日曜美術館「故郷は遠きにありて ~絵本画家 八島太郎~」
- 2023年08月24日
鹿児島が生んだ絵本画家・八島太郎
「からすたろう」「あまがさ」などの絵本作品で知られ、全米で最も権威ある児童書賞でみたび次席を受賞した八島太郎(1908-1994)。大戦のわだかまりが残る戦後のアメリカで八島が描いたのは、遠く離れたふるさと鹿児島。幾重にも色を塗り重ねて表現される一つ一つの命、声なき声に寄り添う温かいストーリー。望郷の思いを胸に、ついに帰国を果たせなかった八島の生涯を、作品を通してみつめる。
注目①
米児童文学の頂点を極めた「西部の三巨匠」
八島の名声を一躍高めた絵本作品「からすたろう」(1955)。今も読み継がれる名作はその年の最も優れた絵本に贈られるコールデコット賞で次席を獲得。その後も「あまがさ」(1958)「海浜物語」(1967)で次席を獲得し、ドンフリーマン(代表作「くまのコールテンくん」)らと並び「西部の三巨匠」と称されるまでに上り詰めた。八島作品の大きな特徴は描く線の勢い強さとあえて色を重ねきらないことで表現される色の奥行き。主に生まれ育った鹿児島を舞台にした作品の数々は異国にあって自らの愛する日本を伝えたいと自らの体験などをベースに作られたものだ。
「他にあまりありませんしね。言いたいことは。日本で育って日本で生育したんですから。(中略)自分を今日あらしめてくれたいろんな出来事、楽しかったこと、意味深かったことね。(中略)それを私は大切にして伝えたいという風に考えてますがね。」
(在米日本人向けラジオ放送「児童絵本について」より引用)
郷土愛にあふれる八島の作品の魅力を描く。
注目②
離れねばならなかった日本 帰れなかった日本
八島が米国で画家人生を送ったのにはわけがある。早くから画家を志し、上京した10代の終わりからプロレタリア美術運動に参加した八島。反体制的な風刺画で注目を集めたが、特高警察により運動は壊滅し八島も投獄。釈放後、自由に芸術を追求出来る場所を失った八島が移住したのがアメリカだった。しかし渡米の2年後、日米が開戦。「日本人は狂信的な軍事主義者」という対日プロパガンダがアメリカ国内で繰り返される中、1943年に「あたらしい太陽」(The New Sun)を発表。自らの自叙伝を通して日本人への誤解を解こうとした作品は大きな反響を呼んだ。また、戦争で犠牲になる日本兵を減らせないかと日本兵向けの投降ビラ作りなどにも取り組んだが、「敵国に協力した」との汚名は生涯八島につきまとい、最後まで日本への本帰国は果たせなかった。
「去る者は日々に疎し、故郷は遠きにありて想うもので、僕だけが人々の好意を勝手にありがたがって実現もしない夢を見ているのかもしれないと思うことがないわけではありません」
(友人への手紙より引用)
日曜美術館「故郷は遠きにありて〜絵本画家 八島太郎〜」
<放送日>
Eテレ 8月27日(日)午前9:00~午前9:45
(再放送)Eテレ 9月3日(日)午後8:00~午後8:45
<絵本朗読>
桜庭ななみ
※放送から1週間はNHKプラスで配信します
さらに!9月15日の「かごスピ」でも放送決定!
かごスピ Special
<放送日>
総合 9月15日(金)午後7:57~午後8:42 ※鹿児島県域
(再放送)総合 9月17日(日)午前8:00~午前8:45 ※鹿児島県域
※放送から1週間はNHKプラスで配信します
番組ディレクターから
今回の番組では八島の絵本を鹿児島出身の俳優・桜庭ななみさんに朗読していただきました。これらの絵本は八島がアメリカで最も評価を受けた作品群であるとともに、今の私たちが八島太郎に気軽に触れることができる数少ない手段です。放送をご覧になられた方が八島太郎の作品に浸り、実際に手にとってみたいと思っていただける番組になっていたら幸いです。