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“分身ロボット” 障害がある人に働く場を

  • 2023年11月22日

遠隔操作で障害がある人が接客

 

カフェで働く分身ロボット

広島市中区のカフェのテーブルに置かれた高さ20センチほどの小型ロボット。カメラやマイク・スピーカーを通じて、接客を行います。
配膳は高さ1メートル20センチの移動式のロボットを操作して行います。いずれのロボットも操作するのは、体に障害がある人たちです。自宅などの離れた場所にいながら働いています。

高校2年生 柾木駿志さん

このうちの1台を操作するのが、広島市安佐北区にある広島県立広島特別支援学校の高校2年生、柾木駿志さん(16)です。柾木さんは、脳性まひがあり、移動には車いすを使い、介助が必要です。

ロボット開発を手がける企業から特別支援学校に話が持ちかけられ、学校の中で機械が好きで、タブレット操作に慣れている柾木さんに白羽の矢が立ちました。

柾木さんは、母親と祖母に頑張る姿を見せたいと接客前の研修にも精力的に取り組みます。ロボットがうなずいたり、手を振ったりする機能を使いこなしたり、手元のタブレットに文字を入力して、事前に読み上げる文章を決めたりして、本番に備えます。

母親は不安と期待

母親の知佳さん

接客研修に取り組む柾木さんですが、実はカフェに行ったことがありません。

仕事で接客をすることに不安はないのか、母親の知佳さんに話を聞きに行きました。

中学1年生までは車いすでバスケットボールやマラソンをするなど活発でしたが、新型コロナウイルスの感染が拡大すると、家から出ることが少なくなったといいます。だからこそ、今回の働く経験が再び社会と積極的に関わる機会になってほしいと話していました。

母親の知佳さん
ことばづかいや、初めての人と接する機会があまりないので不安がありますが、人のために働くことを体験できる、本当にいい機会だなと思います。働くということに希望や、やってみようという気持ちが芽生えてくれたらいいなと思っています。

ロボットでおもてなし

カフェで柾木さんが働く当日。母親と祖母がカフェに来店し、柾木さんが操作するロボットの席に着きました。

学校でタブレットを立ち上げて、2人を待っていた柾木さんに笑みがこぼれます。さっそくタブレットのボタンを押して、登録していたあいさつで語りかけます。

柾木さん操作
ロボット

ようこそ。私は研修生パイロットのしゅんです。お客様はアレルギーはお持ちですか。

母親
知佳さん

ないです。

注文を聞き終えると、柾木さんから積極的に話題をふっていきます。

柾木さん操作
ロボット

私のお気に入りのロボットのモーションを紹介させてください。お気に入りなのが「なんでやねん」です。

「なんでやねん」のモーション
母親
知佳さん

あはは、なんでやねん。

柾木さん操作
ロボット

つっこみをしているようで、おもしろくてお気に入りです。

40分の勤務時間、会話を盛り上げて母親と祖母を楽しませました。

母親の知佳さん
頑張っているなと思いました。積極的に人とふれあうことが意外と好きなのかなというところが知れたと思います。

柾木駿志さん
最高な感じでできました。初めて働くのは、まだ慣れてないのでなんとも言えないけれど、ちょっとだけ楽しかったです。

柾木さんは接客を終えた後、大きく手をあげて「やったー」と声を出して、初めての仕事の達成感を味わっていました。

遠隔操作ロボットの可能性は

ロボットが開発された背景には、柾木さんのように体の不自由な生徒は仕事に就くのが難しいことがあります。

令和4年3月の全国の特別支援学校高等部の卒業生の就職率はおよそ20%。このうち、体の不自由な卒業生に限ると3%にとどまっています。トイレや食事などで介助が必要となることもあるため、雇用の場が広がっているとは言えません。

ロボットが接客するカフェは、広島市では11月上旬までのおよそ2週間の期間限定でしたが、東京には常設のカフェがオープンしています。このロボットを開発した東京の企業によりますと、職場で実際に使われるケースはまだ少なく、今後、ロボットを使ったさまざまな働き方を提案して、体に障害がある人の働く場所を作っていきたいと考えています。

 

ロボット開発会社 吉藤オリィ代表

ロボット開発会社 吉藤オリィ代表
これから観光案内や図書館の読み聞かせ、そして認知症の人の話し相手として活用することも検討しています。ゆくゆくは、自分で動かしたロボットで自分のことを介助できるように改良し、就職する上で課題となっている介助の問題をなくしたいです。

 

私たちが取材で初めて柾木さんに会ったとき、純粋にロボットの操作を楽しんでいるように見えました。それが接客を体験するなかで、相手が喜んでくれることにやりがいを感じるように変わっていったのが印象的でした。人とコミュニケーションが取れるこのロボットが、障害がある人の可能性を広げ、さらに雇用を生み出すことにつながるのか、注目していきたいと思います。

  • 福田諒

    広島放送局 記者

    福田諒

    2018年入局。和歌山局を経てことし夏から広島局。「ふくだ」じゃなくて「ふくた」です。過去に県庁の受付業務を行う分身ロボットを取材。

  • 前川夏生

    広島放送局 キャスター

    前川夏生

    東京都足立区出身。「お好みワイドひろしま」のキャスターを務める。G7広島サミットの国際メディアセンターで同じ足立区出身の分身ロボットと出会ったことで興味を持つ。

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