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福山・鞆の浦の特産 保命酒の魅力を伝えたい

若者の感性で新しい味わいを提案
  • 2024年01月09日

「保命酒」を飲んだことがありますか?高麗人参やさんしょうなど、16種類の薬味を原酒につけこんで造る酒で、福山市の伝統産業のひとつでもあります。この保命酒のおいしさを、若い世代の感覚を取り入れて、多くの人に伝えようと、市内の大学生が、ある取り組みを行いました。

(NHK広島放送局福山支局 橋本奈穂)

大学生が開いた保命酒バー

福山市で開かれた、市の伝統産業を紹介するイベントです。会場の一角にあるキッチンスペースの前に設けられたのは、保命酒を味わうことができる特設のバーです。イベント期間の2日間限定で開かれました。

このバーを開いたのは、福山市立大学3年生の、佐藤俊介さん(22)です。
きっかけは、大学の授業で、保命酒について学んだこと。この中で、同世代の若い人たちにアンケートをとってみたところ、「知らない」とか「飲んだことがない」と答えた人が多かったといいます。知ってもらうために、飲める場所を提供し、魅力を伝えようと考えました。

佐藤俊介さん
「ぼくは保命酒をおいしいと思って飲んでいて、おいしいものだからたくさんの人に紹介したいという気持ちがありました。保命酒が飲まれていない現状の課題を解決するためにどうしたらいいか考え、バーをやってみることにしました」

保命酒造る鞆の人たちも期待

保命酒は、瀬戸内海を代表する景勝地の1つ、福山市の鞆の浦の特産品として、江戸時代から作られています。当時は、北前船などで全国に運ばれ、販売されました。現在、製造しているのは4つの醸造元のみとなっています。

佐藤さんは、愛知県出身で、福山市内の大学に進学するまで、保命酒のことは知りませんでした。知識を深めようと、時間ができると鞆を訪れて店を訪ね、話を聞いています。そんな佐藤さんにアドバイスをするのは、鞆保命酒協同組合の理事長を務める岡本純夫さんです。

「保命酒が造られてきた歴史を知ってほしい」と、この日、岡本さんが佐藤さんを案内したのは、「太田家住宅」。保命酒の蔵本だった建物で、国の重要文化財にも指定されています。蔵の中には、保命酒を造っていた備前焼のかめも残されています。

岡本純夫さん
「非常に高価なお酒なので、昔はこのかめ1本で家が建っていました。以前はよく売れていて、営業しなくても商売が成り立っていたほどでしたが、鞆の町が衰退していくとともに、保命酒も目にしていただく機会が減ってきてしまいました」

岡本さんは、佐藤さんのような若い人たちが、保命酒の良さを伝えてくれることで、鞆の町が活気づいていくことを期待しているといいます。

岡本純夫さん
「私たちの年代の人間が考えることは、どうしても限られてしまうので、若い人たちが、自分たちが伝えにくいチャンネルに、良さを伝えていってもらえればありがたいと思います。ひとりでも多くの方にまず知ってもらうのが一番なので、知るきっかけになってほしい。鞆の町自体も元気になってくれればいいと思います」

大学の友人と飲み方を工夫

保命酒の良さを伝えるために、佐藤さんは、大学の友人と飲み方の工夫を重ねています。ほかのお酒やジュースなどと割り、カクテルにすると、初めて飲む人にも飲みやすくなるとわかりました。

工夫の成果をバーで伝える

保命酒バーでの接客に備えて、佐藤さんは、メニュー表に、保命酒の魅力を伝えるために、ある情報を載せました。

甘みと薬味の強さを分析した、オリジナルのグラフを用意。4つの醸造元それぞれの酒の味の特徴が、一目でわかるようにしました。
保命酒を飲んでみたいと、訪れてくれた女性客。4種類の飲み比べを注文してくれました。佐藤さんは、ひとつずつ、味の特徴を説明しながら提供します。

女性客
「どれもすごく個性豊かで、とてもおいしいです。グラフがあって分かりやすかったです」

一とおり提供したあと、友人と工夫を重ねた割り方も提案してみました。

佐藤さん
「入江豊三郎本店さんのお酒は、ジンジャーエールで割ります。岡本亀太郎本店さんは、リンゴジュース。八田保命酒舗のお酒は牛乳で。保命酒屋さんも、牛乳で割るのがおすすめです」

女性客
「しっかり研究されています。どれもばっちりでおいしい味わいです」

佐藤さんは、保命酒が気軽に楽しめる酒として、多くの人に浸透していってほしいと考えています。

佐藤さん
「保命酒はおいしい酒なので、おいしさを楽しんでほしいです。一方で、カクテルにしたり、ジュースなどで割って飲む飲み方も現代には合っていると感じているので、そういう提案がしたいです。福山が誇る酒、保命酒を残していきたいと強く思いながら活動していきたいです」

「伝統を気軽に」取り組みに期待

伝統産業に、若い人の感性を組み合わせている佐藤さん。歴史や伝統を学び、作り手の思いも理解した上で、気軽に触れられるようにしようとしています。将来の目標は、福山駅前に保命酒のバーをオープンさせること。さらに、鞆の浦にも店を持ちたいと考えているということです。町の活性化に一役買ってほしいと、期待が高まりました。

  • 橋本奈穂

    NHK広島放送局記者

    橋本奈穂

    2009年入局 青森局や首都圏センターなどを経て、2回目の広島勤務。故郷の福山で育児と取材に奮闘中。
    この取材をきっかけに保命酒の飲み比べをしてみたい。

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