本文へジャンプ

発達性協調運動障害 第4回 どうやって支えるのか

2016年08月23日(火)


 

不器用さを受容し、本人の上達を信じること


Webライターの木下です。
発達性協調運動の子どもたちの「不器用さ」は、生活の場面でも、学習の場面でも、本人の心に大きな負担となります。不器用さは、専門家ですら脳の機能障害と理解している人は少ないために周囲からの支援は受けにくく、逆に、保護者や教師から間違った対応がなされて、事態が悪化するケースがあります。

例えば、「縄跳びが飛べない」「縦笛が吹けない」「字をマス目に収められない」、そのような子どもに対して、教師も保護者も「練習が足りない」「怠けている」「だらしない」「何度も繰り返せば、必ずできるようになる」として、反復練習を強いる指導をしがちです。本来は発達障害の一種であることを理解した上で、ていねいな説明と適切なサポートや合理的配慮を行うべきなのに、挫折感や屈辱感を与えるような訓練が繰り返され、結果として本人の自尊感情が大きく損なわれるという問題が発生します。最悪の場合、虐待、いじめ、体罰などのターゲットになり、感覚や運動レベルの障害にとどまらず、二次的な精神障害まで負うことになります。

では、このような子どもたちをどのように支援していけばいいのでしょうか。不器用さの改善はできるものでしょうか。

20160816_4_001.jpg自閉症やADHDで運動が極端に苦手な子どもたちのスポーツ指導をしている筑波大学准教授の澤江幸則さんは、「どんなに運動が下手でも、体を動かすことが嫌いな子どもはいません。比較されることがなく、“ここでは下手でもいいのだ”とわかれば、子どもたちは安心して運動にチャレンジします。小さな目標であっても、それを達成した喜びは子どもを前向きな気持ちにさせます」と話します。

20160816_4_002.jpg澤江さんの活動では、子どもたちは仲間と運動能力を比較されることはなく、「ボールで的を倒す」などの運動遊びの中で体を動かす楽しさを体験していきます。走ったり、飛んだり、ボールを投げたりするのは、誰かに勝つためではなく、自分のやりたいことを成し遂げるためです。

発達性協調運動障害の子どもたちは、定型発達の子どものように自然に上達していくのは難しいので、大人が介入していく必要はありますが、基本的には本人のやりたいこと、できるようになりたいことを尊重し、指導者は具体的なアドバイスや自然に動きが改善されるようなサポートによって、それを手助けします。

 

一人ひとりに寄り添う支援を


発達障害が、協調運動などの身体性と密接に関係していることを裏づけるかのように、近年、運動療法が「社会性の障害」「実行機能の障害」「学習能力」なども改善することが明らかになってきています。

20160816_4_003.jpg長年発達障害の子どもたちの支援活動を続けてきた小児科医の中井昭夫さんは、当事者や家族の困りごとと、支援者の診断や支援の進め方とのギャップを感じてきました。社会性に問題のある困った子どもととらえ、社会に適合できるような訓練を積むだけではなく、発達障害の子どもの世界観を理解し、あらゆる子どもの発達の基本である「自ら動き、体験すること」を尊重することが大切だと言います。

発達障害のある子どもは、五感で世界を知覚する仕方や、手足を動かす出発点が定型発達の子どもとは違っています。その世界を理解した上で、本人が望むこと、興味のあることの手助けをしていくことが、発達を促す方法だと言います。

発達障害と一口に言っても、症状の現れ方は千差万別です。大切なのは、問題の感じられる子どもを単にチェックリストに当てはめて、発達障害というレッテルを張るのではなく、「コミュニケーション」「協調運動」「学習の認知プロセス」などさまざまな側面からその子の生きづらさや困りごとを見極め、その子どもと家族に必要な柔軟な支援のプログラムを組むことが求められます。

いま、中井昭夫さんは、幼児の健診の場で、本人の身体活動における困りごとを早期に発見して、発達障害の支援や介入につなげていくための、客観的な評価基準となるアセスメントツールの開発を始めています。

※参照:『発達障害の子どもを理解する』(小西行郎)、『チャイルドヘルス 特集子どもの不器用』(中井昭夫)、『チャイルド・サイエンス Vol.10』「発達障害の診察室で考えていること」(中井昭夫)

 

木下真

▼関連ブログ
 発達性協調運動障害 全4回

 第1回 不器用な子どもは発達障害の可能性が
 第2回 身体から発達障害を解明する
 第3回 運動と認知発達
 第4回 どうやって支えるのか

 
 楽しさを重視するスポーツ価値の意識改革

 発達性協調運動障害の子どもたち【前編】
 発達性協調運動障害の子どもたち【後編】
 「不器用な子どもたち」に理解と支援を

▼関連情報
 【お役立ち情報 発達障害】 
相談窓口などをまとめています

コメント

※コメントはありません