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Do!|#02 Maekawa Frank Mitsuru

  • 2022年10月31日

なぜその番組を作ったのか?コンテンツに込めたメッセージとは?NHK北海道の職員、作り手たちの情熱や想いに迫るインタビューシリーズ「Do!」 第2回では、報道取材を担当する前川フランク光カメラマンに話を聞きました。 

〔Photo By 出羽 遼介〕
〔聞き手 富浦 麻穂・柳川 達郎(NHK札幌局広報)〕
※感染対策を十分にとったうえで撮影しています

―普段はどんな仕事をしているのですか?

主に「ほっとニュース北海道」などのニュース番組の映像を撮影しています。他には、ヘリに乗って事件・事故の映像を撮ることもありますし、大自然を撮影したりスポーツ取材をしたり、ありとあらゆる現場にカメラを担いで映像を撮ってきます。

―撮影だけでなく、リポートをすることもあるのでしょうか?

そうですね。問題意識をもって「こういう取材をしたい」というのを上司と相談しながら、自分でリポートをすることもあります。なかなか説明が難しいのですが……カメラマンなんですけど、時にはディレクター的な仕事もするし、記者のような仕事もします。
今の時代、みんながスマートフォンや一眼レフを持っているので、「NHKのカメラマンとしてどういうものを世に出すか」ということはすごく考えますね。どんな現場であっても、自分で足を運んで取材するということを常に意識しています。

―ドラマや音楽番組のカメラマンではなく、なぜ報道カメラマンという仕事を選んだのでしょう?

もともと趣味で写真を撮っていましたし、映画もすごく好きで、将来は何らかの形で映像に携わる仕事がしたいなと思っていました。
高校に入学するタイミングで起きた東日本大震災の影響も大きかったです。ボランティアとして被災地に行った際、ある男性が「ありがとう」と声をかけてくれたのですが、まさかそんな言葉をかけられるとは思わなくて。家をなくしたり家族を亡くしたりしたかもしれない状況の人が、ボランティアに来た人間にそんなことを言えるのかと驚きました。
その時に、人間の奥深さを感じた気がします。ただ映像を撮るのではなく、取材者として現場に入って人の心に寄り添う――その瞬間を映像として人に伝えられる報道カメラマンという仕事に興味を持ちました。

―学生時代から映像の勉強はしていたのですか?

趣味でカメラを片手にいろいろなところに行っていました。でも、具体的にどういう映像が人に伝わるのかという専門的な知識を学んだのは入局してからです。周りの同期を見ても、映像を昔から勉強していた人は少なくて、ほとんどの人がNHKに入ってから知識を学んでいきます。

―これまではどんな企画や取材を担当しましたか?

私は特に国際問題と自然環境に関心を持って取材しているのですが、中でも一番皆さんに見て頂いたのはコロナ禍の国際結婚を取材した番組ですね。アメリカに住む女性と結婚した日本人男性に密着したもので、なかなか会うことのできない現状を約半年間かけて取材しました。

―もともと「シラベルカ」に投稿をいただいたのが取材のきっかけだとか。

そうです。「シラベルカ」という、視聴者の皆さんから困りごとや疑問を投稿いただいて、それを調べるコーナーがあるのですが、昨年の冬に投稿いただいて取材がスタートしました。
2021年2月に一度放送したのですが、その段階ではまだ奥さんと会うこともできず、緊急事態宣言も発令されていてどうなるかわからない状況でした。その後も取材を続けていたところ、5月に奥さんがアメリカから来られることに。当事者のご夫婦は1年半以上会えていないという状況だったので、再会の場面に立ち会わせてもらえるかどうかは難しい部分でしたが、お二人の同意を頂いて、最後まで取材をすることができました。

・コロナ禍の国際結婚、家族でも入国できない理由 #41
・コロナ禍の愛は国境を越えて シラベルカ #41続報

―再会の瞬間は本当に感動的でした。

お二人の協力がなければあり得なかったシーンですね。大切な瞬間に立ち会わせていただいて感謝していますし、とても貴重な経験をさせていただきました。撮影の際はいつもの大きいカメラではなく小さいカメラで密着するようにしました。

―なぜ小さいカメラを?

カメラって実は暴力的な存在で。すごく圧力があるし、撮られる人の心理的な重さは間違いなくあると思います。いかに対象者と取材を重ねて信頼を得たとしても、どうしてもカメラの負担は大きいもの。
肩に担ぐタイプの大きいカメラの方が綺麗な映像は撮れますが、映像のクオリティ以前にカメラもその場をつくりだす1つの要素だと思っているので、大きいカメラだから良いというものでもないんですよね。その瞬間にどのくらいの濃度で立ち会えるか。それを考えた際に、今回は小さい手のひらサイズのカメラがベストかなと思いました。

―なるほど。カメラ選びも非常に重要なのですね。

昨年、胆振東部地震から2年のタイミングで、仮設住宅に住んでいる方たちに話を聞きに行ったことがあるのですが、大きいカメラってすごく負担というか……撮られているという意識がどうしても強くなりますし、そもそも取材するということ自体が地震の経験と結びつきます。カメラがあることで嫌な思い出につながってしまう。そういう経験があってから、第一に考えるべきは取材対象者であって、カメラは最後の最後に「どれにしようかな」と考えるものだと私は思います。

―この番組は「ニュースウオッチ9」でもとりあげられましたが、反響はありましたか?

国際結婚の当事者からの反応が多かったです。これまでは当事者同士のネットワークが少なくて、悩みを相談できる環境もあまりなかったという実態がありました。それが全国放送で発信されると、「私もこういう悩みがあります」とか、「同じ悩みを持つ人がいると知ることができて良かった」という声を多くいただきました。
私自身、父がカナダ人で母が日本人ということもあって身近な問題だと感じていたので、今回の放送を通じて悩みを持つ方々の声を届けることができたなら嬉しいです。
また、国際結婚をしていない人からも好意的な意見が多かったのが印象的でした。これまで概念として「こういう人もいるのだ」と知っている人はいたかもしれませんが、明確な事実として認知していただけたのが良かったと思います。

―頭で認識するのと、実際に目撃するのとではだいぶ違いますよね。

取材を深めることで、今までそうした問題とかかわりがなかった人からも理解してもらえたり、耳を傾けてもらうきっかけを与えることができたのではと思います。だからこそ、ものすごくしっかりした取材をしないといけないという責任にもつながるのですが。
いろいろな悩みを抱えている人が世の中にはいて、そうした悩みと関係がない人にとっても対岸の火事にはさせないというか、他人事にはさせない力を感じました。

―今まで隠されてきたけれど、表面化して多くの人に目撃されるべき課題というのは世の中にたくさんある気がします。

本当にそう思います。私は、どれだけ視点を低くもっていられるかが大事だと感じています。取材者という立場ではありますが、感覚は常に足元に置き続けていきたいと思っています。というのも、被災者の取材をしていると、自分の想像も及ばないところで苦しんでいるケースが多いのです。いかにそういう苦しみを聞き続けてくみ取って、カメラマンとして映像に反映させるか。そこに尽きると思います。

―そうした取材する側の想いというのは、映像にも表れるものなのでしょうか?

すごく表れますね。同じカメラでも人によって描く映像はまるで違います。なので、自分が何を伝えたいかということをまず考えるようにしています。録画ボタンを押すのは本当に最後の瞬間です。
どれだけ相手に受け入れてもらえるかという点でも撮れる映像は違ってきます。カメラマンである以上に、人としてどれだけ受け入れられるのか。そうした部分は映像に反映されると感じます。

―取材対象との距離の測り方など、気をつけていることはありますか?

特に報道の場合、苦しい状況にいる人だったり、これから何か挑戦しようとしている人など、カメラマンとしてその人の頑張っている姿を追うことはできるけれど、その人そのものにはなれない。思いに寄り添うことはできるけれど……寄り添うってすごく難しい話だと思うんです。
その人になることはできないけれど、カメラマンとしてカメラを向ける上で「ちゃんとあなたのことを伝えますよ」ということを誠意をもって示していくことが大事だと思います。


―100%理解するのは難しいですし、簡単に「理解できる」と言ってしまって良いものでもないですよね。

100%は理解できないけれど、その上で何を伝えていくのか。「この人かわいそうだな」とか「大変なんだな」とか、それだけではなくて、その人の抱えている“複雑さ”というものをどれだけくみ取ってあげられるか。例えば被災地の現場だと、苦しい日々の中にも喜びがあるはずだし、喜びの瞬間の中にも大事な人を亡くした影のような感情もあるだろうし。そういう複雑さをくみとってあげられる人になりたいなと思いますね。

―表面的な部分だけでなく、その人の抱えている背景をくみ取っていく。

そうですね。人の感情ってとても複雑なので。いろいろな層が入り混じった心情にカメラを通して“対面”していく。そういうことだと感じます。

―国際結婚の番組は、海外にも発信されました。

英語版の記事も私が書いたのですが、思った以上に皆さんに読んでいただくことができて嬉しいです。NHKの記事は比較的日本人に向けたものが多いですが、今回は英語圏の方もたくさん読んでくれました。今後は、日本語だけではなく英語でも積極的に発信していきたいと思っています。
北海道って、世界からも注目されている地域なんですよ。多様な人に興味を持ってもらうという意味でも、英語での発信はすごく効果的だなと感じます。

―意外と英語版の記事って少ない気がします。

そうなんですよ。日本の隅々まで取材できることがNHKの良さであり、そうした日々の取材の中で海外の人も面白がってくれる情報はたくさんあると思います。
そうした観点で考えると、地方局の取材は宝の山だなと思っていて。ステレオタイプな日本のイメージは外国の方は見飽きているので、意外とデイリーニュースやちょっとした日常を切り取った短い記事の方が、興味を持って読んでくれる人が多い気がします。

―よりリアルな暮らしや人の情報は、地方局のニュースの方が多いかもしれませんね。

そういう意味でも、国内外の多くの人に読んでもらうために英語で発信していくというのは、今後の地方局からの新しい発信の形と言えるなと感じました。

―他に、これまでで印象に残っている取材はありますか?

うーん……国際問題とはだいぶ方向性が違いますが、クマゲラですかね。

―クマゲラ?

たまたま新聞でクマゲラのひながいると知って観察に行ったら、ひなが2羽、今にも空にはばたくというタイミングだったんです。
初めて空を飛ぶことに対するひなの怖さや、それを見守る親鳥の「頑張れ」というような鳴き声だったり、鳥が飛ぶまでの間をダイナミックに撮影することを意識しました。思えば、これがNHKに入って初めてカメラを担いで自分で取材した瞬間でした。

―ジャンルが本当に多岐にわたりますね。

全然違いますよね(笑) これは北海道ならではだと思います。外国の方も多いですし、自然も多い。札幌局に配属されて良かったです。

―ちなみに、NHKに入る前に北海道を訪れたことは?

実は、写真が好きで世界中あちこちに行っていたのですが、北海道だけは行ったことがありませんでした。縁がなかった北海道でこうして仕事ができているのは、運命かもしれませんね。当初の配属希望は沖縄放送局だったんですよ(笑) 結果として真逆のところに来たんですけど、今では永住したいと思うくらい、北海道に来て良かったなと感じます。

―北海道の印象はどうですか?

北海道の皆さんは、以前から知り合いだったのかと思うくらいフラットに受け入れてくれる方が多くて驚いています。先日も取材で農家の方を訪ねて話をしていると、「とれたての牛乳をあげるよ」と言われておいしい牛乳を頂いたことも。抵抗なく受け入れていただけるのは有難いです。

―逆に、課題だなと感じることはありますか?

札幌にいるとなかなか感じられませんが、地方に目を向けると、高齢化や過疎化がすごい勢いで進んでいる側面があります。どの地域も魅力があるのに、それを生かしきれないまま、だんだん地域が寂しくなっていく……取材をしていると時折そう感じる部分もありました。
最近では、若い人たちが地域に行って盛り上げようという流れが来ている気がしていて、そうした動きが各地で広がれば、北海道全体の魅力もさらに増すのではと思います。

―北海道とひとくくりで語られがちですが、地域ごとに見てみると結構違いますよね。

道南と道北でも違いますし、地域によって文化も人も違います。北海道としての魅力はもちろんありますが、中身を広げてみるとあふれ出てくるようないろいろな種類の魅力があると思うので、「ローカルフレンズ滞在記」ではないですが、あちこちに“宝”が広がっているように思います。

―その「ローカルフレンズ滞在記」では、今度足寄町に滞在するそうですね。

そうなんです。放送時期は未定なのですが、今年の夏に挨拶を兼ねて足寄町を訪問しました。とても自然豊かなところで、個人的にもキャンプやドライブで何度か行ったことがあったので、滞在が決まった時はとても嬉しかったです。

―どんな番組になりそうですか?

今はコロナ禍で先行きが見えないし、何に頼ったら良いか、そういうものがなかなか見つけられない時代だと感じていて。その中で足寄町の皆さんは、自分の力や地域のネットワークの力を使って「今あるもので何ができるだろう」と楽しそうに語ってくれる人が多いなと感じます。そうした姿には非常に勇気づけられました。
苦しい状況にある中でも「自分にもきっとこんなことができるんじゃないか」と、そう思ってもらえるような番組にしたいです。

―ディレクター以外の職種の人が滞在するのは初ですが、意気込みをお願いします。

通常の番組制作ではNHK側が主体的に取材をして編集していきますが、今回は足寄町で出会う人たちといかに共同作業に持ち込めるかが鍵かなと思っています。みんなで一緒につくりあげていく。その感覚を持ち続けたいです。

―今後、取材してみたいテーマはありますか?

国際問題や自然に関する取材は今後も続けていきたいです。もしチャンスがあれば、大学生活を過ごした土地で、かつ父の出身地でもあるカナダをとりあげたいですね。カナダは日本とかかわりの深い国なので、「カナダと日本」というテーマで何か取材をしてみたいです。
一方で、地域に関する取材も深めていきたいという思いもあります。全国各地に放送局があるというのがNHKで働きたいと思った理由の1つなのですが、「実はこんな面白いことがあなたの町にもあるんですよ」と、地域に根差した取材もしてみたいです。自然や国際という大きなテーマとは対照的かもしれませんが、自分が生きている町や、すぐ隣の地域といった身近な土地や人に関する取材もこれからやっていきたいと思います。

―最後に、今後の目標を教えてください。

カメラマンである以前に、一人の表現者として、今自分はどういう時代に生きていて、出会った人たちをどういう風に皆さんに伝えていくかというのを常に考えていきたいです。その時代に響くものを表現できる人になりたいですね。先が見えなくてすがるものがない時代に、どう生きていったら良いかを伝えていく1つの手段がカメラである――そんな風に思います。

前川フランク光 – Maekawa Frank Mitsuru
2020年入局。札幌拠点放送局放送部映像取材カメラマン(2020〜)
新潟県出身。趣味はキャンプとスキーと映画鑑賞。

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