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発達性協調運動障害 第2回 身体から発達障害を解明する

2016年08月19日(金)

 

法律で「その他」の障害と表現されるDCD 


Webライターの木下です。
2005年に施行された発達障害者支援法では、発達障害を以下のように定義しています。
 

「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって、その障害が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」

 

この法律の条文には「発達性協調運動障害(DCD)」という言葉はありません。しかし、「その他これに類する脳機能の障害」という表現があり、「政令」には、「言語の障害、協調運動の障害その他厚生労働省令で定める障害」という記載があります。発達性協調運動障害も発達障害の一種として、法的に支援対象として位置づけられていることがわかります。

しかし、そうであっても、法律の定義には「その他」と書かれているだけなので、発達障害に関する一般向けの解説書の多くでは、「自閉症スペクトラム障害」「注意欠如・多動性障害」「限局性学習障害」の3つを発達障害として紹介しています。

 

「自閉症スペクトラム障害(ASD)」:「社会コミュニケーションの障害」「対人的な想像力の欠如」「特定のものや動作へのこだわり」などの特徴があります。知的な障害や言葉の遅れをともなう場合とともなわない場合があります。

「注意欠如・多動性障害(AD/HD)」:「不注意」「衝動性」「多動」などの自己抑制の障害です。自己抑制がうまくできない背景には、脳の実行機能(課題や活動を遂行するために、計画したり、目的を意識したりする脳の働き)や報酬系が十分に働いていないことがあると考えられています。

「限局性学習障害(LD)」:「読む」「書く」「計算する」の3つの学習に関して、その習得に著しい困難があり、努力してもなかなか成果が上がらないという特性をもっています。LDの中核を成しているのは、「読む」ことへの困難がある障害(読字障害=ディスレクシア)だと考えられています。 

※2013年5月に精神医学の診断基準が改定され、発達障害の基準や枠組み、呼称にも変更が加えられました。従来の「自閉性障害、アスペルガー症候群」などの広汎性発達障害が「自閉症スペクトラム障害」として一本化され、「注意欠陥多動性障害」は「注意欠如・多動性障害」に、「学習障害」は「限局性学習障害」へと用語が変更されました。現在は過渡期で新旧両方の記述が使われています。


発達障害は親のしつけや教育の問題ではなく、脳機能の障害であることはわかってきていますが、「気になる子ども」と表現されるように「社会的な不適応」から診断を受けることが多いために、対人関係に直接支障が生じるわけではない不器用さは、発達障害の主要な課題とみなされてきませんでした。専門家の間でさえ、まだ十分に認識されていないのが現状です。

 

発達障害のわかりにくさ


20160816_2_001.jpg発達障害に関しては、書店には書籍も多く並び、講演会なども熱心に開かれ、ネット上でも支援の方法などを教えるサイトが数多く存在しています。1980年代以降にアメリカから発達障害という概念が伝えられ、30年以上が経ち、小児神経学や小児精神医学の専門家だけではなく、一般の小児科や精神医療の現場にも普及してきました。さらに教育現場でも支援の対象と位置づけられ、誰もが知るところとなっています。しかし、その一方で、発達障害にはある種のわかりにくさがあります。

例えば、ハートネットTVの発達障害に関するカキコミ板には、保護者のこんなカキコミが見られます。

「発達障害グレーの子がいます。療育も必要ないと言われる程度。でも勉強が苦手で、コミュニケーションが苦手で、みんなの輪からも浮いている。でも専門の機関からは『特に問題ない』と言われる、どっち付かずの“コウモリ”状態」(東京都 30代 母親)


発達障害は脳機能の障害であり、外見からは障害があることを判別できません知的な障害のない子も多いので、見た目はふつうに見えます。脳性まひやダウン症候群のように外見からも障害が明らかな場合とは異なります。

子育てのしにくさ、集団行動への不適応などを通じて、周囲の大人たちは発達障害の疑いをもちますが、その現れ方や経過はさまざまです。それが「一時的な発達特性」に過ぎないのか、それとも発達障害なのかを線引きするのは、専門の医師でも難しく、安易に診断は下せないと言います。発達障害の診断基準の項目が多く当てはまるということから、機械的に発達障害とみなすことは可能ですが、発達障害のある子と定型発達の子どもとの間に厳然とした境界線が引かれているわけではなく、その境界部はあいまいで「幅広いグレーゾーン」が存在します。

また、発達障害はそれぞれがお互いに「併存しやすい傾向」があります。例えば、限局性学習障害は、注意欠如・多動性障害とも併存しやすく、その困難さがどちらからくるのか一見判別がしにくい場合もあります。しかし、学習到達度の低さが注意の問題からくるものなのか、文字の読み書きにつまずくために起きているのかを見極め、それぞれに適切な支援を行っていく必要があります。同じように、うつ病、不安障害、強迫性障害などの精神障害を診断する場合でも、発達障害を原因とする生活上のストレスから引き起こされた「二次障害」なのかを見極めていかなければなりません。

20160816_2_002.jpgさらに、発達障害は、本人の成長発達の過程や、環境の変化によって障害像が変化していきます。質的に変化したり、ときには症状が改善していくこともあります。脳の機能そのものは変わらなくても、周囲の理解や支援、本人の生活の工夫や支援技術、合理的配慮によって社会への適応力を増していくこともあります。

カキコミ板の保護者の方のように、生活上で支障が出ていても発達障害と診断されない場合もあれば、発達障害と診断されていても生活上では大きな支障がない場合もあります。また、たとえ発達障害に類似する特性があったとしても、社会に適応できているなら、それを障害と呼ぶ必要はありません。

このような発達障害のわかりにくさは、発達障害がどのような原因で、どのようなプロセスを経て、障害として現れてくるのか、そのシステムがはっきりと解明されていないことに理由があります。研究者は、その点の解明のカギを与えてくれるものとして、発達性協調運動障害に着目しています。また、対人関係から障害を判断するよりも、身体動作や姿勢や運動から子どもの発達の偏りを判断する方が、客観的であり、早期発見や早期支援につながりやすいことも指摘されています。

※参照 : 『よくわかる 発達障害の子どもたち』(榊原洋一)/『発達障害の子どもを理解する』(小西行郎)/『チャイルド・サイエンス Vol.10』「発達障害の診察室で考えていること」(中井昭夫)

 

木下 真

 

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