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避難施設に入れない?その理由と対策は?

  • 2024年4月2日

津波が予想される大地震が起きた場合には、避難施設に逃げ込むなどして安全を確保することが大切です。しかし、能登半島地震では津波警報が出る中、避難場所のカギが開かず、中に入れない事態が相次ぎました。こうした事態は道内でも起こる可能性があり、対策が模索されています。(苫小牧支局 臼杵良)

避難施設に入れないのはなぜ?

こちらの写真。2024年の元日に発生した能登半島地震の際、富山県にある緊急避難場所の小学校で撮影されました。建物の外に設置された階段に人が集まっているのが分かります。この場所にはおよそ400人が来たということですが、正月ということもあって学校のカギを管理している担当者がすぐに来ることができなかったのです。

結局、避難してきた人たちは、自治体から許可を取ったうえで窓ガラスを割って入り、中からカギを開けました。被災地ではこうした事態が相次いだということです。

避難施設のカギの管理の方法は自治体や各地の施設ごとに決められていますが、このうち小中学校については近くに住む担当者が管理し、緊急時に駆けつけるという運用が少なくありません。このため、こうした事態は多くの場所で起こりうると想定されており、対策が模索されています。

 

町内会で独自に避難施設を確保

およそ16万7000人が暮らす北海道第4の都市・苫小牧市。日本海溝沿いの巨大地震では早い地点で40分後に津波の第1波が到達し、死者は最大で4万人にのぼると推計されています。浸水が想定されている面積は道内で最も大きく、1万ヘクタールを超えています。

市は、およそ230の建物を津波からの緊急避難場所や避難ビルに指定していて、この中には40近い小中学校が含まれています。学校のカギは近くに住む2人の担当者が所有し、緊急時に扉を開放するというルールになっていますが、現在は、常時、学校の近くにいるという体制までにはなっておらず、市では、緊急時に避難場所を開けられない可能性は否定できないとしています。

こうした状況に不安を募らせているのが、西部の桜木町で町内会長をつとめる三澤伸吉さんです。

桜木町町内会 三澤伸吉 会長
「有事の際に担当者がすぐ対応できないのではないかと懸念しています。町民の安全を守るためにはとても不安です」

そこで、町内会では2022年に独自の方法で安心して避難できる場所の確保へと動きました。地域のクリニックと協議を重ね、一時的な避難施設として使えるよう協定を結びました。クリニックの大きな強みは夜間休日であっても警備員が常駐していることで、24時間365日、確実にカギを開けることができます。

協定の締結を受けて、クリニック側は、リハビリ室や大会議室など4階の3つの部屋を活用して200人を受け入れる準備をしています。

医療法人社団 苫仁会 神谷喜一郎 理事長
「1月に能登半島地震が起きて改めて津波がすごく身近な存在になりました。医療関係者ですから、命を助けることに対して重い使命感みたいなものがあります」

この取り組みには苫小牧市からも理解を得ました。三澤さんは今後も避難できる場所を開拓していきたいと話します。

桜木町町内会 三澤伸吉 会長
「不安だらけではありますが、警備員さんが24時間いるクリニックさんは避難場所として逃げ込むには最適だなと思っています。1か所だけでなく2か所、さらに3か所というようなことも模索しながら、これから災害対応を進めていきたいと考えています」

 

苫小牧港には自動解錠システム

また、いつでもカギを開けられるようにするための仕組みを整えた場所もあります。それが苫小牧港に隣接する場所にある物流会社の建物で、津波避難ビルに指定されています。

港では夜間や休日を問わずに働く作業員などを守るため、迅速に、そして確実に避難施設を開放することが求められています。

そこで導入したのが自動解錠システム。ふだんはカードキーがないと玄関が開きませんが、緊急時には自動的に開くようになっています。

建物には気象庁の発表を受信する端末があり、津波の警報が発表されると自動でカギが開くほか、誘導灯が点滅したり、避難を促す屋外放送が流れたりする仕組みになっています。

この建物では、4階にあるホールに300人、屋上には800人が身を寄せることができます。

この会社がこうした取り組みを行うきっかけとなったのが2011年の東日本大震災でした。当時、仙台港にあった支店にも津波が押し寄せ、地元の住民や港湾業者など100人あまりを受け入れた経験がありました。そして、実際に被災したからこそ、自動で安全な状況をつくることに大きな意義があるとしています。

苫小牧埠頭 目黒敬之 常務取締役
「大震災になると、私の経験上、パニックになってしまいます。そうなると、われわれが操作をして避難ビルを開けるということではなく、自動的に開放になって、皆さまにご利用いただくという仕組みが大切かと思います。こういう動きが全国に広がってくれれば、より港で働く人たちの安全が守られ、安心して働けると思います」

 

取材後記

避難施設に指定されている場所の多くは、日頃は別の用途で使われているため、セキュリティー対策も欠かせません。ただ、1分1秒を争う津波からの避難において、施錠されていて使えないという事態が起きれば、私たちの安全にも直結します。

避難施設の施錠については、道内の自治体でも対策を進めていて、蹴破って入れる扉を設置したり、カギを入れた箱を学校の玄関に用意して、緊急時に解錠できるようにしたりするなどの工夫をしているところもあります。

苫小牧市としても危機感を強めていて、現在、市内の事業者と避難場所となっている学校のカギを遠隔で解錠するシステムが導入できないか協議を進めているということです。

「千島海溝」や「日本海溝」でマグニチュード9をこえる巨大地震と津波が発生した場合、道は、最大で14万9000人が死亡すると推計していますが、早めの避難などを進めれば被害は大幅に減らすことができるとしています。

住民の命を守るためにどのような環境整備を行っていくのか、今後も取材していきたいと思います。

2024年4月2日

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