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たった一人の剣道部員 北海道森高校 剣道部

  • 2023年5月19日

道南の強豪として知られた森高校剣道部。しかし少子化の影響で1学年30人前後と生徒は減少し、現在の剣道部員は吉岡柑奈(よしおか・かんな)さん、ただ一人です。目前に迫った高校最後の大会を前に、支えてくれた地域や剣道部への思いを吉岡さんに聞きました。

自慢の歴史

吉岡さんにとって高校最後の大会の支部予選まで2週間ほどに迫った5月中旬、森高校を訪ねました。最初に吉岡さんが案内してくれたのは、かつて剣道部が活動していた格技場。壁には、かつてたびたび団体で全道大会に出場した時の写真と名前が入ったパネルが並び、歴代部員の名札がありました。北海道代表チームの一員として全国大会に出場した選手もいたそうです。

そして吉岡さんは一枚のパネルを指さしました。―「あれ、私の母です」。見上げた写真パネルは2003年に全道大会に出場した時のもの。写っていた5人のうちの1人が母の美穂さんだと教えてくれました(旧姓・久保田)。

吉岡さん
写真を見たのはこの高校に来てからです。「かっこいいな」と思いました。あまり深く聞いたことはないんですが、大事なポジションで試合を回していたらしいので、強かったんだと思います。

印象的なのはメンバー全員が付けている「緑の胴」。母・美穂さんの代の時に初めて作ったもので、森高校剣道部の女子選手に引き継がれてきたそうです。吉岡さんが入学した時も格技場の倉庫で保管されていました。

吉岡さん
こういうものがあると知らなくて。(先生に)これあるよって言われて初めて見た時は「キラキラしていて、きれいでカッコいいな」って思いました。自分の親の代で使っていたものを使えるのは嬉しいです。

森町は剣道のまち

「剣道がしたい」という吉岡さんが入学した時、実は7年間、剣道部は部員がおらず活動休止でした。しかし高校の先生たちが「部活動の地域移行」の手続きをしてくれたことで、吉岡さんは「森高校の剣道部員」として、週4日、町の「森剣道スポーツ少年団」で稽古をしています。小学生の時から通ってきた慣れ親しんだ環境です。少年団の歴史はおよそ60年。これまで何人もの小中学生を全国大会に送り出してきました。「ここで剣道を学びたい」と函館から通う子どももいます。

地元だったから成長できた

少年団に所属しているのは小中学生30人ほど。主な練習相手となる中学生は男女合わせて9人で、そのうち女子選手3人が北海道の強化選手です。吉岡さんは実力ある後輩たちを相手に成長を目指してきました。
実は取材中、何度も「これは吉岡さんだろうか」と確認する場面がありました。学校の格技場ではおっとりと恥ずかしそうに話す様子が印象的だったのですが、面をつけている時のキビキビとした動きや休憩中に後輩たちに見せる表情や振る舞いが、歳の差以上にお姉さんとしての風格に満ちていたからでした。

吉岡さん
後輩たちはみんな元気で、楽しい雰囲気を与えてくれます。練習内容は一緒だし、体力的にもそんなに差はないけど、高校生は雰囲気が違うなって少しでも思ってもらえていれば、ちょっと嬉しいかな。

そんな吉岡さんを支えてきたのが、小学生の時から指導する少年団の髙松潤一(たかまつ・じゅんいち)代表です。高松さんも森高校のOBです。毎年、高校でも剣道を続けたいという人の多くが森町の外に出ていくなか、ひとり地元で頑張ってきた吉岡さんの成長を温かく見守ってきました。

髙松さん
後輩の面倒をしっかり見てくれた。剣道を続けてくれた。なおかつ試合に出て頑張ろうという姿をみんなに見せてくれた。非常にうれしく思っています。吉岡が森高校でまた1つ(歴史の)ひもを結んでくれました。みんな吉岡を応援していると思います。

後輩たちに示したいこと

吉岡さんにとって高校最後の夏の大会はもう目前。5月末に函館支部予選(渡島・桧山)が行われます。「予選を突破して全道大会に出場できれば、また同級生たちに会える」と吉岡さんは笑顔で話します。そして表情を引き締めて続けました。自分の戦いぶりから、後輩たちに感じてもらいたいことがあると言います。

吉岡さん
地元に残って、自分がやりやすい環境の中で力をつけていくというのも1つの選択肢になると思います。そこは昔の自分と比べて自信を持てるようになりました。やっぱり最後というのがあるので、気合を入れて頑張ろうっていう感じです。

学校の先生が環境を整えてくれたこと、母の代から受け継いだ緑の胴が大好きなこと、少年団の人々が応援してくれること。吉岡さんが語る1つ1つのエピソードには周囲の人への感謝や愛情があふれていました。「森高校で剣道を続ける」ということは、最初は同級生と比べて自分が劣っていたからと選んだ道だったのかもしれませんが、吉岡さんは剣道の技術だけではなく、地域や人とつながっているという強い実感を得たのだと思いました。


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