高齢者のてんかん 認知症との違い、薬の使い方

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てんかん脳・神経全身手・腕

高齢者で「最近物忘れが激しくなってきた…」「ぼーっとして返事がないことがある」などの様子が現れ始めた方…もしかすると「高齢者のてんかん」かもしれません。

てんかんというと、子どもに多いというイメージが強いかもしれませんが、実は年代別で患者数が最も多いのは高齢者です。超高齢社会を迎えている日本では、てんかんになる方が増えていくと予想されます。

てんかんの年代別患者数の割合

また、最近の研究からも、40歳以上65歳未満に比べ、65歳以上は、てんかんを発症する確率が約3倍に上がることが分かっています。

高齢者のてんかんの原因のほとんどは後天的なもので、最も多いのが「脳卒中」の後遺症によるものです。その他の原因も腫瘍、外傷、加齢に伴う脳の異常など。つまり、加齢に伴い、誰にでも起こりうるのです。

てんかんの症状として、「突然けいれんが起こって倒れる」というイメージを持つ方が多いと思います。しかし、高齢者に現れる症状には特徴があります。それをしっかりと知った上で対処すれば、症状が改善する可能性が高くなります。

高齢者のてんかんを発症したAさんのケース

保育士として働いていた60代後半の女性Aさんは、勤務中、無意識にぼーっとしてしまい、職場で言われたことを忘れることが増え、業務に支障をきたすようになりました。記憶力に自信をなくしたAさんは、「認知症が始まってしまった」と思い、退職しました。

故郷に戻り、Aさんは姉と同居することに。姉の観察により、Aさんは意識がなくなった後1、2分ほどの間、口をぺちゃぺちゃしたり、手や口をもぞもぞ動かしたりするなど、意味のない行動を無意識にしていることが分かりました。

手や口をもぞもぞ動か

その後、脳波検査を行った結果、てんかん特有の脳波が現れました。記憶障害や異変を感じた行動は、認知症ではなく、てんかんだったことが分かったのです。

「記憶がなくなった後、手を動かしたり口をぺちゃぺちゃしたりする」
これは高齢者のてんかんによく見られる症状です。

脳から全身に命令を伝えるため、複数の神経細胞の電気信号が規則正しくバランスよくやりとりされていますが、なんらかの原因で「過剰な電流」が流れると、脳に過剰な興奮が生じて発作が起こります。それが「てんかん発作」です。

てんかんの発作には、脳全体が一気に興奮して起こる「全般発作」と、脳の一部が興奮し、その部位に応じた小さな発作が起こる「焦点発作」がありますが、高齢者のてんかんには「焦点発作」が多くみられます

中でも、高齢者に起きやすいのは、こちらの2種類の発作です。
①意識が次第に遠のいていき、身体の一部が動くなどの発作
②身体の一部が動く発作から全身けいれんが起こり倒れる
Aさんは、①の症状に当てはまります。

側頭葉

とくに興奮が起きやすいのは、「側頭葉」です。側頭葉は、聴覚や言語、情緒などの精神機能や自律神経を司っている部分です。ここに興奮状態が起こると、口をぺちゃぺちゃさせる、急に動きを止めてぼーっとする、もうろうとしてふらふら歩きまわるなど、さまざまな症状が現れます。周りからは認知症の症状に映ることも少なくありません。

また、側頭葉の内部には海馬という記憶に関わる領域もあり、Aさんのように記憶障害が起こることもあります。

高齢者のてんかんで起きやすい発作

具体的には、高齢者のてんかんで起きやすいのは以下のような発作です。

  • 口をぺちゃぺちゃさせる
  • 手をたたくなど意味のない動きを繰り返す
  • どこを見ているのかわからない、反応が鈍い
  • 最近あった重要なイベントを覚えていない

これらの発作はいつどこで起きるかは予測のつかないことが多いのですが、基本的にてんかんの発作は、1人にいくつもの発作が起きるのではなく、毎回決まった部位で起こります。

例えばAさんのように口や手が動くのであれば、口や手を司る部分で電気信号が暴走しているというように、症状によって、脳のどの部分で発作が起きているかは判断できます。特に脳卒中後のてんかんの発作は、焦点発作から始まり、全身けいれんが起きて倒れるケースが多いので、周りからもてんかんだということは気づきやすいでしょう。大切なのは、上記のような「小さい発作」に気づくことです。

実はAさんは当初、物忘れ外来を受診していました。そこで、認知症ではないと診断されたのち、紹介された専門の病院でてんかんと分かりました。そのようなケースはよくあります。てんかんの症状は認知症と似ているので見分けがつきにくいのが現実です。てんかんだとは思わずに、受診さえしていないことも少なくありません。

てんかんと認知症の違いとは?

高齢者のてんかんでは、特に「記憶障害」があると、認知症と勘違いされる人が多いと思います。そんな人のために、てんかんに気づく3か条をご紹介します。

①記憶障害の変動

認知症の記憶障害は「昨日は調子が悪かったが、今日は比較的よい」といったようなゆっくりとした変動ですが、てんかんの記憶障害は「3~30分と短時間で起こる」ことが多く、変動が急です。このような症状がある場合はてんかんの可能性を疑います。

②特徴的な前兆はあるか

高齢者のてんかんは、「側頭葉」に起きやすいことが分かっていますが、その場合は発作の前に“特徴的な前兆”が現れることが多くあります。よくみられるのは以下のような症状で、このような前兆を感じる場合は、てんかん発作の可能性がありますので、注意が必要です。

  • 上腹部不快感(胃袋の上あたりに認める胸やけのような症状)
  • 既視感(デジャブと呼ばれる過去の景色が浮かんでくる現象)
  • 異臭(鉤(こう)発作と呼ばれる嫌な臭い)
  • 動悸および頭痛

③もうろうとした状態での異常行動

てんかんの発作で意識を失った場合、しばらくすると回復しますが、意識は“徐々に”回復していきます。発作後は、興奮した脳が一時的に疲弊状態になっているため、もうろうとすることがあります。まれには20~30分と長時間続く人もいます。中にはもうろうとしたまま、手足を動かしたり、うろうろ動きまわったりする人もいます。そのような場合もてんかんの可能性があるので注意が必要です。

治療法は?

高齢者のてんかん治療の基本は、「抗てんかん発作薬」による薬物療法です。高齢者は比較的効果があらわれやすいと言われていて、発作のタイプにあった薬を服用し続ければ、9割近くの人が発作のない状態になります

てんかん発作は、脳の電気活動の興奮と抑制のバランスが崩れて起こりますが、高齢者のてんかんは、バランスの崩れの程度が小さいため、薬が効きやすいのです。薬が効きにくい重症のてんかんや広範囲に異常が出るてんかんはあまりみられません。

高齢者の中には、他にも薬をのんでいるという方がいらっしゃると思います。その場合は、必ず主治医や薬剤師に相談してください。抗てんかん発作薬の中には他の薬剤の効き目を上下させたり、他の薬によって抗てんかん発作薬の効き目が上下したりすることがあります。他の薬剤との相互作用を気にしなくていい薬を選ぶことが重要です。

薬が効きやすいとはいえ、なるべく発作が起きない状態を維持していくためには、規則正しい生活を心がけることです。特に睡眠不足は、てんかん発作を起こりやすくする原因の1つなので、十分な睡眠をとってください。また、お酒の飲み過ぎにも注意が必要です。

高齢者のてんかんは、たとえてんかんと診断されても薬の効果があらわれやすく、薬をきちんとのみ続ければ発作が抑えられるので、過度に心配せずに、てんかんを疑う症状が出たら早めに受診することが大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年12月 号に掲載されています。

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