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経営者みずから事業を説明 新たな後継者探し

  • 2023年12月25日

“後継者が見つからなければ、廃業しなければならない”
後継者不足が深刻な課題となる中、経営者みずからが事業の内容を説明して、後継者を探すイベントが行われました。このイベントで後継者を探す地域密着の楽器店を取材しました。

(NHK広島放送局記者 福田諒)

後継者が見つからない

呉市で楽器店を営む、片山眞干さん(76)です。
市内20の小中学校に、リコーダーや部活で使う楽器などを卸したり、楽器の修理を請け負ったり、地域に密着したビジネスを続けています。

また防音室を貸し出し、音楽教室が開かれています。ピアノやハーモニカ、大正琴など、小学生から高齢者までおよそ70人が通っています。

ただ、高齢となって、このまま経営を続けていくのは難しいと考えています。
3年前から地元の商工会議所を通じて、事業を承継してくれる人を探してきましたが、すべての事業を引き継ぐ人は見つかっていません。呉市内には楽器店は、片山さんの店ともう1店舗しか残っていません。地域に音楽を親しむ場所を何とかして残したいと考えています。

片山眞干さん
「音楽に親しめる環境を呉に残したいですね。私はもう年齢も年齢なので、元気なうちに呉に密着した楽器店を続けてもらえる人を探しています」

しかし、事業を承継するにあたって、課題となっているのが、経営が順調とは言えないことです。人口が減少する中、ピアノの販売が落ち込み、売り上げはピーク時の半分まで減っています。店のことしに入ってから11月末までの収支は、かろうじて8万4088円の黒字です。

片山さん
「引き継ぐ人には収入の柱を増やしてもらうために、前向きな発想でアイデアを出してもらいたいです。老後に楽器を始める人や、趣味で楽器をやりたい人もいると思うので、自分にあうやり方で開拓してほしいです」

経営者みずから事業内容を公開

後継者探しを支援しようと、政府系金融機関の日本政策金融公庫が新たなイベントを企画しました。

特徴は、経営者みずからが経営の状況や事業の具体的な内容をプレゼンテーションすること。
中小企業が事業の承継先を探す場合、従業員がのちの経営に不安を感じたり、取引先が倒産を心配して信用不安につながったりすることから、匿名で探すのが一般的です。
このイベントでは企業の社名を明かし、具体的な事業を公開することで、承継のイメージを持ちやすくしてもらうことが狙いです。
12月に広島市で開かれたイベントには、片山さんのほか、広島市の出版社や東広島市の墓石販売店の経営者が登壇しました。会場はオンラインで結ばれ、事業の承継に関心を持つおよそ180人が参加しました。

片山さんは店内を撮影した映像を見せながら、これまで学校の楽器や祭りの笛を販売してきたことなどを紹介し、地域に密着した営業が多くの人に喜ばれていることを語りました。その後、オンラインの参加者から質問が相次ぎました。

「売り上げの構成比を教えてほしい」
「在庫の価値はいくらか」
「店舗は賃貸か」
「引き継ぎ期間はどれくらいを想定しているか」

こうした質問に片山さんは丁寧に回答していきます。

イベントの後は、より詳しく話が聞きたいという呉市に住む40代男性とオンラインで対談。この男性は、市内に楽器の工房を構えていて、片山さんの楽器店を活用することで、新たなビジネスの可能性を語ってくれました。片山さんは、男性に店の雰囲気を知ってもらうためにも、さっそく店を訪れることを提案しました。

片山さん
「対談した男性は熱心でしたし、後継者が現れることが楽しみですね。店がなくなると、地元の人が困ると思いますので、引き継いでくれる人が出てくることが願いです」

地域のサービスをどう維持していくのか

主催した日本政策金融公庫は、事業を承継したい人が出てくれば、担当者が仲介して譲渡の条件を話し合うということです。公庫はこのイベントを去年は全国で4か所、ことしは広島市を含む12か所で開催。実際に後継者が見つかるケースも出ていて、来年も続けることにしています。
また、こうしたイベントだけでなく、インターネット上のサイトでも、社名や具体的な事業内容を公開して後継者を募る取り組みも行っています。

日本政策金融公庫広島支店 斉藤卓也 支店長
「大規模な企業は、市場が大きかったり、企業価値が客観的に計算できたりします。一方で、地域に密着した企業は、決算書を見ただけでは、どれだけの企業価値があるか判断することは難しいです。しかし、こうした企業がなくなると、地域から商品やサービスが消えてしまいかねません。次の世代に確実に引き継いでいくサポートをしていきたいです」

取材後記

帝国データバンクの調査では、「後継者がいない」、または「決まっていない」と答えた広島県内企業の割合は、56.6%と高い水準にあります。
今回登壇した3人の経営者は、いずれも60代後半から70代後半で、数年以内に承継先が見つからなければ、廃業すると話す人もいました。
取材を通じて、経営者みずからが仕事のやりがいや魅力、熱意を伝えることができるのは大きなメリットで、事業承継につながるチャンスが増えるのではないかと感じました。地域の経済を支える企業をどう存続させていくのか、これからも取材していきたいと思います。

  • 福田諒

    広島放送局 記者

    福田諒

    2018年入局。和歌山局を経て、ことし夏から広島局で主に経済を担当。趣味はドライブ。

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