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2023年10月25日(水)

どうする隣の“遺品部屋” 費用負担は隣人が!?

どうする隣の“遺品部屋” 費用負担は隣人が!?

いま全国のマンションに遺品が放置される“遺品部屋"が拡大、他の住民たちが処分費や管理費など多額の費用を負担するケースが相次いでいます。相続放棄した遺族を取材すると「付き合いも薄くコロナ禍で話し合う機会もなかった」「負担の方が大きいため相続放棄した」といいます。影響は自治体財政にも。大阪府の公営住宅では遺品部屋が増え処分費用や家賃の未納分等で1億円を超える試算に…。なぜこんな事態に?実態と対策に迫りました。

出演者

  • 香川 希理さん (弁護士・国土交通省 検討会委員)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

隣人が費用を負担!? 全国に拡大“遺品部屋”

桑子 真帆キャスター:

マンションなどの集合住宅で入居者が病院などで死亡したあと、遺品が放置されるケースが増えています。子どもやきょうだいなどの相続する遺族がおらず、そのままになってしまうのです。

今回私たちは、こうした部屋を“遺品部屋”と名付け取材を始めました。戸建てと違い、集合住宅では中の様子が分かりづらいだけでなく、他の部屋の住民に深刻な影響を与える実態が見えてきました。

なぜ?マンションの管理費が値上げに

今、思わぬ事態に直面しているのが、千葉県にあるおよそ100世帯が暮らすマンション。

マンションの住民
「ポストにこういうお知らせが」

住民が納める管理費が月3,500円値上げされたのです。物価高が続く中、住民に戸惑いが広がっています。

マンションの住民
「ええ!?って。正直な話」
マンションの住民
「目いっぱい生活している人もいる。それを圧迫するようでは…」

なぜ管理費が値上げされたのか。値上げを決めた管理組合の理事長、佐藤学さん。

原因の一端が、マンション内の“2つの部屋”にあるといいます。管理費が何年も支払われていなかった2階の部屋。滞納はおよそ100万円に上っていました。

この部屋には、もともと高齢の男性が住んでいたとみられます。しかし調べた結果、5年前に病院で亡くなっていたことが判明しました。

さらにもうひとつ。3階にも連絡がとれない部屋が。この部屋の住民も病院で亡くなっていることが分かりました。2部屋合わせて管理費などの滞納はおよそ300万円に上ります。

マンションの住民 管理組合 佐藤学 理事長
「1室空きを作るということは、1か月の管理費が入ってこない、永遠に。これは間違いなく損失」

管理費の滞納をなぜ、ほかの部屋の住民たちが負担しなければならないのか。

一般に分譲マンションでは、メンテナンスを行うため住民たちで作る管理組合が管理費を徴収。住民が亡くなると、部屋の「相続人」に管理費を支払う義務が生じます。

佐藤さんは弁護士に依頼し、相続人を探すことにしましたが…

佐藤学 理事長
「この方が死亡された区分所有者。最初亡くなった人いれて4人しか兄弟がいないと聞いていた。専門家に依頼して調べたら9人も兄弟がいた。それぞれに子どもがいる場合は、そこまで調べないといけない」

数年がかりの調査で判明した、相続人の関係図です。対象となるのは、親・きょうだい・おい・めいなど10人以上。そのうち半数ほどは亡くなっていることが分かりました。残る7人に管理費を請求しましたが、今度は「相続放棄」という壁に直面しました。相続を放棄されると、滞納金を請求できなくなるのです。

2つの“遺品部屋”費用見込み
・管理費などの滞納 約300万円
・弁護士費用など 約200万円

結局、管理費の滞納分を回収できないどころか、調査のための弁護士費用などおよそ200万円が追加の出費に。

佐藤学 理事長
「市役所に行ったり住所を取ったり、そのたびに作業も複雑。時間もかかる。かかった分、すべて組合に請求がくる。踏んだり蹴ったりの話でしょ」

なぜ親族たちは相続を放棄したのか。

所有者のめいは「15年ほど会っておらず、コロナ禍で葬式にも行っていないため、部屋をどうするか話し合う機会もなかった」といいます。

亡くなった所有者のめい
「すごく親密につきあっている親戚もいるけれど、どんどん疎遠になっていくようなかたちもあるだろうし。ものすごく仲が悪いというわけではなかったんですけど」

さらに所有者の姉は「自分の生活も苦しく、遺品を片づけたり滞納金を支払ったりする余裕はない」と打ち明けました。

亡くなった所有者の姉
「何かしないといけないと頭にはあったけど、私も体が具合悪くなってもう働けないし、ぜんぜん余裕がなかった。ぎりぎりで生活してるから」

では、部屋を売却し、費用を賄うことはできないのか。佐藤さんは裁判所に申し立てを行い、売却に向けた手続きを進めることにしました。ところがここでも、また壁が…

このマンションの部屋は、通常300万円ほどで売買されています。しかし大量の遺品が放置され、部屋が傷んでいたため、資産価値が大幅に下落。通常の10分の1、30万円ほどでしか売れないと分かったのです。それでも売却して管理費を納めてもらえる状態に戻すことを選びました。

佐藤学 理事長
「『そのままにしておけばいい』という人もいるが、放置したままというのは管理費が入ってこない、管理組合に」

2つの遺品部屋にかかる費用は、手続き費用なども含めるとおよそ700万円。それを補てんするには管理費の値上げが必要だったのです。

住民たちを集めた集会で、佐藤さんは厳しい現状を伝えました。

佐藤学 理事長
「持ち主がもう亡くなっている。どうしようもない。解決に向かうには、ものすごい時間と金がかかる」

1億円超を自治体が…“遺品部屋”が財政にも

遺品の処分費用が自治体の財政まで圧迫する事態も。大阪府の公営住宅では住民が亡くなった後、放置される部屋が増え、現在255部屋に上っています。

大阪府住宅経営室 尾崎義幸 課長補佐
「こちらは令和2年の秋に亡くなった(人の)お部屋です」
取材班
「何年間このまま?」
尾崎義幸 課長補佐
「2年半ほどになります」

公営住宅の部屋は自治体が所有していますが、遺品は相続人に所有権があります。

尾崎義幸 課長補佐
「われわれも勝手に処分できない。そこの難しさですね。相続人の方を探して『こちらの物の所有権があなたにあるので代わりに片づけてください』と手紙を送っても返事が頂けない。どうしてもそこで頓挫してしまうことは多い」

遺品が放置されたままだと部屋を貸すこともできず、家賃も入ってきません。大阪府の損失は1億円以上に上るといいます(概算)。

こうした公営住宅の対応について国は6年前、自治体の判断で「遺品を選別・移動してもよい」という方針を示しました。国の方針に沿って、大阪府では遺品の選別を始めています。

すべての遺品を保管することはできないため、大阪府では貴重品をより分けて残りは処分することにしました。

尾崎義幸 課長補佐
「アルバム類ですね、写真が入っている。もし誰かが来られたときのために保管しています」

選別した遺品は、別の公営住宅の1室にまとめています。

尾崎義幸 課長補佐
「こちらが遺留品を置いている部屋のひとつになります」

しかし、今度はいつまで保管するのかという新たな問題が。大阪府では20年保管を続けることに決めました。

尾崎義幸 課長補佐
「ここにある物は20年間は管理しないといけない」
取材班
「誰かが取りに来たケースは?」
尾崎義幸 課長補佐
「本当に1件もないです。本当はどなたかの所に戻っていけばよいと思います」

保管されている遺品は488人分。引き取り手がないまま増え続けています。

なぜ増加?背景に何が

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
こうした遺品が放置された部屋が全国にどれほどあるのか。番組では、国が発行している「官報」を使って独自に調査をしました。

官報には亡くなったあと相続人がいない人の情報が掲載されており、遺品部屋がいつ、どこで発生しているかが読み取れます。調査結果では、集合住宅の遺品部屋は全国で少なくとも1万件余りに上り、この10年で1.7倍に増加していることも分かりました。

きょうのゲストは、弁護士としてこれまで数百件の遺品部屋の解決に当たってこられた香川希理(きり)さんです。

なぜ、こうした遺品部屋が増え続けているのか。その背景を考えていきたいのですが、まず実感として今、どのように感じていますか。

スタジオゲスト
香川 希理さん (弁護士・国土交通省 検討会委員)
10年以上“遺品部屋”の解決にあたる

香川さん:
10年以上、遺品部屋の問題を扱ってきたのですが、最近特に増えているなと感じています。

桑子:
では、背景にどのようなことがあるのか。

こちらに挙げていただきました。まず「高齢化」ですか。

香川さん:
高齢化によって、そもそも亡くなる方が増えていると。亡くなる方が増えると、当然、相続される部屋も増えているということがあります。

桑子:
相続そのものが増えていると。そして「資産価値が下がる」。これはどういうことでしょうか。

香川さん:
人口減少によって都市部はともかく、地方の不動産の資産価値が下落しています。その下落した不動産は、相続する人が放置したり放棄したりしていることが増えているということがあります。

桑子:
そうすると、遺品も放置されるということになるわけですよね。

香川さん:
おっしゃるとおりですね。

桑子:
そして「親戚関係が希薄化している」。

香川さん:
もともと核家族化が進んで親族関係の希薄が進んでいたところ、特に近時、コロナによって冠婚葬祭を控えるという動きがありましたので、そうするとそもそも親族が亡くなったことに気付かないとか、あまり縁のない方が亡くなった時に、その相続を放棄してしまう、放置してしまうということが増えているのかなと思います。

桑子:
そして「相続人の不在」も増えると。さらに部屋が放置されていても「管理組合が部屋への介入ができない」という問題もあるそうで。これはどういうことでしょうか。

香川さん:
「区分所有法」という法律は、マンションの管理の在り方を定める法律なんです。区分所有法の原則として、部屋の外の問題、共用部分の廊下とかエントランスは介入できるけれども、部屋の中の問題、部屋の中の物とか部屋そのものとか部屋の人とか、そういったものにはなかなか介入しづらいという問題があります。

桑子:
戸建ての問題と遺品部屋でいうとどういう違いがあるのでしょうか。

香川さん:
まず戸建てとマンションの違いは、物理的に近隣の方との近さが違うと。マンションの場合は、壁一枚を隔てた隣に人が住んでいるということが1点ですね。あともう一つは、お財布を共通にしているということがあります。共用部分を管理するためにみんなでお金を出し合うのですが、そこのお金を共通しているということで、1人の方が亡くなったらみんなのことに関わってくるという問題があります。

桑子:
より問題が大きくなるということですね。そして今回、番組で行った遺品部屋の全国調査でこういう結果が見て取れます。

いちばん多かったのが東京都。そして2番目が大阪府。3番目が神奈川県ということで、集合住宅が多い都市部が多かったことが分かります。

ただ、実は地方でも地方ならではの理由で放置される集合住宅の部屋が問題になっています。新潟県湯沢町(ゆざわまち)では、バブル景気のころスキー人気もあり、マンションの建設が相次ぎました。当時は1部屋1億円以上の値がつくこともありましたが、今では大幅に下落しています。そこに暮らす高齢者も多く、遺品部屋の問題が相次いでいます。地元の不動産管理会社に話を聞くと、資産価値が低くなったため相続放棄されるケースが増えているといいます。

この湯沢町の他にも、リゾートマンションが多い熱海ですとか伊豆なども人口当たりの遺品部屋が多くなっていることが今回の全国調査で分かりました。こうして全国に拡大する遺品部屋の問題を防いでいくには一体どうすればいいのか取材しました。

どうする“遺品部屋”拡大を防ぐ対策は?

住民にできる対策の一つが、いざというときのために緊急連絡先を更新し続けること。遺品部屋による負担に頭を悩ませていた千葉県のマンションでも進めています。

マンションの住民 管理組合 佐藤学 理事長
「掲示物ですけど、赤で書いているということは組合としても気持ちを込めてのお願いになっています」

分譲マンションでは、入居したときに緊急連絡先を提出していても古いままになっていることが少なくありません。一人一人に声をかけ、定期的な更新を呼びかけています。

亡くなったあと部屋が放置されないよう、みずから備えている人もいます。

この70代の男性は、頼れる親族がいない中であるものを用意しています。

70代 男性
「自筆の遺言書。自分で書かなきゃいけない」

自分の財産について親しい友人などに譲ることを明記。管理組合が相続人を探す手間がかからないようにしたのです。

70代 男性
「死んじゃえばあとは誰かがやってくれるだろうと。それだと迷惑がかかるから。実際に管理組合に迷惑がかかるわけだよ。俺も1人だから危ないから自分で(遺言書を)作ろうって」

不動産の価値を高めることで、相続したくなる部屋にしようという動きも。

新潟県湯沢町では、マンションの複数の部屋を民泊として貸し出せるように改装。

さらに共用部分をオフィススペースに。現役世代にリモートワークをしてもらおうという狙いです。取り組みを始めて5年。1Kで10万円だった販売価格は10倍以上になりました。

湯沢町の田村正幸町長は、こうした取り組みを通して価値を高め、相続されないマンションの課題に対応したいと考えています。

湯沢町 田村正幸 町長
「マンションは湯沢町にとっての財産であり宝だと思っているので。今、少しずつ移住・定住の促進を含めて住む場所や仕事の場としてマンションを利用いただく方が出てきている。結果としてマンションも利用度が上がる。利用度が上がることで価値が高まる。好循環につながる」

住民側・管理組合側の対策は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:

遺品部屋を防ぐためにできることとしては、まず「遺言書を準備する」。身近に頼れる親族がいなくても、知人など財産を譲る先を明確にしておくとよいということです。
そして、「改装」をして資産価値を高めて相続をしたい部屋にしようということ。
さらには、「緊急連絡先」を定期的に新しいものに更新し、いざという時に備えましょうということが挙げられます。

香川さん、こういったものの他にどういうアイデアがあるでしょうか。

香川さん:
まず、住民側の対策と管理組合側の対策、両面の対策を考える必要があると思います。まず住民側の対策ですが、遺言書を作成していただくということは非常に重要なのかなと思います。

そうはいっても、よく法律相談とかを受けていると「私には特に重要な財産とかないから遺言書なんて書かなくていいわ」みたいなことをおっしゃる方もいます。でも、マンションに住まわれているということは、少なくともマンションの部屋は所有しているということですね。マンションの部屋そのものが重要な財産ですし、かつ、マンションの部屋はお金とか預金と違って分割しにくいという問題があるんです。相続でちょっと問題になりやすい。ですので、残された遺族の方とか管理組合の方のために、ぜひ遺言書を作成してほしいなと思います。

桑子:
それは親族だけでなくてもちろんいいわけですよね。

香川さん:
もちろんです。

桑子:
知り合いとか。

香川さん:
お世話になった方とか、自分が懇意にしている団体とか、そういったことでもいいのかなと思います。

桑子:
そして管理組合側に求められることはどういうことでしょうか。

香川さん:
管理組合側としては、事前の対策と、事後の対策が考えられると思います。まず事前の対策ですが、マンションの管理の質を高めてマンションの価値を上げるということです。VTRにもありましたが、共用部分を改装したり大規模修繕工事をしてマンションの全体の価値を上げることによって、一つ一つの部屋の価値も上がります。そうすることで相続したい部屋になる。相続放棄されづらい部屋になるということがあります。

桑子:
その価値、質を高めていくために相談先というのはあるのでしょうか。

香川さん:

相談先
・公益財団法人 マンション管理センター
・マンション管理士会

例えばマンション管理センターとかマンション管理士会とか、大規模修繕とか管理の方法について相談する団体がありますので、そういったところにぜひ相談していただければいいなと思います。

桑子:
今のが事前の策。事後、遺品部屋が発生してしまったあと、どういうことができるでしょうか。

香川さん:
遺品部屋が発生してしまった場合、できるかぎり速やかに専門家に依頼して対処するということが非常に重要になってくると思います。

桑子:
専門家というのは具体的に。

香川さん:
弁護士や司法書士にまず相続人を調査していただいて、その上でどう対処するのかを専門家の人に対処していただくことが非常に重要になってくるかなと思います。

桑子:
迅速性が重要というのはどういう面で重要なのでしょうか。

香川さん:
遺品部屋を放置すればするほど滞納管理費が増大するということが、まず1つあります。さらに、遺品部屋を放置することによって物理的にも部屋の価値が毀損されていくということがあります。

桑子:
できるだけ早く動く。香川さんは国のマンション管理についての検討会の委員も務められているということですが、今、どういう議論がされているのでしょうか。

香川さん:
国としては今、注力しているのは先ほど言った管理組合の事前の対策ですね。マンションの管理の価値を高める。「管理不全マンション」といって放置されてしまうようなマンション管理組合を減らしていくということが非常に対策として取られています。

桑子:
どういうことをしているのでしょうか。

香川さん:
例えば、マンション管理組合が適切に管理している管理組合に対しては国が認定してあげて、その上でメリットを与えてあげる。こういったことも取り組まれています。

桑子:
どんなメリットがあるのでしょうか。

香川さん:
例えば、共用部分の固定資産税の金額を下げるとか、あと管理組合が借り入れする時に金利が少なくて済むような取り組みがなされています。

桑子:
ただ、これからさらに求められることもあると思います。どういうことがあるでしょうか。

香川さん:
先ほど話にあった区分所有法ですね。部屋の中の問題とか、部屋の中の人に対してはなかなか介入しづらいという部分があります。ですが、遺品部屋というのは急にぽっと出てきた問題ではないんです。実は生前の独居の問題、認知症の問題、孤独死の問題、そして遺品部屋の問題とつながっているんです。なので、管理組合がどこまで部屋の中の問題に踏み込んでいけるか、今後議論していくことが必要になってくるのではないかと思います。

桑子:
法の在り方も含めて検討が必要でしょうか。

香川さん:
おっしゃるとおりだと思います。

桑子:
ありがとうございました。

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