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旭川市のクマ対策 DNA分析で市街地侵入防ぐ

  • 2023年11月6日

全国各地で連日、クマによる被害が出ています。ことしは市街地に出没するケースが相次いでいて、こうしたクマは「アーバンベア」と呼ばれます。旭川市も例外ではなく、毎年、「アーバンベア」への対応を迫られています。市では市街地への侵入を防ごうと、クマのDNAを分析して個体ごとの特性を把握する新たな取り組みを進めています。(旭川放送局  山中智里)

人里に迫るクマ  食害など被害深刻

旭川市郊外にある果樹園では、この秋、プルーンやナシの木の枝をクマに折られる被害が相次ぎました。取材に訪れた果樹園では、2021年にもナシの木が折られ、損害額が数百万円にものぼったということです。

山を離れて街なかに出没する「アーバンベア」。旭川市では近年、その対策に悩まされています。

旭川市の職員でハンターの資格を持つ橋口城児さんは、この春までクマが出没するたびに現場に急行し、対策の陣頭指揮をとってきました。市内の現状に危機感を持っています。

ハンターの資格持つ 旭川市職員  橋口城児さん
「ことしの6月にも旭川市内の美瑛川の河川敷で、市が設置した赤外線カメラにクマが写っていた。間違いなく人里に近づいてきている。最後の一線、街なかまで突入してしまうかどうか、そこをクマが越えていないだけであって、『大丈夫』という感覚は持っていない」

橋口さんは、異動で現場を離れたあとも「クマによる人的被害が出ないように」と、ハンターとして休日に市内をパトロールしています。同行取材させてもらったこの日は、家畜飼料用のトウモロコシ、デントコーンの畑を見回りました。畑の近くには14センチから15センチほどのオスのクマとみられる足跡が、はっきりと残っていました。

ハンターの資格持つ 旭川市職員  橋口城児さん
「食べ物の味を覚えている。ことしはここでとどまっているが、来年、もっと街のほうでコーンが植えられたとすると、街に近づいていく。家庭菜園で育てているコーンにも手を出し始めているので、コーンをつたって市街地に入っていく可能性は十分考えられる」

着実に市街地へと近づくクマ。橋口さんは被害を未然に防ぐためには“先手”の対策が必要だと訴えています。

ハンターの資格持つ 旭川市職員  橋口城児さん
「クマは必死に生きていて、目の前に食べ物があるから食べる。なるべくクマを悪者にはしたくないし、人的被害も出してはいけない。一度、食べ物の味を覚えると、その味を求めて何度も市街地に来てしまうので、クマが出てからの対策は非常に困難になる。やはり先手先手で対策をとる必要がある。クマが来る前から農作物を守るなど、対策を考えていかなければならない」

 

クマ対策の切り札「DNA分析」  特性把握を目指す

いま求められる“先手”のクマ対策。旭川市はクマのDNAを分析することで、個体ごとの特性を把握しようとしています。

旭川市 環境総務課  猪股正孝さん
「市内にどれくらいクマが生息しているのか、食害を起こす個体がどこにいて、どう動いているのかが正直まったく分からない状況。クマのDNA情報を分析することで、個体数や行動パターンを把握しようというのがわれわれの目的だ」

DNAの分析に欠かせないのが、出没現場に残されたフンや毛です。

クマのデータを充実させるためには、より多くの検体を手に入れる必要があります。そこで活用しているのが「くい」に有刺鉄線を巻いた「ヘア・トラップ」です。「くい」には、クマが興味を示すにおいがついていて、そのにおいにひかれて体をこすりつけてきたクマの毛を採取できます。

「ヘア・トラップ」は導入されたばかりですが、採取した毛をもとにクマの個体を特定できたケースもあります。2022年は3点の検体のDNA分析に成功。すべて同じ1頭のオスグマのものであることが分かりました。

また、この「ヘア・トラップ」のほか、出没現場で採取した検体のDNA分析からも新たな事実が明らかになっています。2022年、市の東部で相次いだクマの目撃情報とトウモロコシなどの食害。目撃情報も20件以上あったことから、「この地域には多くのクマが生息しているのではないか」と住民が不安に思っていました。しかし、DNA分析の結果、地域に生息するクマの数が想定よりも少ないとみられることが分かったのです。

旭川市 環境総務課  猪股正孝さん
「DNA調査の結果、すべて同一のオスの個体であることが判明した。このクマの検体を採取した4つのポイントは、それぞれ何キロも離れていたので、複数のクマがいると考えられていたが、1頭がかなりの距離を動いていることが分かった。一般的にはオスのほうが広い範囲を動くと言われているが、移動距離を把握できると、どの地域にいるのか予想もでき、対策をとりやすくなると思う」

さらに、特定されたオスグマはトウモロコシを食べていて、その味を覚えて再び畑を襲うおそれがあることも明らかになりました。

旭川市は今後、DNA分析のデータを蓄積していくことで、クマの行動を想定して先回りし、有効な対策をうっていく考えです。

旭川市 環境総務課  猪股正孝さん
「今後、調査を積み重ね、クマのデータを集めていくことで、問題を起こす個体がやってくる規則性のようなものを明らかにしていきたい。そして、将来的には、そのデータをもとに市街地に入ってくるクマのルートを突き止め、食い止めるといったような“先手”の対策ができることを期待している」

 

取材後記

今回の取材を続ける間にも、秋田県をはじめ各地でクマによる被害が相次ぎました。幸いにも旭川市では人的被害が出ていませんが、畑にはっきりと残るクマの足跡を目にした私は、確実にクマが人里へ迫っているという事実を突きつけられたように感じました。紹介した旭川市東部の地域では8月、1頭のヒグマが捕獲されました。このクマが畑を荒らした個体かどうか、市ではこれまでに採取した検体のDNAと照合して確かめる考えです。
私が暮らす旭川エリアの魅力は大雪山系の山々に囲まれた豊かな自然です。山から山へと移動し、街に近づくクマへの対策に自治体の境界はありません。旭川市は将来的に、隣接する町ともDNA分析の結果を共有して、より広い範囲でのクマの生息域や行動ルートの把握を目指しているということです。“先手”の対策をうつことで、クマとの共存は実現できるのでしょうか。始まったばかりの旭川市の取り組み、継続取材していきます。

2023年11月6日

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