笑顔は海を越えて 音楽で町を元気に
- 2023年7月28日
1か月の滞在も中盤。ローカルフレンズで町の菓子店の店主・中野巧都さんは、この日も美味しそうなお菓子をつくっています。さて中野さんは、一体どんな人を紹介してくれるのでしょうか……?
「役場の中に、教育委員会があって。ひとりだけ、アロハシャツ着ている人がいて。おれ、変な人好きだからさ」とさっそく気になる人のもとへ、連れていってくれました。
「♪Down the station」
ウクレレ教室が開かれていました。ここで先生をしている人が、アロハシャツを着て仕事をしていたという……
パショーン・ダリン・ヒデオさんです。町に来て9年目、現在33歳。
町の人が参加している、ダリンさんのウクレレ教室。終始笑い声が絶えず、とっても楽しそう。
ハワイ出身で日系4世のダリンさんは、音楽を通じて中頓別の人たちに英語とハワイの文化を伝えているのです。
ダリンさんがはじめて日本を訪れたのは、高校生のとき。「日本の伝統文化」を学びたいという思いからでした。
その後、子どもたちに英語を教えるALT(外国語指導助手)になろうと決心し、国のプログラムに応募します。そのとき提示されたのが、中頓別町でした。人口1500人の小さな町です。
ダリンさん
「(移住する前)英語で中頓別って調べたら、郵便局しか出てこなかった。だから、ちょっと心配だなって思ってた」
中頓別ではじまった不安いっぱいの新生活。
そんなとき、ふと聞こえてきたのはチェロの音色。町のお寺の僧侶、石井友法さんが演奏していました。
気分が高まったダリンさんは、演奏の輪に加わります。そして音楽をきっかけに、町の人たちと打ち解けていったのです。
ダリンさん「いつ自己紹介したか、覚えてないよ」
石井さん「先に楽器が語り合っちゃったから」
と、ふたりは当時を振り返ります。
その後、ダリンさんは小中学校で英語を教えるかたわら、その芸達者ぶりをますます発揮していきます。
ローカルフレンズの中野さんに、ある映像を見せてもらいました。
それは中頓別町の盆踊りの映像。
よくみてみると、その先頭を引っ張っているのは、ダリンさんではありませんか。町の人たちがダリンさんを真似して踊っているのです。中野さんも「ハワイ出身で移住者のダリンが、町の盆踊りの先頭を切る珍事」と話します。
実は、ダリンさんが育ったハワイのマウイ島では、日本発祥の盆踊りが盛んなのです。古くから伝わる芸能をみなで残そうという文化が、この島には根付いているそう。
盆踊りに加えてもう一つ、ダリンさんが熱中しているものがありました。
今月からダリンさんと石井さんが一緒に始めた、中頓別町の伝統芸能の復活。それは長らく演奏者が途絶えていた「鍾乳洞太鼓」です。
過去の資料と残された録音を頼りに、もう一度太鼓の音色を響かせようと奮闘します。
そして2023年7月――。
共に太鼓を打つ仲間と一緒に、みごと鍾乳洞太鼓を復活させることができました。
音楽によって言葉の壁を超えて地域に入り、さらには町の伝統芸能を再興させるダリンさん。彼の笑い声は、今日も町を明るくしているのでした。