島々の歩み 未来につなぐ絵本に込めた思い
- 2023年12月22日
ことし12月に日本に復帰して70年となる奄美群島。
戦争やアメリカ軍による統治を子どもにもわかりやすく伝えようと1冊の絵本ができました。
タイトルは「ばあちゃんちのパスポート」。
絵本を通じて、歴史を次の世代につないでいこうとする地元の学芸員を追いました。
NHK奄美支局 庭本小季
始まりは“パスポート”
今月完成した一冊の絵本。
物語の主人公は奄美大島に暮らす2人のきょうだいです。
祖母の家でアメリカ統治下で使われていたパスポートを見つけるシーンから物語の幕が開きます。
戦後8年間、統治下の奄美群島は「外国」で、ほかの地域へ行くには、パスポートが必要だった歴史があります。
祖母は孫たちに語りかけます。
「昔はね、奄美から東京や大阪に行くときはパスポートが必要だったんだ」。
「奄美はアメリカ軍の統治下になったんだ」。
絵本は、島々がたどった歴史をわかりやすく伝えます。
この絵本をつくろうと呼びかけたのは奄美博物館の学芸員、照屋真澄さん(32歳)です。
復帰70年という節目の年に調べてみる、改めて地元の歴史に興味を持つということを子どもたちに伝えたいなと思いました
焦る思い 記憶をどうつなぐ
その裏には、照屋さんにはある思いがありました。
当時のことを知る高齢者が少なくなる中、歴史をつないでいくことに焦りを感じているといいます。
復帰というもう70年前のことなので、どうだったんだろうねと言いながら、調べないといけないようなところもあって、記憶がなくなっていっているということを感じていました。そこに対しての焦りがありました。
どうすれば記憶をつなぐことができるのか。
照屋さんは、次の世代を担う子どもたちに絵本作りに関わってもらうことにしました。
絵本の挿絵を描いてもらうことで奄美が歩んだ歴史に関心を持つようになると考えたのです。
奄美市の中心部にある名瀬小学校に出向きました。
照屋さんの呼びかけに応じたのは5・6年生の子どもたち。
子どもたちに向けて照屋さんは絵本作りへの思いを語ります。
未来に奄美の歴史を伝えていけるように一緒にみんなと考えていけたらなと思って
子どもたちにとって奄美の歴史を絵本にすることがイメージしやすいように照屋さんが用意したのは、博物館の資料です。
戦時中の焼け野原になった奄美の市街地の写真や、高まりを見せた復帰運動のほか、日本復帰を祝い行われたちょうちん行列を紹介しました。
真剣な面持ちで照屋さんの話を聞いていた子どもたち。
思い思いに「奄美の歴史」を絵に表現していき、25枚の絵が集まりました。
復帰の根本にある戦争と向き合う
絵本の中で照屋さんがもっともこだわったページがありました。
絶対戦争はしちゃいけないってことを絵本でも伝えたいと思っています
こどもたちに復帰運動についてだけでなく、このようにも呼びかけていた照屋さん。
戦時中、奄美群島の各地で空襲があり多くの人が犠牲になりました。
当時の名瀬町では中心部の9割が消失するほどの被害が出ました。
奄美群島が統治されるようになったのは、元はといえば戦争が起きたからです。
照屋さんは復帰運動の歴史そのものを振り返るだけではなく、その歴史に向き合う必要があると考えました。
なぜ統治されるに至ったのかという事をしっかり踏まえると、悲惨な戦争の歴史に行き着きます。復帰運動を語り継ぐ事と同じぐらい、戦争をしない戦争の歴史を繰り返しちゃいけないという強いメッセージを込めました。
今までよりも深く、自分が奄美のことについてよく知れたかなと思います
戦争はちょっと怖いなと思いました。そこから奄美の人たちが頑張って
復帰運動したのだと知ってかっこいいなと思いました
復帰の歴史 未来へつなぐ
奄美群島の復帰から70年。
照屋さんは、絵本を通じて奄美の歴史を未来につないで行きたいと考えています。
この絵本が復帰の70年の中で平和について考えるきっかけになってほしいです
取材後記
奄美群島の日本復帰70年の節目のことし、どの方にお話を伺っていても、記憶が失われてしまうのではないかという危機感を口にしていました。復帰当時10歳だった方は、ことし80歳。当時の記憶を次の世代につなぐことが急がれています。
今を生きる子どもたちにわかりやすく伝えるにはどうすればいいか、という思いが絵本の出発点だったと照屋さんは話していました。そして、復帰運動そのものが注目される中、その背景を探ることが、復帰運動を語りつぐ意味なのではないかと考えたといいます。
児童の皆さんが真剣な面持ちで照屋さんの説明を聞いている様子がとても印象的でした。
子どもたちが思い思いに表現した絵で完成した1冊。奄美市内のすべての小中学校に配布され、地域の歴史の学習などに役立てられるということです。