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あさイチで「生ダミヘ」が実現するまでの6年間のハナシ

NHKアナウンサー、松岡忠幸です。
元『あさイチ』のリポーターで、みなさんの推し活を紹介する「#教えて推しライフ」の立ち上げリポーターでした。(現在は、金沢局)
もしかすると、コスプレアナウンサーと自己紹介した方が、『あさイチ』視聴者には分かりやすいかもしれません。転勤後も、引き続きコスプレアナウンサーとして仕事をしています。
アニメをこよなく愛する私が、ぜひ地上波でやってみたいと思っていた演出がありました、
それが「ダミーヘッド」。
マネキンの耳の部分に高感度のマイクが内蔵されていて、声優が話す位置や声量によって、実際にその場で耳元でささやかれているような臨場感を味わえるものです。
なんと、10月5日のあさイチの「声推し」特集には、「ダミーヘッド」が登場!
実は、私がアドバイザーとして関わっていました。
この日を夢見て6年前にはじめた壮大な計画の舞台裏をご紹介します。

「ダミーヘッド」を知っていますか…?

ダミーヘッドとは…
人間の頭部を模したマネキンのようなもの(=ダミーヘッド)の耳に小型のマイクを内蔵したもので、これを使用して音声を録音すると、あたかも耳元で話しかけられているよう体感することができる。

10月5日放送の「あさイチ」でダミーヘッドを使った演出が行われました。
放送で聞いた福山潤さんのダミヘ音声は、さすがの破壊力でしたね!ダミーヘッドマイクのまわりをさりげなく移動しながらセリフを言うことで、音の聞こえる位置の変化を際立たせるテクニックなど、本当にさすがでした!

Kis-My-Ft2の宮田俊哉さんのダミヘボイスもさすがでした。あと、2022夏アニメの推しがリコリコ千束だと語っていらっしゃるのを聞いて、声推し的観点では、演じている安済知佳さんのユーフォ麗奈とのキャラの振れ幅の凄さなど宮田さんと語りたいなと思いました。

はじまりは、1通のメールだった…

今年の8月半ばに、今回の担当ディレクターから私のところへ以下のような問い合わせがありました。

担当ディレクター

「あさイチ」の生放送のスタジオに声優さんを呼んで、スタジオで、アテレコや番組で募集したセリフをいろんな声でささやいてもらうなどの演出を検討しています。
そこで、ダミーヘッドマイクを使用して放送してみたらより堪能できるのではないか、NHKプラスでイヤホンをしながら聞けば、より左右の耳元でささやいている声を堪能できるのではないかと思っております。

先日、推しの会議で話していたときに、すでに使用実績があるらしいと聞きました。こうした演出は生放送で過去実績があるのでしょうか?
また、それはどんな番組だったのか教えていただきたいです。

生放送でも先述のような演出実績があれば、心強いなと思い、誠に勝手ながらご連絡させていただきました。
お手すきのタイミングで構いませんので、教えていただけますと幸いです。

2年前の推し特集立ち上げ時から、「声推し」は絶対に盛り上がる、その時には“生ダミヘ”をやるべきだという話をディレクターたちにしつこくしていました。
その話が、きちんと引き継がれていたようです。
ということで、ヲタク特有の饒舌(じょうぜつ)すぎる長文で返信したのでした。

ヲタクとして「ダミヘ」の実績と経験を熱弁!

松岡

結論から言うと、生放送でのダミヘ演出は可能で、FM放送ですが実績もあります。
【ダミヘ演出の原理】
ダミーヘッドマイクは、人間の耳が音声から距離感や方向を認識する仕組みを応用しています。
人間は、左右の耳に入ってくる音声の大きさやタイミングのズレから、音源との距離感や方向を認識しています。
ということは、耳たぶの形や質感まで含めて、一般的な人間の左右の耳と頭部を再現した模型を作って、その鼓膜にあたる部分にLRのマイクを埋め込んだダミーヘッドマイクで音声を録音し、それをヘッドホンなどを使って左右の耳元でステレオ再生すれば、音源との距離感や方向を人間は錯覚してしまうというものです。
なので、原理的にはステレオ放送であれば、テレビであれラジオであれ、生放送でもダミヘ演出は可能なはず!

【NHK-FMでの放送実績】
という仮説を私は立てて、2016年1月11日の成人の日に、12:15~22:45の10時間にわたってNHK-FMで札幌局から全国放送する「今日は一日 イケボ三昧」という番組を企画、制作、出演しました。
AMラジオだとモノラル放送なのでダミヘ演出は不可能だけど、FMラジオはステレオ放送なのでダミヘ演出が生でも可能なはず!というわけです。
ダミーヘッドマイクが札幌の民間のスタジオにあることを突き止めてレンタルし、音声さんといっしょにテストをしてGoサインを引きずり出しました。
今回も、生放送で使うにあたっては、実際の放送で使うマイクを準備して、事前に音声さんとテストしてみることが必須だと思います。
そして、演出として、「今からダミヘ音声タイムなので、みなさん、ヘッドホンやイヤフォンを装着してください!」という形でアナウンスをした上で、きっちりコーナーとして区切って、音声系統をダミヘマイクだけ生かす、という感じにする必要があります。

当時の放送は大成功でした。視聴者からイケボで言って欲しいセリフを募集して、実際にダミーヘッドマイクでささやいてもらうという、今回のあさイチでやりたいことをそのまんまやれた感じです。
参考までに当時の台本を添付しておきます。

【ダミーヘッドマイクを使った演出はきっちり研究を】
ダミーヘッドマイクの特性を生かした使い方には、けっこうコツがあります。正面からしゃべるだけだと、普通のマイクとの差がほとんど分かりません。左右どちらかの耳に口を寄せてささやく方が良いです。私はいわゆるバックハグの状態で、うしろからささやく使い方が、背中がぞくぞくして一番好きです。
声優さんの音声ドラマなどでは10年近く前から何かと使われまくっているので、それなりにノウハウがあって、イケボファンの間ではけっこうハードルが上がっています。そういったCDやネットコンテンツをいくつか聞いて、それなりに研究をして演出イメージを固めてください。
イケボ三昧の時は、出演いただいた声優の緒方恵美さんから、いろいろとアドバイスいただきました。声優さんもダミーヘッドマイクを使った収録はたいてい経験していると思うので、事前にどれくらい慣れているか聞いておくのがよいと思います。慣れている声優さんは、効果的な使い方をきちんと分かっているので、相談にのってもらえると思います。

ということで、ダミヘ生放送が実現することを楽しみにしています。とにかくtwitterが盛り上がります。
当時は、FM放送にもかかわらず、トレンドを独占する形になりました。時代が早すぎて、局内の誰にも理解してもらえませんでしたが…。
ASMRブームなんて、まだ影も形もなかったですし…。
スマホ視聴とも相性が最高なので、NHKプラスの見逃し配信で楽しんでくれる方もたくさん期待できると思います。

何かわからないことがあれば、なんでも聞いてくださいな。

思いがあふれすぎて、われながら長過ぎる返信でした。しかし、担当ディレクターが猛烈にまじめで、私が送り付けたイケボ三昧の台本まですべて読み込んでくれたのには感動しました。

このイケボ三昧の手応えがとにかく凄まじかったので、「総合テレビで生ダミヘ」という夢を抱くようになったのでした。コツコツと続けてきた種まきが、6年がかりで実を結んだことに感動しています。

振り返れば、6年前…

これは、借りてきたダミーヘッドマイクの箱を初めて開けた時の写真です。
日付を見ると2015年12月17日でした。猛烈にワクワクしたことを思い出します。

6年前のイケボ三昧生放送エンディングでは、メインゲストの草尾毅さん(SLAM DUNK桜木花道役など)にダミーヘッドマイクを使ってささやいてもらいました。私なりにディレクターとして最高の台本を書いたつもりだったのですが、本番では草尾さんがアドリブでさらに最高のエンディングにしてくれました。

ダミヘって、次元の壁を超えるんですよね。アニメは二次元だし、実写でも、テレビ画面の向こうに広がっている三次元の世界は遠すぎて、結局は画面という二次元です。それが、ダミヘ音声は、自分と同じ空間に存在を感じさせてくれるんです。同じ三次元空間に出現するんです!

きょうの『あさイチ』推し特集は、金沢の自宅で視聴者として見ていたのですが、やっぱり最高でしたね。番組スタッフが全力で準備してきたものを、ゲストが軽やかに上回ってくれて、最高の放送ができあがるのです。

まだ見ていない方は、ぜひNHKプラスの見逃し配信で見てください!
1週間の見逃し配信期間であれば、福山潤さんの生イケボを、何度でも繰り返し聞くことができます。
その際は、ダミーヘッドマイクの音声を味わうために、イヤホンやヘッドホンを使うようにしてくださいね。
そして、まだNHKプラスに登録していないという方は、手続きしたらすぐに使えるようになります。この機会に、ぜひ登録して使ってみてください。

ダミヘ演出を見て…

金沢から知見を伝えるだけで現場に立ち会えなかった今回の放送、テレビの生放送でダミーヘッドマイクを使うというチャレンジを成功させた現場のみなさんに心から敬意を表したいと思います。
その上で…
「声優さんはちょっとした息遣いなどでも演技をするものですし、ダミヘの時にBGMはなくてもよかったのではないか」など、今後の課題や改善点も見えてきました。
こうして、少しずつ実績とノウハウを積み上げて、新しい技術を放送に取り入れていくのは、とても尊いことだと思います。
改めて、今日の現場で頑張ったスタッフのみなさん、何より、出演者のみなさんに、心からありがとうと言いたいです。おもしろかったです!

おまけ

ディープな楽しみ方をするあなたのために、2016年イケボ三昧放送時にトレンド入りしたワードをご紹介しておきます。今回のものと見比べると、いろいろと感慨深いですよね。
「安元大事件」「放課後エデン」「間の楔」「まるマ」「リボーン」「HE★VENS」「サティスファイ」「アリギル」

金沢局に転勤した松岡アナの最近のお仕事はこちらの記事から!

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担当 イノウエの
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みんなのコメント(3件)

感想
ひずみ
40代 女性
2022年10月6日
ダミヘいいですよね。昔、FMの青春アドベンチャーかアドベンチャーロードで使われていて衝撃を受けました。その思い出が大変強く、ShibuyaDeepAでタレントさんにセリフを言ってもらえる企画が始まった際「ぜひにダミーヘッドマイクの使用を!」と投稿のついでに感想をお送りしました。あんなにお値段が高くて貴重なものだとは思ってもいなくて。。。
DeepAでもダミヘ企画は単発であり、とっても楽しかったです。そういえばあの時もBGMはカットされていたような。。
今回のあさイチでも耳にくる立体的な存在感。すごいですよね。ラジオドラマでは本当に複数人数の空間の動きがよくわかってしまうんですよ。
ラジオと違い、テレビではとっても広いスタジオでの集音。環境をつくることに相当に気を使われているんですね。
感想
ミスター
50代 男性
2022年10月5日
松ナビーはやはり推し特集には無くてはならない?(笑)
マニア好みな正統派アナウンサー?(笑)
感想
かもめ
40代 女性
2022年10月5日
スタッフの皆さんが一企画にかける思いを知れたこと、その裏にはオタクだからこその松岡アナの熱い思いと実績があったこと、知れて良かった!!!
そして、お元気にコスプレしているようで、安心しました!