広島市のファミリープール どうなるの?
- 2023年07月06日
7月に入って暑さも本格化。今年も待ってました!という方もいらっしゃるのではないでしょうか。広島市の中央公園ファミリープール。でも、知り合いから「あのプールってなくなるかもしれないんでしょ?」という話も聞いたことがあります。え、そうなの?どうなるの?
(広島放送局記者 重田八輝)
移転や廃止の可能性を含めて議論
ファミリープールの開設は1979年。7月と8月の2か月だけの営業で、毎シーズン10万人前後が利用してきました。
広島市の資料を読んでみると「中央公園は、戦災復興のシンボルとして整備され、都心における緑豊かな空間として本市の個性と魅力ある都市空間形成に大きな役割を果たしてきた」との文言が。その一角を担うファミリープールには市民のレクリエーション活動の振興などに資するとの目的がありました。
広島出身の私の妻も毎年楽しみにしてきたそうで、以前から「子どもを連れていきたい」と話していました。そんなファミリープールをめぐって、広島市の担当者に話を聞くと、移転や廃止の可能性を含めて議論されてきたというんです。背景には一体何があったのか、調べてみました。
理由① 築44年、進む老朽化
今年の営業が始まる1週間前の6月23日、ファミリープールを訪ねました。中で取材を始めると、さっそく1つ目の理由が見えてきました。
プールは開設から44年が経ち、老朽化が進んでいました。プールサイドには修復の跡が。レンガが壊れたそうです。あちらこちらでシートも破れていて、新しいものを上に貼り付けてありました。
そして子どもたちに人気のすべり台があるプール。底には、色の違う長方形の形をした修繕の跡がたくさんありました。これはひび割れの兆候があったため直したものです。毎年、夏の営業シーズンを終えたあと、ひび割れや塗装が剥がれた部分を修繕してきました。その箇所数は年間で約300にのぼるといいます。
広島市みどり生きもの協会 磯谷正宏課長
修繕しているので安全性には問題なく、毎年安心して使ってもらいたいと思っています。ただ、44年も経っているので、いずれは抜本的に建て直す必要は出てくるんでしょうね
理由② 非効率な営業と好立地
2つ目の理由は、営業期間の短さと立地にありました。
プールの周辺は大規模な再開発が進んでいます。北側には来年、開業する新しいサッカースタジアム。南側には今年3月に開業した旧市民球場跡地の「ひろしまゲートパーク」。このほかにも広島城やそごう広島店、県庁も近くにあり、プールは広島市中心部に位置しています。
しかし、営業期間は夏の2か月に限られています。広島市の中心部にありながら1年を通じた営業ができないという課題が指摘されていたのです。市民からは次のような意見も出ていました。
「稼働に季節性があり、市内中心部に立地させる必要性は薄い」
「プールの敷地に大規模な国際会議を開催できる施設を設けたらどうか」
“子どもたちに欠かせない”
こうした背景があって移転や廃止の可能性を含めた議論が行われてきました。ただ、広島市議会議員からは「プールは子どもたちに欠かせない施設だ」といった声があがり、6月9日の記者会見で松井市長がこう発言しました。
広島市 松井一実市長
プールの機能は何らかの形で残すといったことを前提に新しい施設群を検討していく。いいものをつくるという作業にしていきたい
つまり「プールの機能を残して年間を通じて活用できる新しい施設の整備を検討する」という方針です。
快晴となった7月2日・日曜日。広島市は最高気温が30度を超える真夏日となり、オープン前のファミリープール前には親子などの長蛇の列が。中にはすでに水着に着替えている人もいました。
「冷たくて気持ちよくて楽しい」
「きょうは暑いのでちょうどいいです」
賑わうプール。うれしそうな子どもたちの声が聞こえてきます。より効率的な営業を目指すのであればやはり移転や廃止という選択肢もあったのではとも思いますが、このファミリープールが長年、この場所で多くの人に愛されてきたことを感じました。
今後のスケジュールについても広島市に聞きました。まず現在のプールは2026年夏まで営業を行う予定です。今年も含めてあと4シーズンは今のプールを楽しめるということになります。そして市は来年度・2024年度までに新たな施設の基本構想をまとめ、2027年度以降に施設の工事に着手したい考えです。
子どもが安心して遊び、学べる場に
年間を通じて営業できるなら問題は解消されそうだ、とも思いましたが、ほかにも取り組まないといけないことがあることが分かりました。
プール周辺にはほかにも子どもが楽しめる「こども文化科学館」や「こども図書館」があり、広島市はこの一帯を「こどもゾーン」と呼んでいます。市の資料をみると「家族連れを中心に安心して訪れることができ、未来を担うこどもが遊び学べるゾーン」と書かれています。この「こどもゾーン」を生まれ変わらせようとしています。
「こども文化科学館」は1980年に開設し、展示物や体験コーナーを通じて天文や物理などを身近に感じてもらうことができる施設ですが、こんな指摘があるんです。
▽老朽化して耐震性能が不足。
▽常設展示が20年以上大幅に更新されず、展示物の魅力が低下している。
子どもが親しみやすい本を集めた「こども図書館」についても次のような課題が。
▽耐震の問題を抱えている。
▽親子が読書を楽しめるスペースが不十分。
▽会議などを行う場が不足し、居心地のよい環境ではない。
広島市中心部の好立地にある「こどもゾーン」全体を有効活用しようと、広島市はこれらの施設をめぐる議論も進めたい考えです。もちろん改修には多額の費用がかかります。どうしたら子どもたちが安心して遊び、学べる場になるか。市民の理解も得ながら丁寧な議論を進める必要があると思いました。