生)
「伊佐庭如矢がこういう人だったんだということを知ることができたのでよかったです」
「初めて聞いたお話で、聞いていてすごく面白かったです」

「お伽座」の始まり

お伽座の設立は、19年前。
代表の大亀昌子さんが地元の語り部の発表の場を作ろうと、自宅の一室を提供したことが始まりとなりました。

「せっかくこんなに語っている方がいっぱいいるのに発表する場がないっていうのがありましたので、なんかしたいということで始めました」

故 天野祐吉さん(元 子規記念博物館 館長)

お伽座という名前をつけたのは、当時の子規記念博物館の館長で、コラムニストの天野祐吉さん。
その時に、「地元の方言で語るグループにしよう」と助言をもらいました。

「言葉にはすごく厳しい方でいらっしゃった。当時、共通語と方言とを混在させていたので、こんなんじゃいかんよ。方言に徹底しなさいと言われました。 “お伽座“ってお芝居するような感じの名前ですねと言ったら、いやいや、昔話だからこれがいいんだよと言って決めて下さいました」

伊予弁へのこだわり

その後、方言の研究家に指導を仰ぎ、養成講座も開催。語り部を育成してきました。
メンバーは毎月定期的に集まり、練習をしています。

メンバーの和田さん

題材は、地域の図書館や役所で、地元に伝わる話などを見つけてきます。

一人が朗読し、方言の発音や表現がおかしかったりすると、みんなで話し合い修正します。

メンバー「(朗読)城下は松山市という名の市になり温泉郡の道後村は道後温泉地区が独立して・・・」
大亀さん「松山の人は松山のことを“まっちゃま”と言うんよ」
メンバー「それは明治時代のことですか?」
大亀さん「いいえ、今でも年配の人はねそう言うの」

「伊予弁は、温かい感じが魅力だと思っています。打ち解けやすいですよね。話が延々と続いていく、そんな感じがします」

発足から約20年で語ってきた民話は、1000を超えます。
中でも、100以上の話を覚えて、語ってきた人もいます。

最年長87才の渡部久子さん。グループ発足当時からのメンバーです。
活動の中で、方言を伝える意義を感じているといいます。

メンバー最年長 87才 渡部久子さん

「“あなたが語りよった言葉がやっぱり耳に残るわ”っていう話を聞くと、方言の持つ良さがよくわかってきましたね。昔話は今の子どもたちでもわからない言葉がたくさん出てくるんです。ものの名前とか、こういう方言でこういう動作をしとったんだっていう昔の人たちが伝えてきたものを、またあとの時代にも伝えていくというのはやっぱり私たちがしないといけんかなと思っているんです」

未来へ語り継ぐ

「お伽座」のメンバーが、今取り組んでいることがあります。
それは「伊予弁の方言辞典」を作ることです。
3年ほど前から、方言を知る人からの聞き取りなどをもとに制作を続けています。

メンバー「“これは好かん食べ物じゃけん“ この“好かん”は辞典に入れるの?」
大亀さん「“好かん”って方言でしょ?私は方言やと思ってるけど」

「方言だと思っていても、辞書で調べると共通語だったということがよくあります。1つ1つ調べるのは気が遠くなる作業です。でも、喋っている言葉ですから消えてしまうんです。だから文字に書き起こして、形にして残していかないといけないんです」

これまでに調べた方言の数は700近くに上っています。
完成すれば、冊子にまとめ、県内の学校や図書館などに配布する予定です。

大亀さんは、伊予弁で愛媛の民話を語り継ぐことで、伝統文化を守っていきたいと考えています。

「伝統文化って本当に語り継いでいくものがなかったら消えていきますよね。途絶えていきますよね。やっぱり誰かがやってくれるっていうのがあって今に続いてきていると思うんです。わたしたちもその担い手の一人になっているというのを今痛感しています。今後(後継者として)関わってくれる方がいてくれるとうれしいです」

取材実感

大亀さんとの最初の打合せの際、「どんなお話を読むのですか」と言うと、「読むのではなく、語るんです」と直されました。大変失礼なことを言ってしまったと反省するとともに、お伽座のみなさんの、伊予弁を語ることへの使命と誇りを感じました。

所属するメンバーはご高齢の方も多く、練習会ではみなさんがすらすらと語れたわけではなく、思い出せずに原稿を見る方もいました。それほど覚えることは大変で、1話10分ほどのお話を覚えるために、なんと700回は練習するといいます。物忘れ防止の効果も期待しているということでしたが、後継者が増えていないことに危機感を感じていらっしゃいました。温かみのある伊予弁を語り継ぐ人が1人でも増えることを願い、私もみなさんの活動の発信を続けていきたいと思います。

私がパーソナリティーを務めるラジオ番組「ひめゴジ!」で、月に2回、火曜日に、お伽座のみなさんが愛媛の民話を伊予弁で語る「愛媛のむかし語り」というコーナーがあります。ぜひお聞きください。

  • 岸本南奈

    岸本南奈

    地元の徳島局、富山局を経て、松山局で夕方のニュース番組「ひめポン!」のキャスターを3年間担当。
    2023年からはラジオ番組「ひめゴジ!」と「ホッと!四国」のパーソナリティーを務める。
    好きな伊予弁は「まっちゃま」(松山)

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