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【続報】“後遺症専門外来”新型コロナ後遺症治療 現場の医師が向き合う認知機能障害

高止まりのまま長引く新型コロナウイルスの“第7波”。オミクロン株の感染者の多くが軽症で済んでいる一方で、死者数は最高レベルに達しています。現在主流のオミクロン株に置き換わることが危惧されているのが「BA.2.75(ケンタウルス)」です。詳細はまだわからない部分も多いものの、感染力が高いことは確実視されています。

爆発的に増える患者に加えて、大きな課題になっているのがコロナ後遺症患者の急増です。去年1月に聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)に開設された“後遺症専門外来”には、これまで約600人の患者が受診。その数は日に日に増えてきています。

※2022年8月25日クローズアップ現代HPに公開した記事を再掲載します。

報道局社会番組部 チーフディレクター
松井大倫

NHKスペシャル「新型コロナ病棟 いのちを見つめた900日」

10月1日(土) 22:00~22:50 放送 [総合]
※NHKプラスで見逃し配信を10月8日までご覧いただけます

“後遺症専門外来”は今

聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)

2020年4月から長期取材を続けている聖マリアンナ医科大学病院。同病院の“後遺症専門外来”には今、働き盛りの世代だけではなく、10代の若者が次々と受診に訪れています。その症状は、人によってばらばらです。

40代の女性は歩くだけで頭痛がひどくなり、大きな音を聞くと頭が締めつけられる症状に悩んでいます。60代の男性はけん怠感だけでなく、なぜか左手で物を持つと落としやすくなるといった、希有(けう)な症状に悩んでいました。新型コロナに感染した時は軽症だったのにもかかわらず、脱した後、無気力や慢性疲労症候群を伴った後遺症に悩まされ続けています。

同病院のリハビリテーション科では、コロナの後遺症患者の脳の血流を調べ、低下している場合、磁気をあてて脳を刺激する治療を行っています。これまでに約8割の患者に何らかの改善があったことが報告されています。多くの後遺症患者に治療を施している佐々木信幸医師が、治療現場の最新の状況をメッセージで寄せてくれました。

「rTMS」を用いた治療 その効果は 

聖マリアンナ医科大学病院 リハビリ科 佐々木信幸医師
佐々木医師

「私たちは新型コロナウイルス感染後の『ブレインフォグ』(※筆者注:記憶力や集中力など、認知機能が低下する症状)を含む認知機能障害に対し、『反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)』を用いた治療を行なってきました。これまでの治療経験から有効性を示唆するようなデータは蓄積されつつあるものの、症状や脳画像の所見に応じてどのような刺激を与えるのが最適かといった課題は山積しています。

ある50代の男性は、おととし10月に新型コロナウイルスに感染後、よく知っている同僚や隣人の名前が出てこない、得意であったテニスでラケットにボールが当たらないなどの記憶や視覚に関わる症状が現れ、それが1年以上続きました。

ことし1月から当科でrTMSによる治療を行ったところ、4月には自覚症状、客観的な認知検査成績、脳血流シンチグラム(※脳の血流の変化)における所見もはっきりと改善し、いったんrTMSを終了しました。しかし、1か月後の再診時には、以前ほどではないにしろ、症状は再度悪化しており、現在頻度を落としてrTMSを再開しています(再開後はまた症状は改善しています)。

適切なrTMSの強度・頻度・総量というのは重要な課題ですが、おそらく患者によっても異なるため、結論を出すことは容易ではありません。現状は、患者の経過に応じて適切に対処するしかないと考えています」

「rTMS」はワクチン接種後の後遺症に有効?

「rTMS」を用いた治療
佐々木医師

「最近になって、ワクチン接種後のブレインフォグも話題に上がるようになってきています。注意しなければならないのは、ワクチン接種後遺症とも言うべきこの症状について、詳細はほとんどわかっていないということです。新型コロナウイルス感染による後遺症と同様に、自己免疫の関与が疑われる病態なのか、単なるワクチン接種後副反応の長期化なのか、世間でブレインフォグ等が認知されるようになったからこその心理誘導的症状なのか…など、さまざまな原因や病態が考えられます。新型コロナウイルス後遺症以上に詳細がわからないものの、確かに似た症状の患者は存在するし、脳血流シンチグラムでもそっくりの所見を呈する場合もあります。

現在主流の『BA.5』や今後流行する『BA.2.75』に対しては、ワクチン接種による重症化予防効果はあるものの、感染予防効果は低いこと、そしてこれらの株の重症化率自体がそもそも低いことを考慮すると、ワクチン接種はいたずらに副反応やワクチン接種後遺症を増やすリスクを上げることにつながるのではという意見も聞かれます。

しかし一方で、そもそもブレインフォグの発生抑制や発生後の治療にワクチンが有効という報告もあります。非常にナーバスな問題であり、私も現時点で私見を述べられるほどデータを有しているわけではありません。

ただ、ワクチン接種後遺症としてのブレインフォグや認知機能障害にも、私たちが行っているrTMSは有効かもしれません。現在、新型コロナウイルス感染歴がないにも関わらずワクチン接種後に頭痛・けん怠感・思考停滞・記憶低下が持続している20代の女性に対してrTMSをを用いた治療をしており、効果持続はまだ短いものの一定の効果を認めています」

後遺症の症状も多様に

佐々木医師

「当科での新型コロナウイルス感染による後遺症に対するrTMS治療は100例を超えました。当初は、強いけん怠感や記憶障害を訴える患者が多くいましたが、症状が広く認知されるようになるにつれ、受診する患者が訴える症状は多様になってきている印象があります。

実際、脳血流シンチグラムを施行してみると、患者の脳血流の所見は同一とは言えません。共通した異常所見の部位もあるものの、その広がりや程度は千差万別です。そのような個別の客観的所見と、患者の訴える症状との妥当性を重視しています。

ある40代の女性は歩行をしていると頭が痛くなる、大きな音を聞くと頭が締めつけられるといった症状を訴えており、客観的所見として下肢の運動・感覚に携わる頭頂部や、聴覚に携わる側頭葉における脳血流の低下が目立っていました。

別の60代男性は疲労感などの一般的な症状に加え、左手に持った物を落としやすいと訴えており、左上肢の感覚に携わる部位の脳血流が強く低下していました。もちろん脳血流低下がそのまま症状につながるわけではなく、何の脳症状も認めない健常な人でも調べてみれば、部分的な脳血流低下を呈することもあります。しかし、症状に妥当性の高い脳血流低下所見があれば、そこに病気の原因があるのではないかと考えrTMSによる治療を試みています。

私たちは、現在行っているrTMSが最良の治療であるとは考えていません。多くの患者さんからのフィードバックにも支えられつつ、共により良い治療的介入方法へのブラッシュアップを試みている最中です。また、当然ながらrTMS以外の治療との連携も重要だと考えています。抗炎症作用や循環改善作用のある漢方薬の内服、鼻の奥を薬液で擦り、免疫を賦活(活発化)する『上咽頭擦過療法(EAT)』などが、体の内から高めて結果的に脳を元気にする治療であるとするならば、私たちが行うrTMSは直接的に脳を起こして結果的に患者の活動を上げるような治療です。当院ではさまざまな科の連携による総合治療として、このブレインフォグを含む認知機能障害に立ち向かっています」

治療後の経過は…

佐々木医師が、何例か治療をした患者さんの経過を教えてくれました。

① 40代の会社員

「当科の初診時、すでに感染から7か月が経過していました。感染急性期(※感染して間もない時期)は軽症であり、自宅療養のみで発熱やせきは治ったものの、その後ずっと強いけん怠感のため仕事にならず、物の名前が出てこない、文章を読んでも理解できない、考えがまとまらないなどの後遺症が続いていました。
『10時10分』を示す時計を描くテストでは、長針と短針が逆になってしまうなど、通常では考えられないような誤りが仕事でも多発していました。後頭葉と前頭葉に強い脳血流の低下が認められ、その部位をrTMSで促痛(※刺激を与えること)するような治療的介入を行なったところ、,b>脳血流低下の改善と共に種々の認知機能障害は大幅に改善し、時計も間違えずに描くことができるようになりました」

②40代の主婦

発症後14か月が経過してから当科を受診したこの患者も、強い倦怠感や記憶障害を呈していました。まともに歩くことができず、車椅子で来院しました。座位で検査をする限り、まひや筋力低下はないものの、立つとバランスがとれず、歩き始めると大きくよろめき、手すりなどにつかまる必要がありました。
脳血流の低下は、同様に後頭葉や前頭葉に認められ、その部位にrTMSによる治療を施したところ、初回の10分ほどのみで、まっすぐに立って歩行が可能になりました。
通常、私たちは視覚など脳に入力された情報を瞬時に認識・解析した上で適切な動作を出力しますが、その認識・解析に問題があると適切な動作につながりません。rTMSによりその過程が改善したことによって、立って歩くことができるようになったと考えられます。初回のみでは効果の持続は短かったものの、数回施行後には車椅子も不要となり自立することができ、その他の症状も改善しました」

佐々木医師

「多くの患者に共通することですが、症状はひと言では表せません。『これがダメ』というようなものではなく、全体的に能力が低下していることや、はっきりしないことがまさしく『brain fog(頭にかかった霧)』と言うべき状態です。だからこそ、患者自身もその症状を説明しにくいし、周囲の理解も得られにくいのが現状です。

しかし、脳血流シンチグラムや専門的な認知機能検査をしてみると、その症状が医学的妥当性をもって浮かび上がってきます。『自分はいったいどうなってしまっているのか』と悩む患者さんにとって、根拠を示されることは安心感にもつながるように思います。

とある高校生の患者から『学校の先生が今ひとつ病状を理解してくれない』と相談を受け、脳血流シンチグラムの写真と認知機能検査の結果を添付した説明文書を作りました。すると、学校での対応も適切なものになり、それが本人の改善にも良い影響を与えたことがあります。まだまだ詳細不明な病態であっても、医学的に症状の妥当性を見出そうとする姿勢は重要であると感じています」

【取材後記】~苦しいコロナ後遺症から解放された人たちも~

私はコロナ重症者の取材と並行して、後遺症患者の取材も行っています。いまだに後遺症について周囲から理解されないだけでなく、後遺症と診断されず、原因不明の症状に悩んでいる方は数多くいらっしゃいます。

1年近く取材している女子高生は今月、後遺症の症状が見受けられなくなったとして、外来の診療を終えました。彼女と、その経過をずっと見守ってきた母親は、喜びを隠せない感じでした。スポーツが大好きだった彼女は後遺症のため転校を余儀なくされ、今は新しい環境で、今までとは違う目標を持ち懸命に生きています。後遺症によって人生の歯車が変わってしまいましたが、この苦しかった1年を糧に、他の人にもより優しくできる人間になりたいと彼女はインタビューで答えていました。

感染者増に歯止めがかからない今、さらに今後、後遺症に悩み苦しむ人たちがあらわれることは避けられません。こうした人たちを支える社会の仕組みも、必要ではないでしょうか。

NHKスペシャル「新型コロナ病棟 いのちを見つめた900日」

10月1日(土) 22:00~22:50 放送 [総合]
※NHKプラスで見逃し配信を10月8日までご覧いただけます

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担当 松井ディレクターの
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この記事の執筆者

報道局社会番組部 チーフディレクター
松井大倫

1993年入局。2020年4月から聖マリアンナ医科大学病院コロナ重症者病棟の取材を続けている。