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釧路町 “町に来てくれたあなたの命も守ります”

  • 2023年7月13日

休日の昼間。冷蔵庫に野菜も魚もなかったな、買い物へ行こう。あの話題の映画、まだ見ていなかったな、映画館へ行こう。ゆっくり休日を楽しんでいるさなか、突如として起きる大地震、そして押し寄せる津波―――。
地震はいつ起きるかわかりません。こんな休日があなたの未来にはあるかもしれません。千島海溝沿いの巨大地震と大津波の被害が懸念される中、道東の釧路町では町民はもちろん、町を訪れている人たちの命も守ろうという取り組みが始まっています。
(釧路局記者 島中俊輔)

道内最大26.5m 大津波想定される釧路町

道東の釧路町は人口1万8000人あまりのコンブ漁など漁業が盛んな町です。道の想定では、千島海溝沿いの巨大地震と大津波で道内で最も高い最大26.5mの津波が押し寄せ、最悪の場合5700人が死亡すると想定されています。
特に被害が懸念されるのが近くに高台や高い建物がないセチリ太地域です。最も早いところで地震発生後30分程度で最大5mの津波が押し寄せ、避難場所まで500m以上離れている場所もあります。
このため、町は4基の津波避難タワーを建設することにしました。この4基で1600人の住民が避難できる計算だということで、今年度から建設が始まります。

釧路町防災安全課 藤井正樹課長
「なかなか高い建物がないことが課題で、今は緊急避難場所の指定も足りない。想定される巨大地震と大津波が来た時に避難が間に合わない地域に住む人たちを守るため、津波避難タワーという選択肢になった」

津波避難タワー建設予定地を案内する藤井課長

命を守るのは町民だけではない

一方、釧路町が懸念しているのが、町内を訪れる多くの人たちの存在です。
セチリ太地域は郊外型の大型商業施設やレストランなどを多数抱えていて、特に平屋建ての大型店舗が多いのが特徴です。

休日になれば、町内だけでなく、周辺からも多くの人たちが訪れ、休日の昼間は人口の1.35倍の人が訪れるという推計結果があります。しかし買い物や遊びに訪れた人たちに津波の避難について尋ねてみると、避難先を意識したことはないという声が大半でした。

釧路町を訪れた周辺市町の人たち
「どこに逃げればいいか、釧路町民じゃないからわかりません」
「今、ここで津波が来ると言われたら、迷ってしまうと思う」

釧路町防災安全課 藤井正樹課長
「例えば買い物や飲食をしている時に突如、災害に襲われた時には、釧路町に土地勘がない人たちは右に逃げていいのか、左に逃げていいのかが、全くわからないのが現状だ。そういった方々の災害時の避難というのが大きな課題になっている」

大型施設に買い物客を受け入れてもらう

そこで釧路町は6月、新たな協定「大規模災害時における買い物客等の避難支援の協力に関する協定」を結びました。町内に2階以上の大型店舗を持つ商業施設や鮮魚店、家具店などあわせて9社が協定の相手です。店に来た客だけでなく、周辺の店舗などを訪れている人たちも受け入れてもらおうというものです。

協定を結んだ施設の1つ、町内にあるゲームセンターを訪ねました。1階部分の入り口脇にある階段を上っていくと、2階には広大なスペースがありました。ふだんは使われていないスペースを緊急時には一時的に避難してもらう場所として開放することにしたのです。

協定締結のゲームセンター管理運営会社 菊地勇 北海道エリア統括店長
「もし大規模災害が起きた時に救える命があればと思い、町と協定を結ばせてもらった。まだ協定を結んだばかりなので、これから避難訓練なども実施していきたい」

協定を結んだゲームセンター・一時避難場所となる2階のスペース

“町を訪れる人も町の財産”1人でも多くの命を守りたい

協定を締結後、町が進めているのが協定を結んだ店舗の周辺にある平屋建てや小さな店舗への周知活動です。セチリ太地域に100以上ある店舗を町の職員が1つ1つ回って協定の概要などを説明しています。▼避難先を示す看板の設置や▼店内放送に防災無線を接続することなどを協力して進め、町を訪れた人たちにいざという時にはすぐに避難を始めてもらおうと考えています。

町から説明を受けた店舗の人たち
「大規模災害はいつ起きるかわからないということで、私たちにとっても心配事だった。人命に関わることだと思うので、迅速にお客様や地域の人を誘導できるのはとてもいいことだと思う」
「前もって避難場所の確保がわかっていると行動しやすいので、私たちも色々と考えていきたい」

釧路町防災安全課 藤井正樹課長
「津波の避難で重要なのは2つ、▼的確な避難誘導と▼正確で早い情報伝達。このために店内に防災行政無線を流したり、避難看板を設置したりしていきたい。究極の目標は災害時の被害ゼロを目指すところだが、災害対策に終わりはないので、1人でも死者数、負傷者数を減らしたい」
「町民はもちろんだが、町を訪れる人もその町の1つの財産だと思っている。町民、町を訪れる人を守るという姿勢は、大切なこの町・地域を守っていくんだという姿勢を対外的に示す機会にもなると思っている」

店舗を回って協定について説明する藤井課長ら

取材後記

釧路生活もまもなく3年目。釧路市に住んでいる私(記者)も、休日になると釧路町へ買い物に出かけたり、夕ご飯を食べに行ったりするのは当たり前の日常となっています。
しかし、地震はいつ起こるかわかりません。仕事柄、地震発生時には取材を開始できるように構えておこうと日頃思っている私でさえ、休日に大地震が発生したらあわててしまうだろうなと今回の取材を通して改めて思いました。
そして今回の釧路町の取り組みは、防災としての側面だけでなく、安心して買い物などを楽しめる魅力的な町をPRするという町作りの側面もあると感じています。買い物客などだけでなく、観光も盛んな道東。自治体は訪れる人たちの命を守るための取り組みを進めてほしいとは思いますが、その場所に訪れる私たちがいざという時にどこに避難するか考えておくことが、命を守るためには最も重要だと思います。

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