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牧草から“アレ”で 「コスト半分」に!?

奄美群島で始まった一石二鳥の取り組み
  • 2024年04月18日

「畜産王国」鹿児島を直撃する飼料価格の高騰。
家畜の餌となる牧草の輸入価格は、ことし1月時点で1トンおよそ5万円。
8年前に比べて2倍近くになっています。

こうした中、これまでは捨てられていた“あるモノ”を使って、この難局を乗り越えようという取り組みが始まりました。それは…?
                              (奄美支局・庭本小季記者)

徳之島の畜産農家を直撃する飼料高騰

古くから「闘牛の島」として知られる徳之島

肉用牛の繁殖も盛んで、県全体の10%を占める1万2000頭を超える母牛が飼育されています。
伊仙町の畜産農家、基山初男さん(63)は150頭の牛を飼育しています。

生まれた子牛を県本土に出荷しています。
基山さんは、近年続く、牛の主な餌となる干し草の価格高騰に頭を悩ませていました。
経営を圧迫しているといいます。

基山さん

飼料価格は1.8倍ぐらいになっています。肥料も全部そうです。ウクライナの戦争の影響が一番響いていますね。もう大変です、本当に大変。

畜産業を守れ!県の新たな取り組みとは?

基幹産業である畜産業の危機をどう乗り越えるのか。鹿児島県が対策に乗り出しました。
奄美群島を管轄する県大島支庁農政普及課の川越尚樹課長です。

川越課長(当時)

自立できるような飼料供給。
そういうシステムを考えないといけない状況です。

県の職員が目をつけたのが、牛と並ぶ徳之島の特産、サトウキビです。

通常、サトウキビの葉は、収穫後、畑に捨てられます。
これを干し草の代わりにできないかと考えました。
成分を分析してみると、タンパク質は若干少ないものの、栄養分は干し草とほとんど変わらず、
牛に与えても体重の変化はほぼないことが判明しました。餌として活用できることがわかったのです。

そこで、ある仕組みを作りました。
畜産農家は、サトウキビ農家から餌となるサトウキビの葉をもらいます。
その代わり、畜産農家からは、牛のふんを堆肥としてサトウキビ農家に提供します。

県が考えた仕組み

お互いが処分に困っていた“やっかいもの”を交換することで、双方がWINーWINの関係になると考えたのです。

動き始めた2つの生産現場

基山さんも去年12月からこの取り組みに参加し、この日、サトウキビ農家を訪ねました。
餌をとなるサトウキビの葉をもらう前に、声をかけていました。

基山さん(左)サトウキビ農家を訪ねる
基山さん

あとからもらいに来ますから、よろしくお願いいたします

サトウキビ生産者

どうぞどうぞ

そして、牛がふだん食べている牧草に近づけるため、サトウキビの葉をロールにして加工。
基山さんは飼料高騰を乗り越えるための“救世主”として、サトウキビ農家との連携に期待しています。

ロールされたサトウキビの葉

一方、基山さんから堆肥を受け取るサトウキビ農家も歓迎しています。

サトウキビ生産者

やっぱりいいですね。今、農協の肥料も高いので助かります

牛においしく食べてもらう工夫も

基山さんの牛舎に運び込まれたサトウキビのロール。
牛たちの反応はどうなんでしょうか?

基山さんの牛舎の母牛 サトウキビの葉を食べる

もう本当によく食べてますよ

始めは、牛たちも新しい餌に慣れず、食べる量が減ったといいます。
そこで、牛が好んでいた干し草に近づけるため、乳酸菌を噴射して十分に発酵させ、根気よく与え続けた結果、食いつきが良くなったと言います。

救世主サトウキビで安定へ

餌をサトウキビの葉に切り替えた場合、コストをこれまでの半分以下に抑えることができ、今後、本格的に導入していきたい考えです。

相当コストは違ってきます。しっかり食べてくれるし、保存もできるので、これからもやっていこうかなって思っているところです。

県はこの取り組みを徳之島だけでなく、ほかの離島でも広め、価格の変動に左右されない畜産業と農業の振興に役立てたいとしています。

川越課長(当時)

地域として自立したシステムが確立されれば、いつの時代であっても外的要因に左右されない畜産経営ができます。ゆくゆくは奄美群島全体として循環型農業を確立することが、われわれが目指すゴールです。

取材後記

鹿児島県の畜産を下支えをしている奄美群島で始まった、まさに一石二鳥の取り組み。
子牛生産とサトウキビ生産の2つの分野で協力しながら振興を図ることはもちろんのこと、実は離島ならではの課題を解決する取り組みでもあるのです。

生産現場が島となると、「耕地できる面積」に限界があります。
子牛生産の農家が、たとえ、みずから牧草を栽培しようとしても「そもそも土地を確保できるかどうか」という問題にも直面するのです。

県は、この取り組みを導入すれば、子牛生産農家は餌を作る畑を「広げる」必要もなくなり、その分のコストも抑えられるとしています。

これまで、島の経済活動において何かと制限を受けてしまうことが多い印象がありました。
しかし、その制限を逆手にとって強みとする今回の仕組み。
島の新たなスタンダードが確立したあと、県全体の農業にどう影響していくのか、今後も注目してゆきたいと思います。

(個人的には、サトウキビの葉を食べた母牛から生まれた肉牛の味が気になるところです!)

  • 庭本小季

    奄美支局記者

    庭本小季

    2020年入局 岐阜県出身 事件事故や防災などの担当を経て現在は奄美支局

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