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難民保護 第3回 なぜ難民を受け入れるのか

2016年11月11日(金)

 

Webライターの木下です。

パリで120人以上の死者を出した同時多発テロの容疑者が、シリア難民を装って入国していたことがわかってから、ヨーロッパでは難民受け入れの安全性をめぐって議論が起こっています。難民自身が暴力やテロの犠牲者なのですが、日本でも、どうしてそんなリスクが予想される難民を受け入れる必要があるのか、という疑問をもつ方が多くおられます。そこで、第3回では、難民支援協会の広報担当の田中さんに、その質問を投げかけましたので、回答をご紹介します。

 難民の受け入れは賛否を論じるものではない  

 

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NPO法人難民支援協会・広報部コーディネーター

田中志穂さん

木下:あえてストレートにお聞きします。私たちはなぜ難民を受け入れないといけないのですか。

田中:まず、私たちは難民受け入れの賛否は、論点にはなりえないと思っています。命の危機にさらされていている人に手を差し伸べるのは人として当然のことで、それをどのようにやるのかを論じることはあっても、手を差し伸べるかどうかを議論することはあり得ません。ある時、記者クラブの会見で、ドイツ大使に対して、日本人記者が“なぜドイツは難民を受け入れるのか”と質問していましたが、そのような質問には大変違和感があります。

木下:しかし、大量の難民の流入によって、さまざまなトラブルが起きているという報道があり、ドイツ国内でも難民受け入れの賛否の議論があるのは事実ですから、そのような質問をする記者がいたとしても不思議ではないと思います。

田中:確かにそのような報道が目につきます。しかし、それは大量に難民が流入してくることへの対応の賛否が論じられているのであって、難民保護そのものの賛否を論じているのではありません。難民を保護するのは、人として当然だという前提の上で出ている議論です。欧米で暮らしている友人たちに聞いても、基本は受け入れるのが当たり前ということからスタートします。2015年のドイツの難民認定者数は4万人を超えているのに対して、日本の認定者数は27人です。日本とドイツでは難民保護の前提となる意識がまったく異なっています。



 難民支援の意識は高まっている

 

木下:日本は難民保護の意識が国際レベルと違い過ぎるということですか。

田中:難民の認定者数からしたら、政府は積極的だとは言えないと思います。世界第3位の経済大国としては、認定者数が少なすぎて、国際社会から批判を浴びるのも当然だと思います。それに日本は難民の滞在は認めても、生活していく上での支援を積極的に行うための制度も十分ではありません。

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難民支援協会のオフィスには、
相談に訪れた外国人たちの旅行バッグが
積まれていました。

 ただ、民間レベルで言うと、日本も難民への関心は高まっていると思います。難民支援協会では、定期的に難民アシスタント講座を開設していますが、ここ数年はWebにお知らせを上げるだけで、60人の定員のところに倍以上の130人近くが応募してくるようになってきました。その4割は大学生です。自腹でカプセルホテルに泊まったり、友人の家に泊まらせてもらうなどして、全国から集まってきます。既存の大学には難民について学ぶ講座もなく、あったとしても海外の現状を知るためのものでしかないので、国内で難民支援の活動をするための基礎知識を得るためです。「難民について知りたい、知らなければならない」という思いを強くもった若者が増えてきているのです。
 ただ、そもそも受け入れの人数が少なすぎるので、活躍の場を与えられなくて、もったいないと思っていますが。



  日本の難民を救えるのは日本人にいる私たちだけ


木下:多民族国家ではない日本社会にとって、難民は重荷であるという意見もあると思いますが。 

田中:難民受け入れに必要な支援を「コスト」とみるか、社会への「投資」とみるか、二つの考え方があると思います。難民の多くは、もともと普通に自立して生きてきた人たちです。ただ、異国の地で生活を立ち上げるには、その国の言葉を学び、その国で仕事を探すことが不可欠ですが、必要な支援を受けた後は、成人であれば働き、納税し、社会の中で自立していく人たちです。そう考えると、受け入れのための支援は、難民のためでもありますが、社会全体にとってのメリット、未来への投資でもあるわけです。
 一方、難民となり教育の機会を奪われた人や、拷問の経験からトラウマを抱えている人もいます。平和で安全があり、人が支えあって生きる仕組みがある国が、教育の機会や高度な医療を難民に提供することも、価値ある取り組みであることを忘れてはいけないと思います。 

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難民支援協会で相談の順番を待つ人。
「日本で難民認定を受けるのはきわめて難しい」と聞くと、
誰しも大きなショックを受けると言います。©難民支援協会



木下:難民支援協会はどうして日本の難民の支援をしているのですか。

田中日本にたどり着いた難民の命を救えるのは、日本にいる私たちだけだからです私たちが支援しているのは、食べたり、寝たり、働いたりという人として当たり前の生活です。同時に、難民とともに生きられる社会の実現にも取り組んでいます。私は、日本をかならずしも排他的な国だとは思っていません。支援の現場では、顔が見える関係になれば、大家さんや学校の先生など困っている難民をサポートしてくれる人はたくさんいます。ただ、難民受け入れを、市民の善意だけに頼るのではなく、制度的にも整えていくことは必要です。社会からの一定の理解や共感が生まれれば、制度を変えていくことにもつながりますので、難民への支援活動だけではなく、啓発活動にも力を入れています。


木下 真

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