北九州ラヴァーズ#25 牟田裕さん/歌手
- 2024年01月18日
牟田裕さん(45)
歌手。山口県下関市に生まれ、北九州市門司区などで育つ。2012年に「関門海峡合唱団」を立ち上げ、市民への歌唱指導や、関門エリアに密着したコンサート活動をしている。
「関門に“アンセム”を」
牟田裕さんが率いる「関門海峡合唱団」。現在の団員は30人ほどで、門司側と下関側に分かれて毎月練習に励んでいます。
歌う楽曲は「関門の歌声」。2012年に牟田さんが合唱団を立ち上げた際に自身で作詞作曲しました。
「関門の歌声」 作詞/作曲 牟田裕
わたしはここで 海を見ている
歴史とロマンの 関門海峡
わたしはいつも 海を見ている
美しい景色映す 心の海峡
生まれたメロディ 波のことば
伝えたい 時を越え
ぼくらはいつか 夢を叶(かな)える
世界に届けよう 関門の歌声
世界に届けよう 関門の歌声
関門の景観の美しさ、歴史的なこと、すばらしさ。そういうものをたたえながら歌う関門アンセム(賛歌)が必要だと思ったんですよね。
祖父のことばに導かれて
門司出身の母親と下関出身の父親の元に生まれた牟田さん。現在の活動の原点にあるのが大好きだった祖父の存在です。
祖父は関門海峡で海運の仕事をしていました。僕が幼いころに下関から門司港までいろんなところを毎週のようにサイクリングで連れてきてくれました。関門海峡のそばでたくさんの時間を過ごしてきた中で、祖父との思い出が一番心に残っています。
高校時代に聞いたレコードをきっかけに歌手を目指すようになり、20代で上京したものの、次第にふるさとへの思いが募っていったといいます。牟田さんを導いたのは、当時すでに他界していた祖父が残したことばでした。
「外の世界もいいけれども、地元の関門海峡にもっと目を向けてごらん、すばらしいものがたくさんあるから」ということを言ってくれていたんです。関門の美しい景観と歴史の中で音楽活動をすることが、自分にとって一番幸せな道なんじゃないかと思いました。
埋もれた魅力に音楽で光をあてる
祖父のことばを胸にふるさとでの音楽活動を本格化させた牟田さん。力を入れてきたのが、埋もれがちな地域の歴史や名所を伝えるコンサートです。
去年10月に開いたコンサートでは門司港にあるパゴダにスポットをあてました。パゴダは戦時中に門司港から出征して命を落とした兵士たちの慰霊のために建てられたもので、牟田さんはその歴史を紹介するとともに、歌詞だけが残っていた鎮魂の歌にメロディーをつけて歌いました。
これまでに門司にあるフランス水兵の慰霊碑や、下関の六連島灯台などさまざまな場所でコンサートを開催し、音楽を通して地域の魅力を発信してきました。
門司港の観光地もいいですが、こういう先人たちの願いが込められた場所も大事にしていこうよって、音楽を通して伝えたいと思います。
関門海峡に“歌の懸け橋”を
去年11月。牟田さんと合唱団のメンバーの姿は、下関と門司の両岸にありました。関門橋のたもとから海峡を挟んで歌い合い“歌の懸け橋”を渡そうというのです。
2013年に初めてチャレンジし、近年は新型コロナの影響もあり中断していましたが、関門橋開通50周年に合わせ復活させました。
コロナのこともあるのでどうしようかと思っていましたが、団員から「関門橋50年で海峡合唱をやりませんか」と声が上がったんです。やはり市民と一緒に関門で歌声を合わせてお祝いするのが一番いいやり方じゃないかなと思いました。
今回は団員以外の一般の人にも参加を呼びかけ、合わせて40人以上が集まりました。海峡を挟んで歌い合ったのは牟田さんが手がけた「関門の歌声」。美しいハーモニーが海峡に響き渡りました。
歌い終え、牟田さんが対岸のメンバーに連絡を取ると、風に乗って歌声が届いたとのこと。関門海峡に“歌の懸け橋”がかかった瞬間でした。
「ここで生まれ育ちましたので、今後も関門海峡をステージにして、美しい景観や刻まれてきた歴史に誇りを持ちながら、市民の皆さんとともに音楽を通じた魅力の発信を続けていきたいと思います」