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となりのヒグマ 2021 ヒグマがマチにやってきた web

  • 2021年10月18日

2021年6月、山も森もない札幌市東区の市街地にヒグマが現れました。4人がヒグマにけがを負わされる人身事故にもなった出没は、これまでに経験したことがない事件でした。ヒグマはどこから、どうやってやってきたのか。今回の出没は、人間とヒグマの関係が新たな段階に入ったことを知らせています。

2021年9月25日 あさ7:55- 初回放送

それは石狩川から始まった

石狩川の河川敷にある沼、波連湖の付近でヒグマが目撃されたのは、2020年5月29日。バードウォッチングをしながら散歩をしていた人がヒグマに気づきました。

連絡を受けた札幌市のヒグマ対策担当チームが現地を調べたところ、ヒグマのフンを複数か所で確認しました。

山林に隣接していなくても

フンが見つかった付近を、ヒグマの視点で撮影してみました。現場は、石狩川と堤防に挟まれたエリアにあるヤブです。

ヤブの中は、あたりから身を隠して過ごすのには最適です。
ただし、ここは、山や森に隣り合わせの場所ではありません。この地域でのヒグマの出没は、札幌市に記録がある2002年以降、はじめて。現場にとっては驚きでもありました。

札幌市環境局環境対策課 濱田敏裕 環境共生担当課長
「山林に面していない北区や東区でのヒグマの出没については、想定外という言葉を使いたくはないのですが、想定していない状況でした」

札幌市はこれまで、南区や中央区など、ヒグマが生息する山や森と隣接した地域で地域の住民と対策を進めてきました。対して、石狩川沿いで出没したヒグマは、ずっと離れた北東の生息地から、最後は石狩川を渡ってやってきたと見られています。
まさに、予想外の場所からヒグマがやってきたかたちです。

図と文字は取材班作成

ヒグマは何をしていたのか

最初にヒグマが目撃された石狩川の河川敷の周囲では、6月上旬にかけて、ヒグマの痕跡が相次いで見つかりました。
茨戸川緑地に面した茨戸川ぞいで見つかったフンは、林道のような場所にありました。
その付近をヒグマの視点で撮影してみたところ、左右をヤブで囲まれ、茨戸川をはさんだ対岸のゴルフ場から時折ひとの声がうっすら聞こえるものの、それ以外にはひとの気配を感じることなく過ごせる場所になっていました。

撮影中、猛禽やカラスが食べていた川の魚を見つけました。今回出没し、捕獲されたヒグマの胃からも、魚の骨が見つかっています。
この付近には、いたるところに魚の骨が散らばっていて、猛禽などが日常的に川で魚をとってこの場所に運び、食べているようでした。
この場所までやってきたヒグマは、そうした魚を見つけては奪って食べていた可能性があります。

6月18日 一気にマチ中へ

このあと、ヒグマが目撃されたのは、6月18日の未明、市街地周辺の道路でした。

午前2時15分 警察への通報
「道道273号線をクマ1頭が横切った」

さらにその1時間後には、さらに市街地の中心部に接近。

午前3時28分 警察への通報
「 札幌新道を南方向にクマが歩いて行った」

ヒグマは、明け方までに、街中に入り込んでいました。

ヒグマは東区内で4人にけがを負わせたあと、捕獲されました。
札幌市は、目撃情報などをもとに、このクマがやってきた経路を分析。茨戸川につながる伏籠川や、そこにつながる水路周辺の、身を隠しやすい環境をたどりながら移動してきたものと見ています。

今回の事例から何を学ばなければいけないのか —。札幌市のヒグマ調査にも関わる、酪農学園大学の佐藤喜和教授に聞きました。

酪農学園大学野生動物生態学研究室 佐藤喜和 教授
「クマが常に出没しているような地域では、ある程度の危機意識を持って対策を進めてきたと思います。
今回のような事例は、その上を行くといいますか、経験したことのないパターンでの出没や事故が発生しているので、予想もしていなかったことが起きうるということを想像して備えておくということが重要になってきます」

札幌市は、山林に接していない地域を含めて、市内全10区でヒグマ対策を始めることや隣接する自治体との連携を強化することになりました。

都市に出没するヒグマたち

ヒグマの都市への出没が、ここ数年目立ってきています。
ことしはJR旭川駅裏の忠別川沿いなど、旭川市の市街地の中にある河川敷で、目撃や痕跡の発見が相次ぎました。

2019年には、札幌市・江別市・北広島市の住宅地に囲まれた野幌森林公園にヒグマが出没、帯広市でも市街地に現れました。

2017年にも、北見市の市街地にヒグマが出没し、小学生が集団下校するなど影響が広がりました。

こうした状況をどう考えたらいいのでしょうか。

酪農学園大学 野生動物生態学研究室 佐藤喜和 教授
「人間活動が優勢で野生動物が山奥に押し込められていた時代から、ちょうど野生動物が盛り返してきた時に、人の勢いも衰えつつあって、山際で生活する人の勢いが弱くなってくるとか、さまざまな要因がちょうどからみあって、クマが市街地側に出てきやすい条件が整っているのではないかなと思います」

「隣接する市町村を経由してクマが侵入してくるケースが発生していますので、各市町村の対応だけではなくて、市町村どうしで協力する体制が必要でしょうし、北海道、特に振興局が、隣接する市町村の間にたって、適切な対策がとれるような、仕組みを作っていくことが重要です」

新たなヒグマとの向き合い方を探る

ヒグマの行動が、市街地の中心部への出没という新たな段階になるなか、「新たな向き合い方」を探る人たちもいます。
環境市民団体のエコ・ネットワークと、野生動物の調査研究活動を手がけるエンヴィジョンが呼びかけ集まったボランティアグループです。

9月上旬、札幌市南区小金湯にある元のサクランボ農園での活動を訪ねました。

このグループでは、去年から南区で、放棄された果樹を伐採する活動を始めました。果樹の実は、ヒグマも大好物。廃業した農園や、庭先に放置された果樹の実がヒグマを引き寄せるもとにならないよう、伐採するのです。

メンバーが見せてくれたのがこちら、「サクランボのチップ」です。

アウトドアブームの中、注目を集める「燻製」に使ってもらおうということで、試作品を作りました。
切り倒した果樹のうち、太い幹は薪や工芸の材料になります。引き取り手がなかった、あまり太くない枝も、チップに加工すれば有効利用できるというわけです。

エコネットワークの小川巌さんは「売れればの話ですけど」と、前置きをした上で—

「燻製用に加工したサクランボチップを買ってもらい、ボランティア活動の資金にすることができるのではないかと」

さらに、このサクランボのチップが、どんな経緯で作られたのか説明することで、ボランティア活動を広く知ってもらう、きっかけになります。

エコ・ネットワーク 小川さん
「目指すのは循環です。果樹をただ切って終わりというのではなくて、切ったものを有効利用して、それがクマのためになれば、一番いいんじゃないかなと思っています」

ヒグマとヒトの新たな関係が必要になってきています。

となりのヒグマ2020 web

知床世界自然遺産がある羅臼町は、山がせまる海岸線にそって細長く人の生活があります。2019年、飼い犬がヒグマに襲われる被害が相次いだのを受けて、ことし、全町的に「草刈り活動」が始まりました。

続・となりのヒグマ2020

やっかいな、都市の市街地に出没するヒグマ。街なかでは銃を使うこともできず、いったん徘徊するようになったヒグマへの対処は簡単ではありません。
人間側がとりうる一番の策はヒグマが出てこないようにすること。ヒグマがでにくい街を目指して、札幌市内各所で「草刈り」が始まっています。

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