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胆振東部地震5年 次の大地震に備えてVRで被災の“想像”を

  • 2023年9月6日

 目の前に迫り来る茶色い濁流。そして押し流される多くの車。いつもの風景が一瞬で変わってしまうのが、巨大地震と大津波だ。
北海道民の記憶に強く残る胆振東部地震から5年がたった。道内で「次の大地震」として懸念されているのが、千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震だ。今、生きる人たちが経験したことがないような災害をVR=バーチャルリアリティーで疑似体験してもらい、防災意識を高めようという取り組みが道東の浜中町で始まっている。
(釧路局記者 島中俊輔)

「津波に流される」恐怖を体感

「ああ、流されるーーー」
そう、錯覚してしまうほどの臨場感だった。千島海溝沿いの巨大地震で想定される大津波のVR動画を私も体験した。専用のゴーグルをつければ、360度周囲を見渡せる。防潮堤を乗り越え、目前に迫る津波。そして車道を勢いよく流れる茶色い濁流に足下をすくわれるような感覚を覚えた。いくばくかの恐怖も感じた。

過去に経験のない大津波を“疑似体験”

このVR動画を作成したのが、道東の浜中町だ。
道の想定で町には最大20.3mの津波が押し寄せると推計。最悪の場合2700人が死亡するとされていて、そのほとんどが津波が原因になると考えられている。
浜中町は過去に繰り返し津波による被害を受けてきた。
1952年の十勝沖地震、その8年後のチリ地震でも大きな津波被害が出た。特にチリ地震津波では死者11人、住宅被害は500戸あまりにのぼった。ただ、大きな被害が出た津波災害からはすでに半世紀以上が経過。被災経験を持つ人も高齢化が進んでいる。そこで目をつけたのがVRでの“疑似体験”だった。

浜中町防災対策室 石塚豊室長
「今の私たちの世代も含めた若い世代はなかなか実体験として大きな津波を経験していない。津波の脅威や恐ろしさを伝えるために、よりリアルに疑似体験できるVR動画を作成した」

1960年チリ地震津波/浜中町

津波の前には巨大地震、そして避難する際にも危険性が

このVR動画、津波が迫り来る様子を体感できるだけではない。
まず緊急地震速報が表示されると画面の揺れとともに、足下の地面に亀裂が入り始める。その後、高台に向かって避難していく人たちが「防潮堤が閉まるぞ」「急げ」などと走る様子も見られる。そして避難する途中には、倒れた電柱や街路灯が道路をふさいでいる。車で避難しようとする人もいるが、渋滞になってしまっている様子も盛り込まれた。
津波の恐ろしさだけでなく、避難の時にどのような行動をとればいいのか、どのような危険性があるか伝えているのだ。

浜中町防災対策室 石塚豊室長
「大津波が来る前には巨大地震が発生する。そうすると、道路にひび割れが起きたり、電柱や街路灯が倒れたりといった状況が起こりうる。それによって当然車も通行できなくなったり、渋滞が起きたり、そういうリスクが非常に高くなることを知ってもらうことも重要だと思っている」

学生たちも“自分ごと”に

9月1日。関東大震災から100年を迎えた防災の日のこの日、内陸にある浜中町の茶内中学校で防災学校が開かれた。生徒たちにまず最初に見てもらったのがVR動画だ。周辺では津波の浸水のおそれはないとされていることから、生徒の津波に対する意識はそこまで高くはないという。ただ沿岸部に出かけることもある中で、津波災害を「他人事ではなく、自分ごとに」してもらおうという狙いがあった。VR動画が流れると、生徒たちは真剣なまなざしで見入っていた。
いつも見ていた自分の町の風景が変わるーーー。
いつ来るかはわからない。ただ必ず来ると言われている巨大地震と大津波へのイメージが少しは届いたように感じた。

VR動画を見た中学生
「リアルに感じるので、少し怖いなと思った。よく海沿いに遊びに行くので、津波に巻き込まれないようにしようと思った」
「VRで津波の映像は見たことがなかったので、斬新だった。実際に地震が起きる前に避難対策などをしっかりやっておくべきだと思った」

浜中町防災対策室 石塚豊室長
「浜中町の場合、地震発生から20数分で津波が到達するという短い時間しかない。地震が起きたら、大きい津波が来る、すぐ避難しなければならない。そういう意識をなんとしても高めてもらいたい」

取材後記:いつか来る「その日」をイメージする

浜中町では学校での防災教育だけでなく、町内会の集まりなどでもこのVR動画を見てもらう取り組みを進めている。VRを体験した人の反応は「驚き」が多いという。過去に経験したことがない、防潮堤を乗り越えるような大津波は見たことがない人がほとんどだ。
いつか来る「その日」、もう驚かずに、すぐに避難という行動に移すことができるようになるためのきっかけにしてほしいと感じた。

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