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一番の薬は“褒める”こと ガソリンスタンドの立ち直り支援

~諦めず寄り添い続ける~
  • 2024年01月12日

長年、非行歴のある少年たちを積極的に雇い入れ、その立ち直りを支援してきたガソリンスタンドが北九州市にあります。
過去には法務省から表彰されるなど、高く評価されてきたその取り組みは、経営が次の代に移っても受け継がれ、少しずつ広がりも見せ始めています。
どんなことがあっても寄り添い続ける
その背景にある思いに迫りました。 
動画はこちら👈から(北九州放送局 記者 勝海光太朗)

面接は100%合格 クビはなし!

北九州市戸畑区の一角にあるガソリンスタンド

ガソリンスタンドがあるのは北九州市戸畑区の一角。
取材に訪れたとき、所長の野口純さん(51歳)は事務所で手紙を書いていました。
相手は少年院に入っている少年でした。

野口純さん

やりとりは必ず手書きでやっています。相手の文字が荒れていたら、”今は心も荒れているのかな”とか心の状況もつかみとることができるんです。

少年院に入っている少年に送った手紙

そう優しい表情で語ってくれた野口さん。
少年院や刑務所を出所した若者を積極的に雇う“協力雇用主”として、支援の手を差し伸べ、
社会復帰を後押ししています。

ガソリンスタンドで働く従業員

面接すれば全員採用するようにしていて、従業員のおよそ半数が過去に非行歴や犯罪歴がある若者たちです。

野口純さん

彼らのなかには大人を信じられない子が多い。だからうちは「面接したら100%合格でクビもなし」です!

最も効く薬は“褒める”こと

左:野口さん 中:義弘さん(父)右:晃司さん(兄)

取り組みを始めたのは創業者の父・義弘さんです。貧しかった幼少期に地域の人に支えてもらった経験から、恵まれない環境で育ち非行に走ってしまった少年少女の力になりたいと考えたのだそうです。
一線を退いた義弘さんから兄・晃司さんとともに経営を引き継いだ野口さん。
当初は少年たちを雇い続けることに戸惑いを感じていましたが、徐々に気持ちが変化していったといいます。

野口純さん

ものは壊すし無断欠勤はするし、正直、辞めてほしいと思った時期もありました。それが自分にも子どもができて考えが変わっていったんです。
うちの子はこうはならないな。やっぱり育った環境や周りの環境が影響するんだ”って。そうやってみると根っからの悪いやつなんていない、どうにかしてあげたいって思うようになりました。

壊された事務所の壁
勤務表を見ると無断欠勤が続く少年も

野口さんが少年たちと接するうえで、特に心がけているのが“褒める”ことです。
無断欠勤しても遅刻が続いていても、出勤してきたら「よく来たね」とあたたかく迎え入れるのだそうです。

従業員と接する野口さん
野口純さん

少年たちは怒られるのに慣れているので、どなっても殴っても全く意味がないと気づきました。そこからは逆に褒めるようにしています。褒めるとなんともいえない顔をするんですよね、恥ずかしそうな。褒めることは怒るよりも数百倍効く薬だと思っています!

実際、ある少年の勤務表を見せてもらうと、当初は無断欠勤ばかりだったのが、だんだんと改善されてきている様子が見て取れました。

さらに、野口さんが大切にしているのがプライベートの時間です。
食事に誘ったり、一緒に釣りやボーリングに行ったりして関係を深め、職場では言えない悩みなどに耳を傾けているといいます。

 

従業員とボーリングに
※写真提供:野口さん

問題児が売り上げナンバー2に!?

そんな野口さんの思いは、若者たちに着実に届いています。
遅刻や無断欠勤ばかりだった従業員の男性が、洗車チケットの売り上げを競うグループ内のキャンペーンで見事2位に輝いたのです。

キャンペーンで2位になったときの社内広報

男性はとにかく1位になりたいと、キャンペーン期間中は毎日出勤したいと野口さんに直談判したということです。

キャンペーンで2位になった男性
「悪いことをしたこともありましたが、野口さんは『過去は過去だから気にするな』って言ってくれて、とても感謝しています。自分のことを分かったうえで雇ってもらっているので居心地がいいです。助けてもらってばかりなので仕事で返すのはもちろん、今後も自分ができることはしていきたいと思っています。」

広がる思い 今後も寄り添い続ける

私たちが取材に入っていた日、ある男性が給油に訪れました。
20年前、野口さんのもとで働いていた元非行少年です。

取材中に元従業員が給油に訪れた

今は自立して自ら建築関係の会社を興し、同じように非行少年たちを雇っているといいます。

20年前にガソリンスタンドで働いていた男性
現在は建築関係の会社を経営

「ここのガソリンスタンドで働いていた時は、みんなすごく自分のことを考えてくれて、それがすごく助かりました。恩返しというか、今度はこっちから何か見せていければと思っていますし、野口さんみたいな人になれるように頑張りたいです。」

父・義弘さんの代から30年近くの間に雇用した若者はおよそ170人にのぼります。
野口さんは今後も、彼らに寄り添い続ける覚悟です。

「信念を持って、これからも諦めずに寄り添い続けていきます。そして1人でも多くの対象者を雇って社会復帰してもらって、立派な大人になってもらう。それが僕の夢です。」

記者の取材後記

法務省によると、再犯によって再び刑務所などに入る人のおよそ7割が出所後に仕事に就けなかった人たちだということで、立ち直りには就労支援が欠かせません。
そうした意味で、野口さんたちが果たしてきた役割は非常に大きいと感じました。野口さんのガソリンスタンドでは、従業員が転職したり独立したりすることを“卒業”と呼んでいるそうです。中には卒業に至らず、突然辞めてしまったり再び非行などに走ってしまうケースもあるということですが、野口さんは「そんな若者たちがいつでも戻ってこられる場所であり続けたい」と話していました。取材後、ガソリンスタンドに顔を出してみると、新しい従業員が増えていました。野口さんの「社会復帰して、立派な大人になってもらいたい」という思いを受け取り、卒業してくれることを心から願っています。
動画はこちら👈から 。

  • 勝海光太朗

    NHK北九州放送局 記者

    勝海光太朗

    北九州に来て1年6か月
    日頃は、事件・事故の取材を担当。

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