町に生きる人々の声を残す 中頓別町・銭湯の物語
- 2023年8月4日
中頓別町での1カ月の滞在も終盤。町でお菓子やカレーを販売するローカルフレンズの中野巧都さんが、町の中心部にある銭湯「黄金湯(こがねゆ)」に連れてきてくれました。
銭湯の番台(受付)で、常連さんたちと仲睦まじい様子で話す方を発見!
こちらが植村友貴さん。町へ移住して2年目の現在30歳。中頓別町役場の保健福祉課で地域おこし協力隊員として働きながら、毎週日曜日はここへ座っているのだとか。
植村さんは大学時代に卒業論文の調査として中頓別町にやってきました。そして調査を進めるうちに町や黄金湯のことが好きになり、大学院進学後に移住を決めました。
実はこの黄金湯、2年前に一度廃業になっています。銭湯に想い入れがあった植村さんは、常連さんや仲間と共に銭湯を復活させようと立ち上がりました。その名も「中頓別をあっためる会」です。
ボランティアで運営する仕組みをつくり、再び黄金湯は町に欠かせない憩いの場になっていったのです。
植村さん「いろんな立場の人、いろんな状態の人が、地域でその人らしく生きられるような地域社会であってほしいなって」
ある日、植村さんがとある人のもとへ連れていってくれました。
炭焼き職人の岩田利雄さん。銭湯に長らく通う常連客でもあり、再開時には薪をいっしょに準備するなどして活動を応援してくれました。
そして銭湯の復活から、もうひとつの物語が生まれます。
銭湯の番台に座るようになった植村さん。岩田さんをはじめ、銭湯にやってくる町の人々とたくさん話すようになりました。
そこで聞いた、お年寄りが語る昔話の数々。過去の中頓別町の暮らしや人の姿が見えてきたのです。
地域の貴重な記録として残したい、そう思うようになった植村さん。母校である北海道大学の教授や学生たちと「聞き書き」を始めました。
植村さん「ふつうは書き残されることの少ない、地域に生きる一人ひとりの体験してきた生活そのものとか、そういうことこそをちゃんと書き残さないといけないんじゃないかなって」
こうして1年半をかけて完成した『聞き書き中頓別 北海道中頓別町の人と暮らし』。9人の語りが綴られています。
本の中には、炭焼き職人の岩田利雄さんの物語も。
窯を作るときに土を叩く作業があるんだけど夏の暑いときなんか男の人がパンツ一枚になってやるんだ
できたつもりで火を焚いたらそこが軟らかかったもんだから夜中に崩れ落ちちゃったの 危うく火事出すところだったよ(岩田利雄さん)
完成した本を手に取った岩田さん、あるページが目に入りました。
それは、元・郵便配達員の村上清治さんの語り。長い間、顔見知りだったという岩田さんと村上さんですが、それぞれの生い立ちは知らなかったそう。ですが、植村さんたちが制作した本を読んで、互いの人生を初めて知ることができたのです。
中学を卒業してからすぐに奉公に行きました
僕は8人きょうだいの長男だったものですから たとえ芋でもかぼちゃでも一人いなくなればそれだけ食料減らないから(村上清治さん)
岩田さん「みんな似たような苦労してるんだなあって。自分ばっかり苦労したんでなくて、みんなおんなじような苦労したんだなあと」「これはもう、いっぺんに友達ができたような感じで。今年もう2回、(村上さんのところへ)遊びに行ってきました」
過去を書き留めた1冊の本が、町の人たちをつなぐ懸け橋になっていたのです。植村さんは本の製作や銭湯の運営、町での暮らしを振り返り、こう話します。
植村さん「やっぱり地域共生社会の実現って意図してないところで起きたりもしているので」「ちょっと前に進めているのかなっていう感じもします」
本もお風呂もとっても熱い。毎週日曜日の夕方、植村さんは銭湯の番台に座り町の人々との出会いを待っています。