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8・6水害|竜ヶ水で救助した海保職員 教訓を伝え続ける

  • 2023年09月04日

30年前の1993年8月6日。記録的な大雨による土砂災害で道路が寸断され、“陸の孤島”になった鹿児島市の竜ヶ水地区では、海上保安庁の船や民間の船が連携して、取り残された1000人以上を助け出しました。救助活動に携わった海上保安庁の職員は、当時の教訓を忘れず、若手職員の指導や訓練にあたっています。その思いを取材しました。 
                            (鹿児島放送局記者 熊谷直哉)

“海上保安庁人生でいちばん”

                「私の海上保安庁人生の中でいちばんすごい災害だった」

日ダカ弘人さん

このように話すのは、串木野海上保安部の次長、日※ダカ弘人さん(60)です。
30年前、潜水士として鹿児島市内で働いていた時、「8・6水害」と呼ばれる大きな災害を経験しました。仕事を終えて自宅で夜ごはんを食べていた日※ダカさんは、「竜ヶ水地区で土砂崩れが発生し孤立している人がいる」という呼び出しの連絡が入り、現場に向かいました。

現場では何が

岸と巡視船の間をボートなどで往復し孤立した人を助ける作業。当初は、順調に進んだといいます。

海上保安庁の救助の様子
日ダカさん

取り残された人を何名か運んだというか乗せたというか。その人たちは元気でしたので、ボートをつけて自分で乗っていかれた。ボートで大きな『巡視船こしき』のほうにつけたあと鹿児島港に入港し、また現場に行ってというのを繰り返してやっていた。

衝撃的なことばが

困難を極めたのが、高齢者が多く入院していた病院からの患者の救助でした。再び土石流が来ないか、緊張を強いられる中での活動だったといいます。

日ダカさん

車いすに乗っている人がほとんど。その人たちをどうやって小さいボートに乗せるか。車いすの背中側を海側に向けて前向きにおろすとそのまま海に落ちてしまうんですよ。ですから逆向きに向けて救助した。

さらに、入院生活が長かった高齢患者の中には、気が動転していて、日※ダカさんが想像もしていなかった行動をとる人もいたといいます。

日ダカさん

10人のうち3人ぐらいが『ここで死ぬからほっといてくれ。そのままにしておいてくれ』という人がいた。運んでいる途中に手をかきむしられながら、『離せ、離せ』と、『もう私はここで死ぬんだよけいなことをするな』と言われながらも、『いや、絶対助けるよ。頑張ってね。助けるよ』と言って運んだ。

犠牲者が出た一方で、孤立した多くの人を助け出すことができた経験が、海上保安官を続けるうえでの心の支えになったと感じています。

日ダカさん

あの時、背筋が凍ったというか。やはり命の尊さというか。命を助けてほしい人たちも、ここで死ぬんだという人たちも、いろんな人がいる中で任務を遂行できた。助けられたのがいちばんよかった

教訓を後輩に伝え続ける

その後も、阪神淡路大震災や各地の台風災害などで活動してきた日※ダカさん。30年がたち、培ってきた知識や経験を次の世代に伝えなければいけないと考えています。

後輩へ指導している様子

6月には、8・6水害について若手職員に語る勉強会で講師を務め、「これからも自然災害は発生するが、それに対して備えることはできると思う」と呼びかけました。

講師を務めているのが日ダカさん

また日※ダカさんが中心となって、串木野海上保安部で続けているのが、暗い夜間に船を安全に着岸させる訓練です。

訓練の様子

厳しい気象条件や停電が起きた場合など、視界が悪いなかでも活動を途切れさせるわけにはいきません。災害時には、日ごろあまり入らない港に船をつける場合もあるため、岸壁の形や深さにあわせて操船する技術や、岸に船を固定するときに距離を正確に測り、ロープを扱える技術などを向上させておかなければならないからです。

あの水害から30年。事前の準備として、地道な訓練を続けることが、多くの命を救うことにつながると信じています。

日ダカさん

災害が起きた時に、船で何ができるのかを考える。自分たちで考えながら、自分たちの船が入れる港に入る訓練を常にやっておくことが大事なんだと伝えている。

取材を終えて

海上保安庁で経験を積んできた日ダカさんの「海上保安庁人生でいちばんの災害」ということばを重く受け止めるとともに、8・6水害がそれだけ大きな災害だったことを実感しました。日ダカさんが若手職員に伝えている「準備の大切さ」。海上保安庁に限ったものではなく、若手の記者である私にも当てはまる事だと強く感じました。NHKでも災害に備えた訓練を日々続けていますが、災害時にどのような取材・どのような伝え方ができるのか。平時から考え続け、準備したいと思います。※ダカはすべて「はしごだか」。

  • 熊谷直哉

    NHK鹿児島放送局 記者

    熊谷直哉

    2020年入局 京都府出身 事件事故や経済を担当 首都圏局での営業部門を経て去年から鹿児島局記者。

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