県立中学校生徒死亡で調査委 「真相を知りたい」両親の思い
- 2024年04月23日
広島の県立中学校に通う14歳の男子生徒が2022年8月、東広島市で列車にはねられて亡くなりました。始業式の朝でした。「何があったのか知りたい」。両親がみずから動いたことによって、1年8か月たってようやく第三者による調査委員会が開かれました。
(広島放送局記者 有馬護)
第三者調査委員会
県立中学校に通う14歳の男子生徒が2022年8月の始業式の朝、東広島市のJR山陽本線の踏切で死亡した事故をうけて、県が設置した外部の専門家で作る調査委員会の初めての会合が4月14日に開かれました。今後、学校の対応が適切だったかなどについて調べることにしています。
生徒の死亡について調査する第三者調査委員会は、遺族の要望を受けて、県の知事部局が設置。県庁で開かれた初めての会合には、弁護士や精神科医など6人が出席しました。会合では、はじめに広島県の杉山亮一総務局長が「生徒に改めて哀悼の意を表したい。委員には中立公平な立場で可能な限り多角的な視点から調査を行ってもらいたい」と述べました。
委員会はこのあと非公開で行われ、遺族からこれまでの経緯について説明があり、▼学校での指導に問題がなかったかや、▼死亡後の学校や県教育委員会の対応などについて詳しく調査して欲しいと要望があったということです。
“息子はいつも一緒にいる”
1年8か月前に亡くなった男子生徒。科学や工作が好きで穏やかだったといいます。家族は当時住んでいた家から引っ越しましたが、生徒の荷物をすべて持ってきました。部屋も、本の並びも、当時のまま再現されています。
父親
とにかくいつもニコニコしているという印象でしたね。非常に明るい子でしたし、私の場合は、もう本当にいつも息子とくっついていた感じだったんで、生活の一部ですよね。私たちやっぱり常に息子は一緒にいると思ってますんで、転居したあともここで一緒に暮らしていこうという意味で、そのままの状態を再現して過ごしてます。
母親
穏やかな子で、真面目というか正義感も強くて。思い出さないことは絶対にないですね。寝ている間も多分考えてますね。だって、いるはずの人がいないんですから。もうずっと朝から晩まで、どうしてどうしてどうしてってずっと反すうするんですよね。中学に入ってから様子がおかしかったことをずっと繰り返し繰り返し思うんですよ。
学校での“不適切な指導”
男子生徒が列車にはねられて亡くなったのは、始業式の朝でした。両親は、学校での不適切な指導が原因だったのではないかと考えています。両親は、生前の生徒の話などをもとに、中学校に入学してから生徒に何があったのかをまとめた時系列表を作りました。
「『誠意を持って完璧にしろ!』とほかの生徒の前でどなられた」
「ぼくはあの先生に嫌われた。何でもないときに声をかけると、うるさい!とどなられた」
提出した課題にミスがあったときや提出が遅れたときなどに、教員から教室や廊下、職員室などで指導や叱責を受けたと言います。
提出したはずの宿題がなくなり、やり直して提出しようとしたときには、このような対応をされたといいます。「『いまさら出しても、受け取る義理はない』と拒絶された」。両親は教員の指導について、学校に相談しました。しかし、その後も対応は変わっていなかったと考えています。
生徒の死後、両親はノートにこのような言葉が書き残されていたのを見つけました。「こんなのもう嫌だ」。さらに、男子生徒の死からおよそ1か月後、同じ教員から指導を受けていた女子生徒も踏切で列車にはねられ、死亡しました。
両親は、今回の調査委員会で、真相が明らかになることや、安心して通えるような学校になることを求めています。
父親
これまでの積み重ね、いろんな暴言であったり、不適切な指導で追い詰められていったということがやっぱり背景にあると思うんですよね。とにかく大事なのは、次の犠牲者を出さない。そのための再発防止策もそうですし、学校そのものの体制もしっかり見直すような提言が欲しいなと思います。
母親
何も知らされないまま、遺族は孤立したまま、済まされていた人が広島県に何人いるんでしょうか。それはすごい怖いことだと思うんですよね。
両親の訴えについて、学校は「生徒が亡くなったことは重く受け止めている。今後の調査に影響する可能性があるので、現段階ではコメントは差し控える」と話しています。
調査委員会まで1年8か月
文部科学省の指針では、自殺が疑われる事案では、学校が「基本調査」を行い、遺族が希望した場合などには、学校の設置者、今回の場合は県教育委員会が第三者などを交えた「詳細調査」を行うとされています。いずれも、遺族の要望や意見を十分聞き取るとともにできるかぎりの配慮と説明を行うこととされています。
しかし、両親によりますと、この制度について学校や県教育委員会から説明がなかったということです。両親はみずから調べてこういう調査がある、ということを知りました。そして、県教育委員会に問い合わせたところ、すでに学校が「基本調査」を終えていて、「詳細調査」の予定がなかったことを知りました。
こうしたことから、両親は県の知事部局に第三者調査委員会を設置するよう求めました。このような経緯を経て、1年8か月たってようやく、1回目の委員会が開かれました。
両親は、「学校に調べて下さいと言っても『何もありませんでした』と言われるだけでした。本当に孤立感しかなくて何も情報がありませんでした」と話していました。
こうした対応ついて、県教育委員会は「今後調査が行われるので、詳しくはお答えできない」としています。
進まない詳細調査
文部科学省の調査によりますと、2022年度に自殺した小中学生や高校生はあわせて411人いました。しかし、弁護士や専門家を交えた詳細調査が行われたのは19件、全体の5%にとどまっています。
また、遺族に詳細調査の希望など、制度を適切に説明していない事例が41%にのぼりました。子どもの命が失われているので、再発を防止するためにも原因を究明することが欠かせません。今回は遺族が自ら調べたことで、ようやく調査が行われることになりましたが、学校や教育委員会は子どもの死に誠実に向き合う姿勢を持たなければならないと思います。
子どもたちが悩みを相談できる窓口はこちらです。不安や悩みを抱える人の相談窓口は厚生労働省のホームページなどでも紹介しています。
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