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知床国立公園化60年 クマとの向き合い方は

  • 2024年2月13日

国立公園に指定されてからことしで60周年となる知床。その知床では長年にわたって、ヒグマとの共存を図ってきました。人間とヒグマが共存するためのポイントは何なのか。知床で野生動物の保護や管理に取り組んでいる知床財団に聞きました。(北見放送局  阿部力)

共存のポイントは“距離”

クマの生息密度が世界有数と言われる知床。
その知床で30年以上にわたって、ヒグマをはじめとする野生動物の保護や管理を担ってきたのが、知床財団です。
山本幸事業部長は、知床でヒグマに関する大きな事故が起きていない理由は「距離感」にあると考えています。

知床財団  山本幸事業部長
「ヒグマはすごく大きいし強い生き物なので、その距離感を一歩間違ってしまうと事故につながってしまいます。ヒグマは適切な距離感を保たなければいけない生き物であると認識することが必要です。一方で、ヒグマは北海道全体としても象徴的な生き物だと思います。ヒグマがいる北海道に住む自分としてどうしたらいいか、どうしたいか、ということについて、皆さん自身で考え始めることが一番大事かなと思います」


まずはヒグマを“知る”

適切な距離感を保つためには何が必要なのか。
山本さんが最初にポイントとしてあげたのは、ヒグマを“知る”ことです。
知床財団では20年以上にわたり、ヒグマが多い道東の子どもなどを対象にした「ヒグマ学習」を開催してきました。
小さい頃からヒグマについて学ぶことで、「自分だったらどうするか」を考えるきっかけになると考えているからです。

知床財団  山本幸事業部長
「ヒグマ学習では、ヒグマの基本的な生態だけでなく、会わないためにはどうすればいいか、それからもし会ってしまった時の対処法などをずっと学んできている。そういった基本的なことを学ぶことによって、『自分がどうやってヒグマとつきあっていくか』ということを考え始めることができるようになるんです」

距離を置くための対策も

知床財団の取り組みは学習だけではありません。
斜里町ウトロ地区では20年近く前から物理的な対策も施していて、その1つがごみステーション「とれんベア」の設置です。
この「とれんベア」、特徴はクマがひっかいても壊れない頑丈さです。
旭山動物園の協力を得て、本物のヒグマで耐久性を確認したといいます。
さらにレバーを押し上げる必要があるなど、クマの手足では開けにくい構造にしています。
こうすることで、ヒグマがゴミステーションをあさって人間の食べ物の味を覚えてしまうことを防いでいます。

さらにヒグマよけの電気柵も設置。
こちらはウトロの市街地を囲むように、全長7キロにもわたって張り巡らされています。
人の生活圏にヒグマが侵入するのを防ぐためです。
こうした地道な対策が、特にヒグマの生息数が多い国立公園の知床では欠かせません。

知床財団  山本幸事業部長
「もし国立公園の中でヒグマと人の事故が一度でも起きたら、それは何らかの規制につながってしまいます。例えば山や森に入れなくなったり、遊歩道などの施設が使えなくなったり、ということに変わっていってしまいます。自分たちができる対策はやり続ける。ヒグマ対策というのは、われわれだけでやれるものではなくて、住民一人ひとり、観光客一人ひとりの協力がないとできないものなんです」

思い描く知床の未来

国立公園であり、そして世界自然遺産でもある知床。
制約も多く、自然保護と観光を両立させていくことは簡単ではありません。
それでも山本事業部長は、多くの人に知床に足を運んでもらい、大自然の中でさまざまなことを感じてほしいと願っています。

知床財団  山本幸事業部長
「自然を守るというと、人が入らないようにする、ということになりがちですが、人と自然との関わりの中で、学ぶことがたくさんあると思っています。なので、人の利用を狭めるという方向にはいってほしくないです。人が知床に来ることによって、『自然は大きいな』とか、『やっぱり人の力って非常に弱いな』と感じることができます。知床が、そういうことを体感できる場所であり続けてほしいなというふうに思っています」

取材後記

北海道では、190万都市の札幌でも、ヒグマの出没はすでに日常となっていて、国内で最もヒグマの生息密度が高い知床で実践されてきた対策が必ず役に立つと思います。クマの出没増加に対して、ハンターの高齢化と減少が進んでいる現状をみると、ヒグマ対策は本当に待ったなしです。山本さんは現在の猟友会頼りでは遠からず対応出来なくなるとみていて、将来的には、例えば北海道庁の職員が猟銃免許を取得するなどして駆除にあたる「ガバメンタル・ハンター」の導入も検討すべきと話していました。
取材を通じて感じたのはヒグマ対策も、災害対応と同じように「ひとごと」ではなく「自分ごと」として考えることが大切だと思いました。

2024年2月13日

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