活況!“スモールビジネス” 個性で町ににぎわいを
個性的な商品やサービスを扱い、小規模でも経費を抑えて利益を確保する「スモールビジネス」が注目を集めています。都内では高架下に150の事業者がひしめく商業施設が登場。地方のシャッター商店街では空き店舗がオシャレな空間に生まれ変わり、毎年100人の移住者を呼ぶ原動力に。国や自治体も経済振興や地域の課題解決につなげようとサポート制度を拡充しています。町に賑わいを生むスモールビジネスの可能性と課題に迫りました。
出演者
- 長山 宗広さん (駒澤大学 教授)
- 桑子 真帆 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
活況!スモールビジネス
桑子 真帆キャスター:
お待たせいたしました。ということで、私がいるのは、都内に実際にある、広さ1.8坪のピザ店です。この中で、生地を伸ばして、具材を乗せて、窯で焼いて提供をするということで、必要最小限のスペースしかありません。こうした、小さいけれども、こだわりのあるお店。今、町なかに増えてきたなと感じる方が多いのではないでしょうか。
「スモールビジネス」は、従業員5人以下、初期投資や人件費を抑えた小さなビジネスです。大型ショッピングモールやチェーン店にはないユニークな魅力を持つお店が続々と誕生している訳とは。
こだわりの小さな店
東京・原宿。
わずか8坪の小さな人気店があります。
国産にこだわったクラフトビール専門店。北海道から沖縄まで、常時100銘柄をそろえます。ひと缶、1,000円を超えるものがほとんどです。
4年前にオープン。店主1人で切り盛りすることで人件費を抑えています。
こちらはベリーを使った愛知のクラフトビール。全国の新しい銘柄をいち早く仕入れることでファンを獲得。売り上げは、月200万円を超えるといいます。
「ビールは、ワイン、日本酒、ウイスキーに比べて、新商品の出るスピードが速くて、大手だと対応するのが難しいだろうなと思っていた。チャンスがあるのではないかと思って始めた」
こちらは手作りが売りのナッツの専門店。くん製したナッツとチーズを合わせたこの商品は、150グラムで2,500円。一番人気のナッツは5つ星ホテルにも卸しています。
「お客さんが分からないところまでをすごく突っ込んでやっている。5種類ミックスだったら、5種類のナッツを別々に焼いてミックスする。火の入れ方が変わる。水分量も違うし、シーズンで変わってくるので」
こだわりの製法でコストはかかりますが、ネット販売も行い、全国にファンを獲得。デパートにも出店するなど、売り上げを伸ばしています。
「お金をもうけるがトップにない。続けていけたらいい。みんなには分からないけど、(分かる人には)分かるところを手を抜かずにやる」
高架下に並ぶ小さな店 いま企業も行政も注目
こだわりが生み出す新たな市場。
スモールビジネスの人気に大企業も注目しています。
駅周辺の開発を進めるJR。秋葉原~御徒町駅間の高架下に、およそ50軒もの小さな店を集めました。2万円を超える一点物のトートバッグ、花火や歌舞伎をモチーフにしたユニークなアクセサリー。もともと人けのなかったこの一帯。その再開発にあたって、有名チェーン店ではなく、あえてスモールビジネスを結集し、個性を打ち出したといいます。
「御徒町~上野間は、江戸時代から手作業の職人さんが非常に多かったから、『物作り』というコンセプトにたどりついた」
こうしたスモールビジネスの担い手を増やそうと、行政も支援に乗り出しています。
首都圏のベッドタウン、小金井市。東小金井駅周辺100メートルに、今、150ものスモールビジネスが集まっています。市は、ここを拠点に10年前から起業を支援してきました。
「ベッドタウンですから、大きな仕事を引っ張ってくる、起業に結びつける発想はできない。住んでいる方が身近で起業して、地元で『自分の好き』を仕事にしながら居ついてもらう」
スモールビジネスを始める人に場所を格安で提供。経営の相談にも応じています。
市と共に、このプロジェクトを進める北池さん。小売店だけでなく、さまざまなスモールビジネスの起業をサポートしてきました。
「こちらが個室とブースと呼んでいるスペースでして。こちら、出版社さんですね」
「エッセイの本とか文芸系の本とか。1人でやったほうが作りたい本も作れるし」
こちらは。
独立して個人事務所を作ったばかり。家賃は、月1万8,000円です。
「ここは飲食店がずらっと並んでいます。この6平米という、すごい狭い店の中に専用のピザ窯を置いて、1人でピザを焼いて」
ピザ店を営むこの男性。もともと働いていたイタリアンレストランがコロナ禍で休業に追い込まれたのを機に独立しました。
「席数もちゃんとあってという店舗だと、そこまで自信も無かったので、まず小さく始めてみようと開業にいたった。もうすぐ4年たつので、一定の常連のお客さまが来ていただけるようになっています」
2024年で10年目を迎えるこのプロジェクト。ここから生まれた事業者は500を超えます。変化の激しい時代だからこそ、小さく始めることのできるスモールビジネスには、新たな可能性があると北池さんはいいます。
「小さくトライして、違っていた場合にくじけず、かつ再起不能なダメージもなく、次のチャレンジができることが長く続くコツ。まずやってみなはれ、ダメなら変えてみなはれ、そういう世界かなと思います」
なぜ今ブームに?
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
ここからは、スモールビジネスと地域経済の関わりに詳しい長山宗広さんとお伝えしていきます。よろしくお願いいたします。
今見たスモールビジネスの活況の背景にあるのは大きく2つ、消費者側と事業者側があるのではないかと長山さんはおっしゃっていますが、まずは消費者側の変化があるのではないか。どういうことなんでしょうか。
長山 宗広さん (駒澤大学 教授)
スモールビジネスの地域経済への影響を研究
長山さん:
消費者は価値観が非常に多様化してきました。大量生産、大量消費では、もう満足ができなくなってきています。
本当に、自分にとってのコト消費やモノというものに対して、本物志向というものが非常に、そういう消費者が増えてきたということがあります。もう一つ、コロナ禍以後のことなんですけれども、やはりリモートワークで職と住が一体というか、近接化してきたということがありまして、徒歩15分ぐらいで行けるような距離感のコミュニティーでの経済圏を、本当に皆さん大切にしようという動きが出てきていて、地元の小さなお店を応援しようという傾向が、スモールビジネスの追い風になっていると思います。
桑子:
それって、日本だけの傾向ではないんですか。
長山さん:
日本だけではなくて、ヨーロッパでも、そういった動きは出ていると聞いています。
桑子:
そして、事業者側にも変化があるのではないかということで、起業のハードルが下がった要因が2つあるんですね。
長山さん:
1つは都市部で特にありますが、地価だとか、土地の値段が非常に上がってきていて、人件費も高騰化しているということがあります。そういう中で、スモールビジネスというのは、初期の費用だとか、また、ランニングコストが抑えられるということがあります。また、国の政策も経営者の個人保証というものが不要になるといった方向性にかじを切っていますし、開業資金においても、無担保で無保証で借りられる制度というのも拡充してきたということがあって、スモールビジネスを非常に始めやすい環境が整ってきたというのが1点目です。
桑子:
そして2つ目、デジタル技術。
長山さん:
2点目はデジタル技術ですが、身近なところで、会計とか決済の時では、本当に小型の端末で今できるようになっていますし、また、広告宣伝ということも、SNSを使えば、あまりお金をかけずにできるということで、少人数でビジネスを立ち上げるといったところでのハードルが、かなり下がってきているんではないかということです。
桑子:
ハードルが下がっていると。一方で、こんなデータもあるんです。
こちらは、開業率を海外比較したものなんですけれども、日本はずっと下のほうで、今も4.4%ということで。開業率が低いというのは、好ましくないことなんですか。
長山さん:
そうですね。市場の経済ということを考えていった場合には、やはり新陳代謝が活発になったほうがいいということで、そういった面では、開業率は欧米並みの10%ぐらいがいいだろうということで、実は、この10年ぐらい政府も、それを政策目標に掲げていることがあります。
桑子:
ただ、実現できていない。何がブレーキになっているんでしょうか。
長山さん:
もともと日本の経済というのは、終身雇用ということを基本にしていましたし、そういう中では、起業に対する不安というのがやはり大きいと。日本人というのは、イメージで、多額の借金を抱えて、1回失敗したら身ぐるみをはがされてしまう、立ち直ることができないという起業のイメージがあると思います。そういう中で、起業に無関心な人たちも増えてきたというのがあります。
桑子:
ただ、スモールビジネスは広がっていったほうがいいわけですよね。
長山さん:
そうですね。スモールビジネスがやはり広がっていったほうが、スモールビジネスは逆にVTRにもあったように、形態をうまく変えて、柔軟に立ち直ることができるというのが大きな利点だということで、今後の開業率もスモールビジネスが増えていけば、上向いていくということも期待できますし、先の見えない時代においては、日本経済をけん引する新たな種を見つけられるということもあるかもしれないですね。
桑子:
そうですか。じわじわと広がるスモールビジネスですけれども、今、スモールビジネスを地域社会の課題解決に活用する動きも始まっているんです。
キッチンカーで課題解決!?
神戸市郊外の月が丘住宅。
高齢者が多く暮らすこの町で、あるスモールビジネスのお店が人気を集めています。
キッチンカー。店舗を設けず、1人でも営業できる。これもスモールビジネスです。
ガーリックシュリンプを目当てに、続々とお客さんが。およそ2時間で40食が売れました。
「車がなかったり、手放したりしてるから、1週間に1回でもお店に来ていただくと、地域の楽しみになる」
神戸市郊外では地域住民の高齢化が進んでいます。付近にスーパーや飲食店が無く、不便な生活環境に改善策が求められていました。
そこで、神戸市が目を付けたのがキッチンカー。市は、にぎわい創出のため、開業資金・最大100万円を補助するなど、キッチンカー事業を5年前から後押しし、これまで15台が開業しました。キッチンカーを郊外の住宅地に派遣し、地域の不便さを解消する。今後、この取り組みを拡大していきたいと考えています。
「スーパーが撤退した後の暫定的な利用として、キッチンカーが出店する計画もある。買い物にお困りの方の一助になればいい」
空き店舗に小さな店 町の成長につなげる
スモールビジネスの力で人口減少に立ち向かい、移住者を大幅に増やした自治体が注目を集めています。
長野県・辰野町。1980年代をピークに人口は減り続け、現在は1万8,000人。商店街には空き店舗が目立ちますが…、よく見ると、ぽつりぽつりと新しい店。
辰野町の職員、野澤さん。空き店舗を活用し、町を挙げてスモールビジネスを呼び込んでいる仕掛け人です。
この日も、新規開店を支援している人を訪ねました。
東京から来た井上さんです。この場所は元々、バスの営業所でしたが…。
「今、ピザ窯をイタリアから取り寄せていまして、今月末に着くので、それ用の煙突を。『こうやったらどう』とアイデアもいろいろもらって、(開店に向けて)1歩2歩とどんどん自分で進んでいった」
その裏手には、ダンススタジオが。
週5回レッスンが開かれ、大勢の人が通っています。
辰野町から車で1時間圏内には松本や諏訪など大きな町があり、そこからも客が集まってきています。
「ダンススタジオだったり、カフェだったり、各店舗のファンというのは確実に増えていて、結構遠いところからも来ていらっしゃるので、少しずつ全体の人流が増えていくことは感じています」
この5年で、空き店舗を活用し、オープンした店は38店舗に上ります。背景にあるのは、官民一体となって進める空き店舗のマッチングシステム。まず、起業したい人のニーズを丁寧に聞き取ります。
それに基づき、地元不動産会社がもっともふさわしい空き店舗を紹介。リノベーションの際は、町が最大30万円の補助金を出します。
先ほどのダンススタジオ。広くて大きな音を出せるというニーズに応じ、紹介したのは、元バスの洗車場。
「あそこが、1つの店舗の中に3事業で一緒になってやっています」
こちらは、もともと薬局だった場所。大通りに面する立地の良さを生かし、アパレル、カフェ、美容雑貨、3つの店に共同入居を提案。家賃を抑えつつ、3つが合わさることで、より魅力的なスポットになりました。
起業したい人のニーズを第一に考えた結果、出店地はバラバラに。まだまだ空き店舗が目立ちますが、逆にこれを「トビチ商店街」と名付け、町の個性としてアピールしたのです。
「空き家って、物件で見ると、いっぱい空いちゃって問題だよってなるんですけど、人に注目したときに、何かやりたいときに、やりたい場所があるとなると資源」
「ちっちゃいスモールビジネスとローカルというのは相性がいい。みなさんも自社ビル持てますからね。自社ビル持てます。どうですか」
こうした仕組みにひかれて辰野町に移住し、新しい働き方を実現している人がいます。
「こちらカフェですか?」
「カフェとショップコーナーと」
店主の苫米地さんです。宮城から移住して2年になります。
「充実しています。幸せですね」
苫米地さんのお店、もともとは3階建ての電器店でしたが、町の人たちに手伝ってもらい、リノベーションしました。家賃は、月3万円。やりたいことがたくさんあり、1つに絞れなかったという苫米地さん。カフェ以外にも、地元のハーブを使った化粧品作りのワークショップや、みずから開発したパンケーキミックスの販売など、複数のスモールビジネスを手がけています。
「小さいビジネスを何個かやる。目標は月3万円稼げるビジネスを10個やる。この辺で生きている分には、30万円あれば生きていける」
今や年間100人が移住してくるようになった辰野町。さまざまなビジネスのアイデアが持ち込まれることで、町も成長しようとしています。
「受動的な100人よりも、能動的な1人を増やしていきたい。能動的な人はネットワークもあるし、生き生きしているので、その人が3人連れてくる、その3人がまた3人連れてくるみたいな形で、濃いつながりが生まれて勝手に広がっていく。これが理想的かなと思っています」
町はどう変わるか
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
今、スモールビジネスを支援しようという動きは、全国的に広がりを見せているんです。
こちらは、小規模事業を支援する条例を制定した自治体の数。この10年で急増していまして、750に上るんです。長山さん、こうしてたくさん支援しているところはあるわけですけれども、どれも軌道に乗っているというふうに見ていいんですか。
長山さん:
残念ながら、そうではありません。起業の相談窓口を作るなど、何らかのアクションをとっている自治体は多いのですが、まだまだ目立った成果が出ていないというのが現状です。
桑子:
それはどうしてなんでしょうか。
長山さん:
まず1つですね、国と地方自治体における創業の支援のすみ分けができていないということが挙げられます。国は、創業支援といった場合には、その対象は革新的なイノベーション、世界の新市場を開拓するようなスタートアップ企業です。これは、いわばホームランねらいの起業モデルといえます。巨額の投資も必要でハイリスクということですね。一方で、スモールビジネスの場合は、既存の市場で持続可能な発展をねらうと。投資額も少ないということがありますので、両者は別物の起業モデルであるということがあるのではないかと思います。
桑子:
それをすみ分けて、役割分担していったほうがいいということなんですか。
長山さん:
そうですね。地方自治体においては、よりスモールビジネスのほうに支援のかじを切ったほうがいいとは思います。
桑子:
なるほど。では、どうすれば辰野町のように、うまく回していけるというふうに考えていらっしゃいますか。
長山さん:
辰野町は小さな町なんですけれども、小さいからこそできる取り組みというのがある、できる好例だと思います。困ったことがあれば、町や地元の業者にすぐ相談できると。町ぐるみで一緒に起業してるような感覚なのではないかと思います。「トビチ商店街」という魅力的なフレーズでアピールをうまくして、共感を募って、おもしろい人たちがどんどん集まってきて、つながって、いろんなアイデアがそこから出てくると。そういった好循環の仕組み作りというのは、辰野町ではうまくできているのではないかと思います。
桑子:
それは共通して言えることって、どういうことでしょうか。
長山さん:
スモールビジネスがやはりどんどん増えていくということで、それで、私たちの消費者の選択肢もどんどん、ここで増えていくということになるんではないかと思いますし、こだわりの店がこだわりのお客さんを呼んでいって、人と人のつながりというのが生まれてくると。そうして、VTRにもありましたけれども、幸せというものを、起業というのは自己実現というところでありますので、それが他の人にも、お客さんにも、地域の方にも、幸せが連鎖していくということがあるんではないかと思います。
桑子:
そのためには、やはり官民がうまく連携していけるといいですかね。
長山さん:
そうですね。官民のパートナーシップというところが、やはりポイントの一つだというふうに思います。
桑子:
ありがとうございました。今夜は長山宗広さんに伺いました。
社会が大きく変わることと、小さいことに満足する、満たされる、この両方が実現すると真の豊かさと言えるんじゃないかなと、今日、私はいろんなVTRを見て思いました。であるならば、その両輪をしっかり支える仕組み作り、どちらも整えていくことが必要ではないかと感じます。
長山さんは、理想形を描いているということですけれども、やはり、スモールビジネスが日本に広がっていくといいなというふうに考えていらっしゃいますか。
長山さん:
そうですね。特に身近な基礎自治体においては、そういったところがよろしいかと思います。