クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2023年7月25日(火)

卵の値段は戻るのか? “物価の優等生”に迫る危機

卵の値段は戻るのか? “物価の優等生”に迫る危機

卵高騰の原因は、円安にウクライナ侵攻などによるエサ代の高騰に鳥インフルエンザの感染拡大。専門家によると、値段は元のようには戻らないおそれが出てきているといいます。さらには卵の生産の土台を揺るがす、鶏卵業者の廃業が後を絶ちません。なかには活路を見いだすために、生卵を海外に輸出する業者も!安価で安全で味も優れていて高い評価を得ている日本の卵。これからもおいしい卵を食べ続けることができるのか?

出演者

  • 信岡 誠治さん (東京農業大学元教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

卵の値段は戻るのか? “卵抜き”メニュー

今、卵の値段の高騰はあらゆる場所に影響を及ぼしています。

広島市の小学校。この日の給食の献立は、具材を卵でとじた「ふわふわ丼」。

でもよく見ると、ふわふわ感が少し足りない気がします。

実は、卵の高騰で卵の使う量を3割減らしているのです。

卵の量を減らしたことは、学校給食の役割にも影響が。「栄養の不足」です。卵で得るはずだった栄養を補おうと、決められた材料費の中で他の食材を追加することに。

しかし、鉄分やビタミンAなど、卵が豊富に含む栄養素は思うように補てんすることができませんでした。

広島市立伴小学校 栄養教諭 森田和美さん
「鉄分はすごく不足しがちな栄養素で、子どもたちは成長期なので大切にしてほしい。今までは価格も安定していましたし、子どもたちも好きですし、あらためて卵って本当にありがたいな」

子どもたちが楽しみにしている給食。ことしいっぱいは卵の量を減らさざるを得ないといいます。

さらに、卵の姿が一切消えた場所も。

都内屈指の学生数を誇る早稲田大学。学生たちの胃袋を満たす学食では、これまでにない変化が起きています。

卵の値段が跳ね上がったことで、人気だった「釜玉うどん」の販売が中止。代わりとなったのは卵を使わない「きつねうどん」。

他にも「カツ丼」や「オムハヤシ」、「巣ごもりたまご」などの定番メニューも姿を消しました。

学生
「釜玉うどんは好きだったので、ちょっと残念かな」
学生
「親子丼とか卵が絶対ないといけないメニューが好きなので、悲しい」
食堂担当職員 高橋恭兵さん
「心苦しいですね。卵が提供できない、卵が食べられないとなってしまうと。なんとかして食堂で出したいなという思いです」

追跡 鳥インフルエンザ

卵の値段高騰の最大の要因となっているのは、鳥インフルエンザのかつてない拡大です。2022年の秋に発生。その後、全国26の地域に広がり、感染爆発が起きました。

今回、殺処分されたニワトリなどは過去最多の1,700万羽以上。全国の養鶏家が飼育する、卵を産むニワトリの1割が失われました。そのため卵の供給が不足し、値段が高騰しているのです。

33万羽殺処分 新潟の生産者
「心苦しいという次元ではなかったです。(殺処分は)もう二度としたくないです。見たくもないです」

なぜ、今回最大の感染爆発が起きたのか。

新たに分かってきたのは、ある身近な生き物が要因の1つになっていることでした。

それは「カラス」。動物の感染症を研究する迫田義博さん(北海道大学大学院 獣医学研究院)は、感染拡大の原因を調べていくとカラスの異変にたどり着きました。

迫田さんの研究室では、2022年の秋から大学の敷地内で見つかったカラスの死骸を調査。

その結果、52羽のうち48羽、実に9割以上から鳥インフルエンザウイルスが検出されたのです。そしてそのウイルスの量を調べると、意外な事実が浮かび上がってきました。

北海道大学大学院 獣医学研究院 迫田義博さん
「1羽のカラスから、1万羽くらいのニワトリに感染させるだけのウイルスが増えている。ウイルス爆弾みたいな状況」

なぜ、カラスに感染が広がっているのか。迫田さんが注目したのは「ウイルスの変異」です。

鳥インフルエンザウイルスは、秋頃にロシア極東から日本に来る渡り鳥が運んで来ます。これまでは感染した渡り鳥の多くが日本にたどり着く前に死んでいたと見られますが、近年ウイルスが変異し、“弱毒化”。感染しても死なずに日本へ渡る鳥が増えたというのです。
こうして国内に持ち込まれたウイルスは、カラスなどを介して養鶏場に広がったと見られています。そして、ウイルスへの抵抗力が低いニワトリは死に至るのです。

迫田義博さん
「コロナウイルスも鳥インフルエンザウイルスも同じで、変異しやすいんですね。カモや白鳥でいえば、渡りの途中に日本海で感染して墜落して死んでしまえばウイルスが引き継がれない。ウイルスには感染しているけれども、渡って来られちゃう。そういうウイルスにだんだん変わってきている」

今回の鳥インフルエンザは国内の養鶏場などでウイルスの感染が確認されなくなったため、農林水産省は6月20日、終息宣言を出しました。

しかし、渡り鳥は毎年秋にやってきます。そのため、鳥インフルエンザの感染爆発はこれから周期的に繰り返されると迫田さんは見ています。

迫田義博さん
「発生をゼロにする特効薬的な決め手は、今のところない。今シーズンも昨シーズン並みに渡り鳥がさまざまな渡りのルートで日本にウイルスを運んできてしまう可能性は高いと思います」

今回の大量殺処分。そこには、養鶏業界が長年築いてきた安く卵を生産する方法も関わっているという見方もあります。

日本の養鶏は、大量のニワトリを1つの敷地内で一元管理する「大規模飼育」で人件費や光熱費などを節約。極限までコストを圧縮し、安価な卵の供給をしてきました。
しかし、1羽でも鳥インフルエンザの感染が確認されると日本では敷地内のすべてを殺処分することが決まりです。そのため、大規模飼育では被害が拡大してしまうのです。

70万羽殺処分 北海道の生産者
「管理をしていたのに、結果として役に立たなかった。非常に残念な思いでいっぱいだった」
33万羽殺処分 新潟の生産者
「やるせないのは皆さん一緒だと思います。単純に殺さない、殺さなくてもいい事業を(行政から)指導していただければ」

どうなる?卵の値段 卵の専門家が徹底分析

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、養鶏産業に詳しい信岡誠治さんです。

“物価の優等生”と呼ばれ、この20年で200円台前半を維持してきた、日本の安くて高品質な栄養高い卵。それを支えてきたのが「大規模飼育」。そこに今回、変異したと考えられる鳥インフルエンザが広がり、大量殺処分が起き、値段の高騰を招きました。

この先の値段がどうなるのか信岡さんに予測していただきました。

卵1パック(10個)の値段
8月下旬…250円?
2023年冬…300円超?
※信岡さん予想

8月下旬には250円くらいに下がるかもしれない。ただ、2023年冬には300円を超えるかもしれないという予測。これはどういうことでしょうか。

スタジオゲスト
信岡 誠治さん (東京農業大学 元教授)
養鶏産業に詳しい

信岡さん:
毎年夏場に向けて消費が低迷しますので、価格は下落傾向にあります。現在も下落傾向が続いていますけど、2023年の秋以降、鳥インフルエンザが大発生するとなると、300円を超えるおそれもかなり高いと見ています。

桑子:
今後も卵の高騰の最大の要因になると見られるのが鳥インフルエンザということになりますが、実は2022年7月以降、70以上の国と地域で発生が報告されています。
以前はアジアが中心だったのですが、近年はヨーロッパや南米など、これまで報告が少なかった地域でも感染が報告されるようになってきました。
2023年は、初めてブラジルでも感染が確認され、過去最大規模の感染拡大となりました。

信岡さん、この世界規模の感染拡大の中で何が起きていると見ていますか。

信岡さん:
鳥インフルエンザは、今世界で大問題です。日本と同じようにウイルスが入らないように隔離した状態で飼うとか、いろんな対策をやっていますけど、決め手に欠いているというのが現状です。

桑子:
価格に関してはどのように。

信岡さん:
価格に関しても、世界中、ヨーロッパもアメリカも1億を超える殺処分を繰り返して価格が乱高下していると。一部で落ち着いたところもありますが、価格的には日本以上に暴騰する、あるいは暴落するというような形で世界中で混乱を起こしています。

桑子:
では、どう対策をするか。新型コロナウイルスのように、ワクチンをニワトリに打つという方法も海外では進められています。

鳥インフルエンザを調査する国際団体によると、中国では全土でニワトリなどへのワクチン接種が義務づけられ、さらにはベトナムやインドネシア、バングラデシュ、そしてエジプトでもニワトリなどへのワクチン接種が行われています。

信岡さん、こうした中、日本ではこのワクチン接種はどのように考えているのでしょうか。

信岡さん:
日本でも20年ぐらい前からワクチンを「感染拡大防止」のために備蓄してやっていますけど、「予防」のためには使わないという原則でやっています。ですから現実には使っていません。

桑子:
その要因は何でしょうか。

信岡さん:
要するに「感染は防げない」と。「発症は防げる」というワクチンですから。変異を繰り返すと人間にかかるリスクも出てくるのではないかというおそれがあるので、全部殺処分という形を取っています。

桑子:
例えば、もしワクチンを打つとなった時、考えられる課題もあるわけですか。

信岡さん:
いちばんの問題は「手間」と「コスト」がかかると。相当な金額になります。原理的に筋肉注射ですから、打つ手間もコストも膨大になります。

桑子:
こうした厳しい状況の中でも、日本の養鶏家の皆さんは何とか供給を守ろうとしてくれています。けれども、今そこに追い打ちをかける事態が起き、養鶏業界の土台そのものが揺らぎ始めているのです。

もう限界!コスト負担 ある養鶏家の悲鳴…

養鶏業が危機にひんしている原因の1つが「エサ代の高騰」。卵の生産コストの6割を占めるといいます。

エサの主な原料である「トウモロコシ」や「大豆の搾りかす」は、そのほとんどを輸入に依存。ウクライナへの軍事侵攻や円安、中国の穀物輸入量の増加などの影響で近年相場が上がっています。

愛知県で比較的小規模の養鶏場を経営する65歳の男性。エサ代の高騰などで経営体力が尽き、ことしいっぱいの廃業を決断しました。

安い卵を求める消費者の期待に応え続けることが限界を迎えていました。

廃業を決めた養鶏家
「やっぱり利益率が(低い)、卵価が安い。1パック200円、150円とか大売り出しで100円を切るようなのがザラに今まであったでしょう。そういう状態だと、なかなか…」

卵の値段はこの20年、200円台前半の安さを維持。消費者から、“物価の優等生”とたたえられてきました。しかしその陰で、卵を作る養鶏家はしれつな価格競争にさらされ、互いに経営体力を削り合ってきました。
その結果、この20年で養鶏家の6割が廃業に追い込まれ、特に小規模の生産者は次々ととうたされているのです。

廃業を決めた養鶏家
「ここらへんが潮時かな。鳥屋さん(養鶏家)も、そうは続かない。45年間、よく頑張ったと思います。自分を褒めてやりたい」

活路は“日本食ブーム”

日本の厳しい状況に不安を抱き、海外への販路で生き残りを図ろうとする動きも。

そこは、シンガポール。デパートにあったのは、日本からの空輸代も含め、6個1,000円の卵。日本では300円前後で売られているブランド卵です。3倍の値段にもかかわらず、日本食ブームにも助けられ、飛ぶように売れていきます。

購入した客
「生卵を食べるので、品質にとても気をつけています。この卵は臭みがなく、黄身の色がいい」
取材班
「どうやって食べるんですか?」
購入した客
「“卵かけごはん”」

この卵の輸出に取り組んでいるのは、愛知県で卵の卸売業を営む市川尚宏さん。日本だけでなく、海外で売ることで少しでも経営を安定させたいとシンガポールへの輸出を始めました。

日本の卵の海外への輸出額は、この5年で5倍以上に増加。他の生産者たちも、卵が“物価の優等生”と呼ばれる日本から飛び出し始めています。

卵卸売会社 市川尚宏さん
「(日本の卵が)海外で評価をいただけるのが、びっくりしましたね。感動しました。あまり(物価の)優等生という言葉は的確ではないと思っています。産業として成り立たないと、(卵)そのものがなくなってしまう」

“物価の優等生”に危機 おいしい卵を守るためには

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
「大規模飼育」、それから「ウイルスの変異」に加えて「エサ代の高騰」でますます厳しい状況に追い込まれています。
信岡さん、今後エサ代の高騰はどうなる見込みですか。

信岡さん:
エサ代の高騰は、円安も加わってこれからも続きそうです。特に、中国の政策転換によるトウモロコシの大量輸入が2020年から本格化してきて、日本はその影響を受けています。同時に、これは世界の問題ですが養鶏農家に大打撃を与えているので世界共通の問題です。

桑子:
私たちの取材では、こういった悲鳴も聞かれました。

新潟 大規模養鶏家
「エサ代高騰に対して、手厚い国の支援が必要」
鹿児島 養鶏団体
「どんなに対策しても発生する鳥インフルエンザ。どうしたらよいのか分からない」

国は実際に養鶏家に対策をしているのかというと、こういった支援策があるんです。

例えば、エサ代高騰の際にはエサとなる配合飼料代を補てん。現在、その割合はエサ代の15%から20%程度ということです。
また、鳥インフルエンザが発生した際には殺処分されたニワトリへの手当金(手当金は処分されたニワトリの評価額を全額交付するもの)。
さらには、経営再開までにかかる経費を支援する基金も設けているということです。

信岡さん、こういった国の支援は十分と言えるのでしょうか。

信岡さん:
負担の重さに耐えかねて廃業する、あるいは倒産する農家も出ています。経営状況が悪化してくると金融機関もお金を貸し渋るということも出ております。個人的にいくら頑張っても対応できないとなれば、国の公的な支援も必要となってきます。

桑子:
経営再開まで支援するという制度もありますが、この辺りはどうでしょうか。

信岡さん:
鳥インフルエンザに限っていえば、本来は国が100%補償しなくてはいけないはずですが、経営再建に向けた固定費の一部をまだ補てんしきっていないと。現状8割ぐらいの補てんになっていますので、その拡充をお願いしたいという声を聞いてます。

桑子:
さらに大規模飼育の見直しということで、国は鳥インフルエンザによる被害を最小限にするための取り組みも始めようとしています。

8月に指針を改正予定ということですが、これまでの方針管理のしかたから、「分割管理」に変えようというものです。

まず、敷地内に柵などを作り、さらにそれぞれ消毒設備を設置。出入りする人や車を分けることで、分割して衛生管理を徹底させようというものです。
これによって1つのブロックで鳥インフルエンザが発生しても、他のブロックのニワトリは殺処分の対象にはならないというものですが、この対策についてはどのようにお考えですか。

信岡さん:
「分割管理」に関しては、大規模な殺処分を防げるという意味では一定の評価ができます。
ただ、エサの搬入、卵の搬出、それぞれ全部分けるとなると設備投資が必要です。膨大なプラスアルファの設備投資が必要になります。人も分けるとなるとコストアップになります。その負担をどうするかという議論になってきます。

桑子:
どんどん負担が増える中で、現実的な採算ラインはいくらになるわけですか。

信岡さん:

採算ラインとしては、生産コストを考えますと1パック当たり250円。これが現在の採算ラインです。
現在の卵の価格は300円ですが、50円ぐらい下げていっているという。これまでの1パック220円ぐらいから比べると1個当たりにすると僅か3円のアップですが、これぐらいは皆さんと共に痛みを共有していただきたいなとは思います。

桑子:
この値上がりを簡単には受け入れられないという声も聞かれるわけですが、どのように卵を守っていけばいいでしょうか。

信岡さん:
いちばんの要因であるエサ代が上がってきてるという構造的な要因を防ぐには、やはり国内でエサの自給を考えていくと。トウモロコシとか飼料用米の拡充、それから地産地消を推進していくということです。

桑子:
ありがとうございます。高品質な卵が当たり前のように食べられるありがたさ、しかしそれは瀬戸際にあるのかもしれません。

世界を魅了! 高品質な日本の卵

日本の卵の輸出が始まったシンガポール。今、多くのレストランがその質の高さに注目し始めています。

ある三つ星レストランでは、人気メニューの「ポーチドエッグ」に採用。ここまで色鮮やかな黄身は世界でも珍しいといいます。

別のレストランでは「チーズケーキ」に採用。決め手は日本産に対する信頼感でした。

WAKU GHIN オーナーシェフ 和久田哲也さん
「(客に)『日本の卵』って言うと『OK』って言われるんです。大切な大切な。(日本の卵)なしでは成り立ちません」

今や現地の30店舗以上のレストランで採用されるまでになっています。世界が認める高品質な日本の卵。守っていきたいですね。

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

この記事の注目キーワード
物価高騰

関連キーワード