広島工業大学漕艇部に寄贈 ボートに込められた思い
- 2023年09月13日
広島工業大学漕艇部に最新型ボートが寄贈されました。このボートには、寄贈した人の思いが託されています。どのような思いなのか、取材しました。
(NHK広島放送局記者 十石泰誠)
太田川放水路で行われたボートの進水式。浮かべられたのは赤い船体のボートです。ボートにはDane.P.Laveryの文字が。
名前が刻まれたのは、かつて広島工業大学の漕艇部でコーチをしていたデーン・レイバリーさんです。去年9月にがんで亡くなりました。
津野瀬武久さんは、レイバリーさんとともに二人三脚で漕艇部の指導をしてきました。レイバリーさんが大学でコーチをしていたのは、エンジニアとして広島で勤務をしていた1980年から3年間。ボートのコーチの資格を持ち、イギリスでは地元のクラブの指導にあたっていたこともあり、コーチをかってでました。
津野瀬武久さん
ひと言で言えば情熱家ですね。世界のレベルと相当差があるんで、ここから一歩でも二歩でも広島のレベルを上げたいと。
大学のボートのレベルを上げようと、レイバリーさんはさまざまな練習方法を提案したといいます。そのひとつがローイングタンクと呼ばれる施設での練習です。
津野瀬武久さん
英国なんかはこういうものをいれてコーチしてるんで、日本にはこういうのがないから、入れましょうと。
固定されたボートで練習することで、オールに正確に力を伝える感覚を養うことができます。レイバリーさんは仕事の合間を縫って週に4回は訪れ、世界水準の指導を行っていました。
津野瀬武久さん
レイバリーさんは日本人でも正確にこげば、もっと早くなりますよと。基礎を徹底的にやると。昔はこいで、こいで、こげ、という風にやっていたのが、こぐよりも短時間のうちにそういう基礎的なものをやろうというのがレイバリーさんの考えでした。3年間でしたけど、いろいろな意味で勉強させてもらって、感謝をしております。
その後、レイバリーさんは結婚し神戸市で暮らしていました。妻の岡本成子さんです。
岡本成子さん
亡くなったあと、何か残したいというので、いろいろ考えたんですけどね。ボートをもしかして、寄贈したら主人の名前を残してもらえるかもわからないっていう風に、思ったのがきっかけなんです。
レイバリーさんは、がんが悪化してからも、地元のローイングクラブでボートをこいでいたといいます。
岡本成子さん
ローイングをこぐっていう仕草は多分すごく負担だったと思うんですね。力も無くなっているし、腕の筋肉もなくなっていますから。それでも頑張って、乗りたいっていうのを見たときに、本当に好きなんだなあと思いましたね。
病気して、イギリスに帰ろうかって言ったときに、僕は日本人だから、ここがふるさとだから、ここでいいって言って、帰らなかったんですね、帰るチャンスはあるにはあったんですけどね。主人の名前が残っているというのは、たぶん、主人も喜んでいるよねって言ってあげたいですね。よかったねって。
この日行われた進水式。岡本さんも神戸から駆けつけ、進水式の様子を見守りました。
岡本さんが寄贈したボートはレースで使用される最新型です。
岡本成子さん
もう、うれしかったです。主人の足跡や名前を残すことが寄贈した一番大きな目的でしたから、デーンさん見てる?って、感極まるものもありました。
これで主人は日本にいたんだ、広島にいたんだ、主人はみんなとともにある。そういう感じでうれしいですね。
岡本さんが託したレイバリーさんの情熱を乗せてボートは水面を走り続けます。広島工業大学漕艇部は、今年10月に行われる中国選手権大会で初めて寄贈されたボートで挑みます。部員たちは寄贈されたボートでの練習を重ね、大会に臨むということです。