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【家族が認知症と診断されたら】当事者に聞く 接し方のポイントは?

もし自分の家族や親しい人が「認知症」と診断され、本人が強いショックや不安を抱えていたら、周りの人はどのように向き合ったらいいのでしょうか。先日、認知症の当事者や家族同士が支え合う「ピアサポート」の取り組みを動画で紹介したところ、「家族はどう接したらいいのか聞いてみたい」という声を頂きました。
そこで今回は、認知症の当事者である渡邊康平さんと妻の昌子さんに、ご自身の経験や普段感じていることをもとに、「家族の接し方について」のアドバイスを伺いました。

(「クローズアップ現代+」ディレクター 加藤弘斗・武井美貴絵)

渡邊康平さん(78)

5年前に認知症と診断される。香川県内の病院で行われているピアサポートに相談員として参加、これまで約70人の当事者の相談にのってきた。 国が認知症の普及啓発を行うために選んだ「希望大使」としても活動。

渡邊昌子さん(77)

康平さんの妻として、ピアサポートにも参加。家族の目線から同じ立場の人たちの話を聞き、当事者への接し方などのアドバイスをしている。

※渡邊さんの経験やピアサポートの活動については、こちらの記事もご覧ください。

①本人のプライド・尊厳・繊細な気持ちを大切に

加藤ディレクター
康平さんが診断を受けたあと、周囲の何気ない一言に敏感になった時期もあったそうですが、いま振り返ると当時どのような心境でしたか?

康平さん

認知症と病院で診断されて3か月ぐらいは、ほとんど言葉も出なくて、食事もあまり食べられなくなって、どんどん痩せていきました。自分の心や頭にゆとりがなくて何か針が刺さったような感覚もあり、 周りの人たちの言葉や動作にカチンとくることもありました。

昌子さん

お父さん(康平さん)は、診断後の一番どん底の時は覚えてないんだそうです。ある意味ガードしていたのかもしれません。私は本人の本当のつらさの10分の1も100分の1も分かっていないだろうけど、自分にできる限りのことは一生懸命しようと考えました。
認知症と診断された人はちょっとしたことで傷つきやすい。ご家族の中には、本人に対して「何しているの?こんなことできないの?分からないの?忘れた?」ということを本人におっしゃる方もいます。当事者が自分でも分かっていることを、もう1度グサグサって言われるのは、すごく堪えるだろうし、何も出来なくなってしまうと思います。
だからとにかく本人のことを大事にするよう心がけて接したら診断後の落ち込みからもずっと早く立ち直れるのかなと思います。

②本人のメッセージを表情や態度から読み取る

加藤ディレクター
当事者の中には、その時々の自分の気持ちや、してほしいこと/ほしくないことをなかなか言葉で伝えられない方もいます。渡邊さんの場合はいかがでしたか?

昌子さん

診断を受けて数か月は、お父さんも言葉が少なくなっていたので、わたしもアンテナをしっかり張って様子を見ていました。そして本人からのメッセージ、表情、態度、行動、仕草などをできるだけキャッチして対応するように心掛けていました。「いまは関わって欲しくない」「言葉かけて欲しくない」という瞬間は、見たら分かるんです。その様子を見ながら、気持ちに寄り添うようにしました。
あとはその時々の距離感を大切に、横で見ていて「今はものすごく悩んでいる」と分かったら、言葉をかけずちょっと離れて見守っていました。
言葉には出なくても、本人は体や表情でいっぱい出しているんですよ。だからそれをキャッチして、できるだけ本人の気持ちを大切にするようにしました。例えば、食事の準備ができて声をかけるときも、斜め前から同じ目線で「ご飯できたよ、どうする?」とまず聞いて、本人がいらないと言ったら「分かった、もうちょっとしたらね」と答えるなど、本人の意思を尊重するようにしていました。

渡邊康平さんと妻の昌子さん

③「よくなったね」など 何気ないひと言に注意

加藤ディレクター
渡邊さんのご経験から、周りの人が当事者に声をかける際、気をつけた方がいいことはありますか?

康平さん

認知症の当事者は、見た目は明るく振る舞っていても心のどこかで認知症が進行することへの不安を持っています。認知症にも色々な種類があり、いまのところ完治するような薬はありません。「この病気は治ります」と医者から言われる人はいないと思います。僕も毎月診察してもらっているけど、先生に「もう1度、脳の動き方を調べよう 」と言われ、その結果「ちょっと薬が増える」と言われたこともあります。「しょうがないな」と思うんだけど、そのときはやっぱり”ずしん”ときた。

昌子さん

いまの話ですが、診察後にピアサポートを行うカフェに行き、スタッフと明るく接していたけど、家に帰ってから私には複雑な気持ちを打ち明けてくれました。わたしはそういうときは見守るようにしています。特に言葉には気をつけて、「そやなあ」って共感したり、無理に気持ちを引っ張り上げるようなことはしない。本人の言葉をそのまま受け止める感じです。

康平さん

気持ちを引っ張り上げるような言葉や「元気出せ」というようなことを言われると、当事者は心が痛むんです。当事者は頭の中では「これで症状がよくなってくる」ということがないのは知っているから。

昌子さん

気持ちにできるだけ寄り添うようにして、無理に大丈夫よとも言わないし「うんうん」という感じで話を聞く。嘘はつけないって言い方はおかしいけど「治るよ」とはもちろん言えないしね。

康平さん

例えば僕が外に出かけている様子を見た人は、「認知症が改善した」と感じる場合もあるんです。僕自身は「明るくできるようになった」と思っているんだけど、周りの人からは「認知症がよくなったな」って言われる。そういう時は「いやいや」って言いながらニコッとしているけど、「だいぶよくなったな」って言われたら、嫌なんや。
よくなってはないんだけど、自分は一生懸命「認知症でもできることはやっていこう」というふうに考えている。認知症当事者のほとんどが「認知症を治していこう」ではなく「自分たちの生き方で明るくしていこう」と考えていると思います。だから「だいぶよくなったな」よりも「元気になったな」って言われるのが一番いいんじゃないでしょうか。

昌子さん

言っている側は悪気はないけど「もう治ったみたいだ」って言われる。私の場合はそれを受け止めて「そうだけどね、お父さんはこんなことは忘れるし、できることだったら指示してやってもらっているんだよ」と、ある意味正確に言うわけです。本人にしたら「認知症は治るわけない」というのはわかってるんです。それでも、生き生きと元気に好きなこと楽しんでいるんです。

新聞を読むときには、昌子さんに手伝ってもらう

④家事の協力を頼んで感謝の言葉を心から伝える

加藤ディレクター
取材中も、昌子さんが康平さんに対して「ありがとう」と言っている姿が印象的でした。そのような言葉を伝えることは意識していますか?

昌子さん

いまは一方的じゃなくてお互いが支え合い。洗濯はほとんどお父さんがやって、干してたたんでくれます。ありがたいし本当に助かる。 朝食の準備でも「お母さんなんかある?」と起きてきて、私が「お父さん卵をお願い」と言うと取ってきてくれたり、自然に助け合いやな。
診断のあと心が落ち着いて、お父さんらしさを取り戻してきたら、本当に昔のいいところが出てくるんです。お父さんの性格やいい判断をするところは、完全に復帰しているんですよ。物忘れはするけど、人間的なこととか考え方はしっかりしていてブレてない。だからわたしは「渡邊家の大黒柱」として頼ってるんですよね。いつもお父さんがみなさんに一生懸命話しているように「認知症になって本当にもうおしまいじゃないよ、その人らしさを取り戻して、元気に生き生きとあとの人生を送れるんよ」って、そういうことだと思います。
お父さんも、認知症になった方が、落ち込んだところからトンネルから抜け出して、元気に自分を取り戻してくれたらいいなと思って、ピアサポートの活動をしているんだと思います。

洗濯はほとんど康平さんが担当

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みんなのコメント(1件)

ハハハ
50代 女性
2021年5月20日
ダブルケアまもなく20年、認知症と診断を受けこんな状態では一人暮らしは無理と告げられても適切なサポートがあれば在宅の生活が送れるはずと認知症の可能性に期待しています。仕事も育児も認知症介護も周囲の助けを借りながら同時進行で試行錯誤しています。それはそれで悩みは尽きません。