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東京・青山で作品300点が完売 高知のウッドアーティスト

  • 2023年11月08日

 

7月中旬、東京・青山で行われた個展。木製の家具や花器、オブジェなど数万円から数十万円にもなる作品およそ300点が並んでいました。作品は、わずか4日でほぼ完売。手がけたのは高知県香南市出身で26歳のウッドアーティストでした。彼が作品に込めた思いとは?
(NHK高知放送局 ディレクター 片岡美月)

「ウッドアーティスト」って?

SNSを中心に人気を集めている香南市出身のウッドアーティスト髙橋成樹さん(26)です。

手がける作品は、木製の家具や花器、オブジェ。丸みを帯びた形に、さらさらとした手触りで木のあたたかみを感じます。訪れた人たちは実際に作品に触れ、好みのものを探していました。
作品には大きく欠けた部分や無数の虫食いの跡が目立ちます。一般的な家具では好まれないこうした箇所をあえて残しています。

左:ケーキスタンド<ひのき> 右上:スツール<しい> 右下:花器<しい>
髙橋さん

作品は木の本来のままを残しています。
なでてかわいがってくれる人もいて、「生き物」と思って買ってくれているのかなって思っています。

髙橋さんの作品を購入できるのは、年5回程度不定期に開かれる個展のみ。
作品をしっかりと見て、触れた上で受け入れてほしいという思いがあるからです。
個展では毎回準備した作品のほとんどが売り切れます。気に入って2点目、3点目とリピートして購入するファンもいるそうです。

「山師」として見続けてきた廃れていく山

なぜ木の本来のままを残すのか。その理由は、髙橋さんのもう一つの職業にあります。
山で間伐などを行い、環境整備をすることで生計を立てる「山師」です。

髙橋さんは幼い頃から、製材業を営む祖父がもっていた山で遊んで育ちました。林業大学校から林業会社へと進み、技術を身につけて独立します。

片岡D

山師の仕事は楽しいですか?

髙橋さん

はい。正直、仕事をしているって思ってないですね。小さい頃から遊んでいた延長線上にある感じで、山は自分のありのままでおれる場所です。

地元の山を見続けてきた髙橋さん。
作品づくりに力を入れ始めたのは、山の窮状を多くの人に伝えたいという思いからでした。
高知県は森林率84%で全国1位。しかし、働き手不足から多くの山で手入れが足りず、立派な木材が有効活用されないまま朽ちていってしまうのが現状です。
最初は趣味で始めた作品づくりでしたが、SNSにアップしたケーキスタンドの写真がバズり、多くの反響がありました。そこで、「作品を通じて少しでも多くの人に関心を持ってもらいたい」と木がもつ特徴を大切にした作品作りに力を入れたのです。

木と向き合う形成作業

ふだんは、香南市にある工房で多くの時間を過ごします。

木を削る作業を行う際は、半袖にハーフパンツ、サンダル履きとラフな服装。のみは素手で握ります。リラックスした状態で向き合うことで、目の前の木に集中し、削るごとに現れる木の特徴を見逃しません。
削る作業は大きな作品になるとおよそ2時間。固い木を削るためには強い力が必要です。のみを握る手は、熱を持ち、傷が耐えません。

髙橋さん

これは全然ましな方ですね。最初の方は、皮が全部めくれて、あたたかい飲み物が入ったコップを持てない時もありました。今は、だんだん手の皮が厚くなってきて耐えられるようになってきました。
ぼろぼろなんですけど、作品を作れる喜びのほうが強いです。

作品を作り終えると「完璧です」と笑顔を浮かべました。
没頭するあまり、深夜まで作り続ける日もあります。木に触れ、その特徴をいかす作品をつくることを心から楽しんでいる様子でした。

捨てられる木を生かす

髙橋さんが好むのは「しい」の木など、割れやゆがみがでやすい木。中でも魅力的だと語るのは、虫食いによって大きな穴が空いたものです。

大好きなしいの木をのぞき込む髙橋さん
髙橋さん

穴が空いたやつが大好きで、これは一目ぼれで、見た瞬間に「ください!」って言いました。大体こんなの捨てられるんですけどね。

こんな木材には、地元の製材業者や知り合いが「好きそうな木が入ったき、見にこんかえ」と声をかけてくれることで出会います。
一般には「ゴミだ」と言われるような木ですが、作業場には山のように積まれています。なぜそのような木材を使うのでしょうか。

ウッドアーティスト 髙橋成樹さん
自分が好きというのもあるんですが、虫食いや欠けた部分は木が生きたしるしなんです。木が山でどのように生きたのか、どんな環境の中にあって育ったかが刻まれていて、山や木のことを伝えるためには削ってはいけない部分だと思っています。

取材後記

私はいの町の吾北地区出身で、山と川に囲まれた中で育ちました。近年、仁淀川の知名度が上がり、地元の川の魅力を再認識する機会はありましたが、同じように大切な山には関心を寄せていませんでした。取材中、「きれいな川も魚も山の環境が整っているからこそ得られる恵みだ」という髙橋さんの言葉に、ハッとしました。
多くの人が価値を見いだせていなかったものを魅力的に見せる髙橋さんの作品。それは、一つひとつの木と向き合っているからこそ出来ることだと感じました。

  • 片岡美月

    NHK高知放送局 ディレクター

    片岡美月

    2022年入局
    高知県いの町出身
    昨秋、のら猫を保護しました。すくすく育って1歳半です。

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