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忘・新年会に変化!?コロナ5類移行後初シーズンでは地域差が?

  • 2023年12月19日

「入社して初めての忘年会ですが行きません。上司に気を遣うイメージがあって…」。
「”感染を避けたいから”と断りましたが、ただ行きたくないだけ。コロナで断りやすくなりました」
新型コロナが5類に移行してから初めての年末年始を迎え、街に出て聞いてみると、忘年会にまつわるいろいろな声が聞こえてきます。
コロナ禍を経て”忘年会離れ”が指摘される中、鹿児島県では意外にも、今シーズンから新たに忘・新年会を開催する企業が多いことが調査結果から分かってきました。

鹿児島局記者 竹脇菜々子

コロナ禍で忘・新年会に変化?

 

信用調査会社の「東京商工リサーチ」が行ったアンケート調査によると、今シーズン、職場での忘年会や新年会について、鹿児島県内ではおよそ63%にあたる企業が「実施する」と回答し、コロナ禍以降、初めて半数を超えました。

 

興味深いのは、コロナ禍からの変化です。今シーズンから新たに忘・新年会の開催を決めた企業が多くみられたのです。
「コロナ禍前は実施していたが、今回は実施しない」と答えた企業がおよそ9%だったのに対し、
「コロナ禍前は実施していなかったが、今回は実施する」と答えた企業はおよそ14%に上りました。

 

ほとんどの都道府県で、コロナ禍後に開催を見送る”忘・新年会離れ”が目立った一方、
鹿児島県のように、今シーズンから新たに開催を決めた企業のほうが多かったのは、
《秋田県・三重県・石川県・岡山県・広島県・徳島県・香川県・愛媛県・福岡県・長崎県・大分県・鹿児島県・沖縄県》の13の県に上りました。

調査を行った信用調査会社は、この結果が”想定外だった”といいます。

(東京商工リサーチ 原田三寛情報部長)
飲み会の自粛が続いたコロナ禍を経て、いわゆる”忘・新年会離れ”が進んでいるのではと見込んで設定した質問でした。
全国的にみれば、おおむねそのような傾向がみられましたが、一方で、今回から新たに開催を決めた企業も一定数いたことは、正直想定外でした。

結果を受けて、信用調査会社は緊急の聞き取り調査を実施し、今回から新たに開催を決めたという企業に、その理由を尋ねました。
全国の30~40社から聞き取ったところ、最も多かったのは「2~3年目の若手社員が開催を希望したから」という回答だったといいます。

(東京商工リサーチ 原田三寛情報部長)
コロナ禍に社会人になったり、学生時代もコロナ禍で過ごしたりした若手社員にとって、忘年会などのお酒の席は新鮮なもののようで、積極的に参加したいという声があったようです。
ただ、調べてみても、地域差が出た理由の特定には至りませんでした。

“酒どころ”だけど…

名前の挙がった13の県をみてまず感じるのが、「酒どころ」という印象ではないでしょうか。秋田県、石川県などは日本酒、九州・沖縄各県は焼酎や泡盛の名産地で、酒を好んで飲んでいる光景が容易に浮かぶ県です。

 

総務省「経済センサス」より都道府県ごとの酒場・ビアホール・バー・キャバレー・ナイトクラブの店舗数を抽出し、同じ年の人口から割り出した

実際に、2021年度の1人当たりのアルコール消費量のランキング(国税庁調べ)では、沖縄県が1位、秋田県が5位、鹿児島県が10位。
そして、2021年の人口当たりの酒を提供している飲食店の店舗数ランキングでは、沖縄県が1位、鹿児島県が5位、福岡県が8位、秋田県が10位。
先ほど挙げた13県が上位に並び、もともと酒を好んで飲んでいる県が多いということは、データからもうかがえます。

職場の忘年会は?街で聞いてみた

 

それでは、なぜ、こうした県でコロナ禍を経て忘・新年会を新たに開催しようという企業が多いのか。鹿児島市の繁華街・天文館で探ってみました。

今シーズン、職場の忘・新年会があるかないかを10人に尋ねたところ、
「ない」と答えたのは医療関係者など2人のみ。ほかの8人は「ある」と答えました。

40代男性
「もともと会社の人と飲んで盛り上がるのが好きなので、楽しみです」
60代女性
「これまでは参加してきませんでしたが、コロナで職場の人と話す機会がめっきり減ったので、せっかくの機会だしことしは参加しようかと」

コロナ禍を経て新たに忘年会の開催を決めた職場に勤める人には出会えませんでしたが、こんな意見もありました。

30代男性
「コロナが5類に移行したあとも、コロナ前より飲み会の頻度はめっきり減り、少人数での開催がほとんどでした。忘年会のように多くの社員が集って親睦を深める機会が貴重になっている分、開催に前向きな企業が多いのかもしれません

専門家 “社縁を求める動きが関係”

それでは地域によって差が出たのはなぜなのか。
酒などの食文化に詳しい、武庫川女子大学の三宅正弘教授は、大人数での飲み会が自粛され、会社でのつながり、いわゆる「社縁」が希薄になったことが要因ではないかと指摘します。

三宅正弘教授
 

挙げられた13県は、地域コミュニティや家族のつながりが強く、どちらかと言うと会社での飲み会よりも地縁を通じた飲み会が非常に盛んな地域だったと思います。
しかし、大人数での飲み会が自粛され、地域の友達や親族と飲む機会がかろうじて残ったコロナ禍を経験して、会社コミュニティ、いわゆる「社縁」で行う飲み会が新鮮に映っているのではないでしょうか。
コロナ禍で地域でのつながりがより強くなった分、逆に外の世界だった会社のつながりをもう少し身近に感じたいという思いが生じてきているのかもしれません。
反対に、大都市や大都市郊外の地域で、コロナ禍を経て”忘・新年会離れ”が大きく進んだのは、こうした地域ではもともと「社縁」のほうが強かったからだと思います。

そのうえで三宅教授は、コロナ禍という「リセット期間」が、それぞれの地域の忘・新年会に新鮮な風をもたらすのではないかと指摘します。

三宅正弘教授

地縁に飽きてきた人が社縁に向かって、社縁に飽きてきた人が家族や地域社会を求めるようになる。いずれにしても新しい楽しみを求める動きなので、地縁・血縁・社縁にこだわらず、楽しみや好奇心でつながる“好奇心縁”のような形になれば、忘・新年会の雰囲気自体も変わってくるのではないでしょうか。

  • 竹脇菜々子

    NHK鹿児島放送局 記者

    竹脇菜々子

    2020年入局。高松局を経て地元の鹿児島局に赴任。鹿児島県政や選挙を中心に取材。

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