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難民保護 第2回 難民に関する基礎知識

2016年11月09日(水)

 

 

 「狭義の難民」から「広義の難民」の保護へ  


Webライターの木下です。

難民とはどのような人を指すのでしょうか。一般的には紛争や災害によって祖国を離れざるを得なくなった人々のことを、そう呼んでいます。日本では、難民という言葉を「ネットカフェ難民」「介護難民」「がん難民」「買い物難民」などというように比喩的にも使いますので、「頼り先を失った人」として漠然とイメージしている人も多いと思います。

しかし、一般的に言われる難民のイメージと異なり、法制度上の難民の定義はもっと限定的なものです。難民の扱いに関する人道的基準を規定した「難民の地位に関する条約」が国連で採択されたのは1951年。その後1967年に「難民の地位に関する議定書」も採択され、そのふたつを合わせて、難民条約と呼びます。その両方かどちらかに加盟している国は、昨年までで148か国になります。その「難民条約」では、難民を以下の3つの要件を満たすものとして定めています。

1 ) 人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集 団の構成員であること又は政治的意見を理由に、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること。

2 ) 国籍国の外にいる者であること。

3 ) その国籍国の保護を受けることができない、又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者であること。

 

このような定義に当てはまる人を一般的な難民とは区別して、「条約難民」と呼ぶこともあります。しかし、この条約を厳格に適用していくと、例えば紛争地帯から逃げてきた人であっても、人種、宗教、国籍の違いなどで「迫害」を受けたのではないために、難民に当たらないという不合理なケースが出てくることもあります。

報道などで使われる一般的な意味での難民を「広義の難民」、法制度上の条約難民を「狭義の難民」と表現して区別する場合もあります。現在課題となっている紛争地帯の難民に関しては、「紛争難民」という言葉をあえて使う場合もあります。

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エチオピア出身のブルクタウィットさん。
民主化運動に加わったことで2度投獄。
その後日本に難民としてやってきた。
成田空港で本国に送還されそうになったときには、
「I’m a refugee!(私は難民です!)」
と空港カウンターの前で泣き叫んだという。
©難民支援協会
 

このように難民という言葉の意味が、立場や使い方によって微妙に違ってしまうことが、日本社会で難民に関する理解が広がっていかない理由のひとつとなっていると指摘する専門家もいます。

しかし、いま国際社会では、人道保護を必要とする者に対しては、すべからく支援の手を差し伸べていこうというのが共通認識です。国連難民高等弁務官事務所(UNCHR)では、難民保護のガイドラインを出すなどして、「狭義の難民」ではなく、「広義の難民」の保護の必要性を国際社会に訴えています。難民条約が現代の難民の発生状況に合致していないことから、現在の難民条約の限界を克服する新たな国際条約についても議論が求められています。そのような流れを受けて、難民条約の認定条件を広く解釈して、保護の枠を広げるとともに、他の制度によっても人道的保護を補完していこうという動きが国際的に広がっています。

 

 混同されやすい「移民」と「難民」


移民と難民は混同されやすい概念です。外国人が暮らしているだけでは、その人が移民なのか難民なのかの区別はつきません。祖国から離れて、一定期間または永続的に外国で暮らす人を移民というなら難民も移民に含まれます。ただ、大きな違いがあるのは「出国の理由」です。移民の多くは希望や選択によって国外をめざしてきた人々であるのに対して、難民は自ら望むのではなく、命の危険などから選択の余地なく、国外へと移動を強いられた人々です。日本が経済的に豊かな国だからやってきた「経済移民」や職を得るためにやってきた「移住労働者」などと混同されることもありますが、難民は祖国に戻りたくても戻れない避難民です。



 「難民認定」されなければ保護は受けられない 


迫害から逃れて、日本にやってきた難民であっても、すぐに難民として保護されるわけではありません。自分は難民であると意思表明し、「難民申請」を行わなければなりません。難民申請の後に、認定のための審査が行われます。日本は難民条約の要件を厳格に適用しますので、迫害を受けた明確な証拠となる資料を日本語に翻訳した上で提出しなければなりません。同じ少数部族の人間が政府によって殺害されたり、拷問を受けた事実や反政府活動に参加した証拠となる映像や写真などが求められます。

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 入管に提出した一人分の証拠書類 
©難民支援協会

審査には平均3年以上という長い時間がかかります。「難民認定」されれば、「定住者」として5年間の「在留資格」が得られて、その後の更新も可能になります。不認定の場合でも「人道配慮」により、日本で暮らすことを許可される場合もありますが、日本語習得や就職支援が受けられない、家族の呼び寄せが難しいなど、受けられる公的サービスや権利に大きな違いがあります。

難民認定も人道配慮も認められなかった場合は、難民条約の強制送還の禁止原則が適用されず、「強制送還」の対象になります。再申請は認められていて、結果が出るまでは日本に滞在することが許可されます。ただし、最近では再申請者の就労を制限する動きがあり、滞在は許可されても、生きてく術を奪われてしまう人もいます。



 難民の状況改善につながる「第三国定住」 


難民は国外に脱出して、庇護を求めてどこかの国に逃げていきます。シリア難民のように国境を越えてとりあえず周辺国へと逃げる場合があります。しかし、最初に逃げ込んだ国では、十分な保護が得られず、難民キャンプで長期にわたって過酷な生活が続くだけになることもあります。

難民自身も辛いけれども、引き受けている国の負担も大きいものがあります。そこで、他の国が難民の定住を了承して引き受ける「第三国定住」と呼ばれる制度があります。難民の生活状況の改善につながるとともに、限られた国に集中しがちだった難民保護の負担を、各国で分かち合う点で大きな意義があります。

最初に難民が避難してきた庇護国は、難民に対して受け身の立場になりますが、第三国定住の場合は、その国が自らの意思で難民を引き受け入れることを能動的に表明したことになります。

日本政府も2010年、母国を逃れてタイ国に滞留していたミャンマー難民27人に対して、わが国での定住を認め、その後もミャンマー難民を対象に、「第三国定住」のプログラムを継続しています。

木下 真

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