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難民保護 第1回 日本も責務を果たす時代に

2016年11月09日(水)

 

Webライターの木下です。

今年9月、ニューヨークの国連本部で「難民と移民に関する国連サミット」が開かれました。この期間中の9月19日、安倍晋三首相が演説し、難民の自立支援や受け入れ国の開発支援のため、2016年から3年間で総額28億ドル(約2800億円)を拠出する方針を表明しました。その上で「難民・移民問題の解決のため主導的役割を果たしていく」と強調しました。


難民保護は、「地球的公共益」と考えられていて、地球環境問題同様に世界各国がリスクを分かち合うべき共通課題です。日本は久しく難民の受け入れの人数が少なすぎると国際的に非難を浴びてきましたが、徐々に変化の兆しがみられるようになってきました。

『ハートネットTV』でも、今年の8月2日にシリアの難民キャンプで暮らす障害者の問題を取り上げました。今回のブログでは、報道には接しながらも、なかなか身近な問題として捉えがたい難民問題について改めて考えみたいと思います。

 日本で暮らす難民の写真展 


4か月ほど前になりますが、今年の6月20日「世界難民の日」から1週間にわたって、東京メトロの表参道駅の通路で、「Portraits of Refugees in Japan-難民はここにいます」というタイトルの日本で暮らす難民28人のポートレート写真展が開催されました。この写真展は、認定NPO法人難民支援協会と写真家の宮本直孝さんが共同企画したもので、現在も難民支援協会のホームページで、これらの写真を見ることができます。同協会がこの写真展を企画した意図は、「難民を海の向こうの遠い存在ではなく、日本でともに暮らす身近な存在と感じてほしかった」からです。

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東京メトロ表参道駅の通路に展示されたポートレート写真
2016年6月20日~26日


難民とは、紛争や人権侵害などから自分の命を守るためにやむを得ず母国を離れ、身の安全を求めて国外に逃れてきた人々です。難民となる前は、私たちと同じように仕事をし、家族や大切な人とともにふつうに暮らしていた市民でした。それが、例えば、ある日突然空から降ってきた爆弾によって生活をはく奪され、言葉も通じない外国へとやってきて、新たな文化になじもうと懸命に努力し、失くしてしまったふつうの生活を取り戻そうとしているのです。



 難民危機に戸惑う日本

 

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シリア難民のジュディさん一家。
父親が2年半後に家族を呼び寄せました。©難民支援協会

いま私たちは海外からのニュース報道を通じて、世界の難民危機を毎日のように目にしています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、世界の難民の数はおよそ6500万人。日本の人口の約半数に当たります。これは人道支援でまかない切れる人数をはるかに超えて、第2次世界大戦以降で最大規模だと言われています。もっとも事態が深刻とされるシリア難民は、人口2240万人のうち約半数が国内外で避難を強いられ、およそ480万人が難民となり、レバノン、トルコ、ヨルダンなどの周辺国で、十分な支援もないままに困窮した生活を強いられています。そして、ふつうの暮らしを求めて、より豊かな先進国へと移動を始め、難民の受け入れに寛容だったEU諸国もその人数の多さに対応しきれない事態となっています。

この世界の難民危機、日本で暮らす私たちにとっては、遠い出来事であって、切実には受け止めにくいところがあります。漠然と、距離的に遠い、民族的に異なる、文化的に違い過ぎるなど、さまざまな理由を挙げますが、実際にはEUに押し寄せる難民の規模の大きさや、その背景の複雑さから、この事態をどのようにとらえたらいいのかが、わからずに戸惑っているのではないでしょうか。日本はUNCHRへの拠出額は世界第4位であるとともに、NGOやJICAの職員などを難民キャンプに派遣し、食料や衣料の支援、医療的ケアなどを行っていますが、一般の人々にとってはそのような支援活動も身近なものとはとらえがたいかもしれません。

日本は難民保護を定めた「難民条約」を1981年に批准していて、「命の危険がある国に強制的に難民を送り返してはならない」「不法入国などを理由として、難民を罰してはならない」という重要な約束事の順守が義務づけられています。また、1970年から2005年にかけてインドシナ難民を1万人以上受け入れたこともありますし、難民と無縁の国ではありません。

しかし、1982年に日本が難民認定制度を始めてから2015年まで、難民条約にもとづく難民認定数は660人。2015年の難民認定者数は27人で、人道配慮を理由に在留を認めた79人を合わせても100人余りに過ぎません。万単位で難民を受け入れているドイツ、アメリカ、スウェーデン、イギリスなどに比べると、日本の難民受入れはきわめて少数で、受け入れに積極的とは言い難く、理解の前提となる難民に関する基礎知識も、広く社会に共有されていないのが現状です。


 難民保護の新たな時代が始まる


写真展を企画した難民支援協会は、海外の難民を支援するNGOではなく、日本にやってきた難民の保護を目的とするNPO法人です。難民認定のための「法的支援」、衣食住の確保のための「生活支援」、日本に定住するための「定住支援」などを行うUNHCRの事業パートナーです。直接支援だけではなく、制度改善のための政策提言や啓発のための広報活動も行っています。

写真展のタイトルの「難民はここにいます」の「ここ」とは日本です。2015年に我が国において難民認定申請を行ったのは7586人であり,前年に比べ2586人(約52%)増加し,過去最多となりました。今年の5月には、日本政府はシリア難民の若者を、留学生として2017年から5年間で最大150人を受け入れることを決めました。難民問題は海の向こうの遠い出来事とは言えなくなってきているのです。


木下 真

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