本文へジャンプ

発達性協調運動障害の子どもたち【後編】

2015年09月30日(水)

兵庫県立リハビリテーション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター」の小児リハビリテーション室で、二人目の子どもさんにお会いしました。小学3年生のM君は、注意欠如・多動性障害(AD/HD)と発達性協調運動障害(DCD)とが併存するケースです。M君が病院を受診したのは、落ち着きがないなど注意欠如・多動性障害の症状のためでしたが、小児科医の中井昭夫さんの診察を受け、発達性協調運動障害もあることがわかりました。
M君に好きな学科を聞くと、「理科、図工、体育」という答えが返ってきました。「体を動かすのは好き?」と聞くと、「好き!」という返事。不器用だからと言って、ものを作ったり、体を動かしたり、遊んだりするのが嫌いというわけではないようです。

20150929_201_R.JPG

M君がドミノ倒しを一緒にやろうと小児科医の中井昭夫さんを誘っています。



「発達障害の子どもは“発達しない”などと思っている人もいますが、発達障害の子どもたちも、ゆっくりであったり、道筋はいろいろですが、ちゃんと発達していきます。ひとつひとつ教えられなくても何となく自然にできるようになっていく定型発達の子どもとは違っていますが、やったことは、徐々に、確実に上達していきます。ある日、何かが劇的に上手になることだってあります。きちんとした評価に基づき、その子に合わせた療育や支援の方法を見つけ、一緒に取り組んであげることが大切です」と中井さんは語ります。
 

【母親の話】
子どもの頃は夜泣きがひどくて、1時間ごとに起こされました。教室では走り回って、そのうち出ていってしまう。先生の言うことなど、まったく聞いていません。ていねいな作業ができないので、字を書くのは苦手ですし、枠内をきれいに色付けする塗り絵のようなものもきらいです。食事のときには、食べることに集中できず、手元を見ず、また不器用なためにご飯をぼろぼろこぼします。一緒に手をつなごうとすると、力の加減がわからずに、ギューっと相手の手を引っ張ってしまうので、大人は歩きづらくて仕方がないんです。
決まったことをやるのが苦手ですし、真似をしたり、人のやっていることを手本にすることができないみたいです。よくしゃべるし、よくふざけますが、それはできない自分をごまかそうとしているのだと思います。


健診で保健師さんに相談しても、「大丈夫ですよ、様子を見ましょう」と言われることが多かったですね。この病院に来て、注意欠如・多動性障害(AD/HD)の他に、発達性協調運動障害(DCD)と診断を受け、薬物治療とリハビリテーションを受けるようになってから、ようやく落ち着きが増し、できることも増えました。授業にも集中できるようになり、成績も見違えるようによくなりました。教科の勉強だけではなく、図工の時間に描く絵も変わりました。それまでは、人間の肩からすぐに手が出ている変な絵を描いていましたけど、きちんと腕が伸びた人間を描けるようになりました。嫌いだった体育や図工もいまでは「好き」と言えるようになりました。

20150929_202_R.JPG療育のメニューは、子どもの要望をちゃんと聞きつつ、療育効果のあるメニューを大人の側からも提案し、子どもと保護者と相談しながら決めていきます。



20150929_203_R.JPGビー玉の動きを見つめながら、身体全体を使いながら手の傾き加減を調整しています。このような遊びを通じて障害は改善していきます。


M君は、作業療法士の若林秀昭さんと大きめのボールでキャッチボールをしていました。「キャッチボールをするには、自分がボールを投げるだけではなく、相手の様子を見ながら、相手が取りやすいように投げるタイミングや力加減を調整しなくてはなりません。こういう療育メニューは、単に運動としてだけでなく、非言語のコミュニケーションの発達にもつながります」と中井さんは語ります。
学校の体育の授業と医療機関での療育とは、何が違うのでしょうか。作業療法士の若林さんに聞いてみました。
「学校の体育は集団でやるものですから、個人をサポートするのはどうしても難しい。できない子どもがいても、練習の質を変えるのではなく、量を増やすことで、乗り越えさせようとしがちです。でも、それでは発達に課題のある子どもの能力は向上していきません。私たちは、できない行為をできるだけ緻密に分析して、何ができて、何ができないかを明らかにしながら、練習のメニューを段階づけて考えていきます」

20150929_204_R.JPG作業療法士の若林さん。「子どもたちには、“今日も来てよかった、楽しかった”と思えるように、かならず何らかの成果を上げて帰ってもらうようにしています」。


最後に、中井さんに、療育のメニューを決めるポイントをお話ししていただきました。「子ども自身がやりたいこと、やれるようになりたいことを最も重視します。また、療育施設の特殊な器具を使わないとできないメニューではなく、家庭や学校など日々の生活の中で可能なメニューも提示します。自尊感情を損なって、やる気をなくす、それで苦手なことから遠ざかり、さらに不得手になる。そういう悪循環に陥らせないために、本人が“やった!”と喜べるようなメニューを用意してあげたいですね。」

 

▼関連ブログ
  「不器用な子どもたち」に理解と支援を
  発達性協調運動障害の子どもたち【前篇】

コメント

うちの次女も発達障害(の疑い?)で病院の検査に定期的に行っていますが、広汎性と名前がついているだけで、発達性運動強調障害についてはご存じなのか疑問です。検査自体にも2,3か月かかるし、療育もしていただきたいのにやんわりと断られていて、療育が遅れると修正・矯正に時間がかかるのではないかと不安です。田舎の病院ですからあきらめていますが、先生に聞いてみようかと思います。

投稿:hm 2016年06月21日(火曜日) 23時17分