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2023年7月11日(火)

その「一言」が将来を変える!?最新研究・言葉のリスクと可能性

その「一言」が将来を変える!?最新研究・言葉のリスクと可能性

しつけや教育のつもりで口にする言葉。実は、使い方を誤ると脳の発達など、子どもの将来に大きな影響を与えるおそれがあることが、最新研究から浮かび上がってきました。米・ハーバード大学が研究する言葉の暴力によって低下する“脳の機能”、そして、“影響を受けやすい年齢”とは?一方、「たたかない・どならない子育て」として世界30か国以上に広がるプログラムも取材。子どもの成長を支える“言葉がけ”の秘けつに迫りました。

出演者

  • 奥山 眞紀子さん (小児精神科医)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

その一言が危ない!? 最新研究“言葉のリスク”

桑子 真帆キャスター:
子どもの将来を変えてしまうかもしれない言動。どんなものなのか。

例えば「お前なんか生まれてこなければよかった」と子どもの価値を下げたり「お兄ちゃんはできたのに、お前はだめなやつだ」ときょうだいを差別する言葉。
さらに、学業や部活で成果を出すことを強要するといった過度なプレッシャーを与える態度などです。

こうした言動、子どもにどんな影響を与えるのでしょうか。

親の言動 子どもへの影響は

栃木県にあるクリニックでは、心の問題を抱える子どもの治療を行っています。最近、心の不調の裏側に「親からの言葉」が関わっているケースが増えているといいます。

西真岡こどもクリニック理事長 仲島大輔さん
「診断がつくくらい不安が増してしまって、社会生活とか強迫症状が出てしまったりというお子さんがすごく増したという印象」

不登校などに悩み、2年前からこの病院に通っているアスカさん(仮名)、15歳。

アスカさん(仮名)
「本当はやらなきゃいけないのに、できないつらさが“どんっ”ときて。また泣いて、みたいな。毎日毎日、繰り返していて。その時は『なんで生きているんだろう』みたいな」

次第に症状が悪化し、自傷行為に走るようになったアスカさん。診察を重ねると“親からの言葉”に追い詰められていたことを明かしました。

アスカさん
「『お前なんか生まれなければよかった』と言われたのは本当に今でも引きずっているくらい、つらかった」

アスカさんの母親は、娘に寄り添いたいと思いながらも身近に相談できる人もおらず、ついきつい言葉を口にしてしまったといいます。

アスカさんの母親
「『なんでほかの子は(学校に)行けているのに、あんたは行けないの?』とか。『頑張っているのが見えないんだよ』『伝わらないんだよ』と言っちゃって。自分の不安を解消したいがために、そう言っちゃっていた。本当にそれは今でも後悔している」

親の言動は、子どもの成長にどのような影響を与えるのか。

東京医科歯科大学は、8年前から都内の自治体と共同で小学1年生の子どもを持つ保護者、およそ3,000人を継続的に調査。

子どもを傷つける「不適切な言動」が与える影響を、「身体的な暴力」や「ネグレクト」と比較しました。すると「不適切な言動」は、暴力などと同じくらい“集中できない”“いじめをする”などの問題行動を増やす傾向が見られました。

さらに研究チームが注目したのは「不適切な言動」を受けた子どもたちだけに、“他人を思いやる行動をとる頻度の低下”が認められたことでした。

東京医科歯科大学 講師 伊角彩さん
「思いやる気持ちとか周りを気遣う気持ちがなくなると、周りとの関係が築きにくかったり、逆にそういうふうにしていると、周りからの助けとか情報が得られなくなる。長期的にお子さんに対して影響を与えていく可能性が見えたのかなと」

親からの言葉の影響に、大人になってからも悩まされている人がいます。タケシさん(仮名)、20歳です。

幼いころに両親は離婚。母は働きながらタケシさんと兄を育ててくれました。その一方で、母親はタケシさんをスポーツ万能で学業も優秀な兄と常に比較してきたといいます。

タケシさん(仮名)
「『なんでお前はこんな感じなんだ』みたいなところから始まって、『あんたはうちの子じゃない』『あんたはそこの橋で拾ってきたんだよ』と。やはりそれが冗談で言ってたとしても心に残るものはあるし、比べられてきたからこそ、それを冗談と捉えられない」

その後、タケシさんは猛勉強の末、希望の大学に進学。母親の態度は一変し、優しさも感じられるようになりました。しかし今、母親の言葉の記憶に悩まされています。人の言葉の裏が気になり、人間関係をうまく築けないといいます。

タケシさん
「(母から)急に優しくされても、どういう意図があってやっているのか考えちゃう。それを、親じゃなくて友達とかにも優しさの見返りに何かくるんじゃないかって先走って考えちゃう。アップアップになって、できない自分を責めるみたいな感じ。自傷、切ったりとかしていました」

言葉の暴力は脳の発達に何らかの影響を与えているのではないか。ハーバード大学の大橋恭子さんは、体罰や言葉の暴力、いじめなどを受けた経験を持つ300人以上の脳を分析しました。

浮かび上がったのは、「言葉の暴力」が脳のある機能に深刻なダメージを与えるリスクです。

脳は、各領域が連携し合う「ネットワーク機能」を持つため、一部に異常が出ても補い合うことで正常な状態を維持することが出来ます。ところが、「言葉の暴力」を受けた人はこの能力が大きく低下。精神的なストレスなどに対して、ぜい弱な状態になっていたのです。さらに、「言葉の暴力」の影響を最も受けるのは16歳から18歳であることも浮かび上がりました。

ハーバード大学 医学部精神医学 大橋恭子さん
「16歳から18歳は、前頭葉のほうにつながる神経線維が特に発達するころ。ストレスとかに対処しにくくなることが考えられて、精神疾患とかにつながる可能性もある」

あなたは大丈夫?最新研究“言葉のリスク”

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、小児精神科医の奥山眞紀子さんです。
言葉のかけ方だったり態度に気をつけないといけないと思う一方、親に余裕がない時などはきつい言葉をかけてしまったり、あとはきちんと言うべきことは言わないといけない時もあると思うんですね。そうした中で、どんなことに気をつけたらいいのでしょうか。

スタジオゲスト
奥山 眞紀子さん (小児精神科医)
子どもの虐待防止センター理事

奥山さん:
親子関係というのは“人間関係”なんです。いい関係が築けていれば、たまにきつい言葉を言ってしまったとしても取り返しはつくと思います。
ただ、その子の存在を否定するような言葉を繰り返し言ってしまったり、関係性を崩すような形になってしまう時は、子どもにとって傷になるということがあるんだと思います。

桑子:
前提として「いい関係」を作るということですが、気になるデータをご紹介したいと思います。

児童相談所への虐待通告数ですが、全体的に増加傾向にある中で、赤色の「暴力を伴わない親の言葉や態度による心理的虐待」が特に増えているんです。
この背景には心理的虐待そのものへの認識が広がったり、例えば激しい夫婦げんかを目の前で見た子どもを警察が児相に通告することが増えていることも関係しているということですが、奥山さんは臨床の現場にいて実感はいかがでしょうか。

奥山さん:
私も児童相談所にも関わっているのですが、確かに警察からの通告も多いのですが、実際に子どもたちが学校の先生に「帰りたくない」と言ったり、家出をして保護されて「帰りたくない」といったりということがあって、その背景に心理的な虐待があるということは結構多いんです。
ですので、心理的虐待そのものも全体的に増えているのではないかなという印象も持っています。

桑子:
その背景には何があると思われていますか。

奥山さん:
やはり親御さんの余裕のなさというのも一つ感じるところですね。ひとり親家庭が多かったり、夫婦で働かないと経済的に成り立たないというおうちも増えています。
また一方で、社会のプレッシャーも強いのか親御さんが「いい子に育てなきゃ」それから「勉強もよくさせなきゃ」ということで、子どもを追い詰めてしまうことも結構見られるように思います。

桑子:
そうして余裕のない親から子どもに対してきつい言葉・態度をするということがあるわけですが、奥山さんが子どもの側にも懸念される状況があるというんですね。
それが「保護因子(逃げ場)」が減っているということです。具体的にどういうものなのか。例えば、こういった調査があります。

東京医科歯科大学が小学生およそ3,000人に行った大規模調査では、親以外の大人の存在が保護因子として有効であるということが明らかになりました。
具体的には、「尊敬できる人」だったり「ロールモデルになる人」「大切に思ってくれるような支援的な人」ということが挙げられるわけですが、こういった存在が今減っていると。これはどうしてだと考えていますか。

奥山さん:
親御さんが孤立していることも多いと思うのですが、そういう場合、子どもさんも孤立してしまう。地域の方々との接触も少なくなってしまったり、あるいはおじいちゃんを尊敬している子どももいるのですが、なかなかそういうおじいちゃん・おばあちゃん、あるいは親戚の方との連携も少なくなっていく、関わりも少なくなっていくということもあるのではないかなと思います。

桑子:
昨今の状況で言うといかがでしょうか。

奥山さん:
特にコロナ禍がありましたよね。うちに閉じ込められていて学校にもなかなか行けないとか、地域にも出ていけないということがあって、子どもたちが親と密な関係になってしまって逃げ場がなくなるということは見られたことだと思います。

桑子:
そうした中で、親と子の関係をどうすれば良好な関係にすることができるのか。あることをきっかけに親子の関係が一変したという人たちからヒントを探ります。

どうすれば良好に? 親子関係“改善のヒント”

小学生から高校生まで3人の子どもを育てているマサヨさん(仮名)。子どもをしつけなければと毎日のようにどなっていたといいます。

マサヨさん(仮名)
「もう毎日メガホンが必要なぐらいひとりひとりに言っていたので。本当に毎晩、倒れ込むように寝ていたのでなんとかならないかと」

転機となったのは、ある子育て支援プログラムを知ったことでした。カナダの児童心理学者と国際NGOが共同で開発し、世界30か国以上に広がる「ポジティブ・ディシプリン」です。

マサヨさん
「いまの私には本当に学びになる言葉がたくさんあって。もう声張り上げるようなことじゃなくても、わりとすむようになりましたね」

一体どんなプログラムなのか。子育て中の親の協力を得て取材しました。

対象となるのは、18歳までの子どもを育てる全ての人。たたくことも、どなることもなく、しつけるための“考え方”を学びます。

例えば、こんな場合。

あなたには7歳の子どもがいます。
学校の先生から「お子さんに困っている」と連絡がありました。
「じっと座っていられず、課題を終えるのに時間がかかる」といいます。
まもなく子どもが帰ってきます。
なんと声をかけますか
息子(15歳・21歳)の母
「和を乱しているじゃないけど。ルールから外れていることは伝えないとだめ」
娘(14歳)の母
「僕は逆で、何か特別なことあったの?みたいな言い方をする」

考え方のポイントは「安全と安心」。そして「情報とサポート」だといいます。

NPO法人きづく代表理事 ポジティブ・ディシプリン日本事務局 森郁子さん
「安心安全でアンテナ全開になったときに、じゃあどうしたらいいのかという情報が必要だし、子どもには理由があるんですよ。『じっと座っていなさいよ』と言ってもそれができないから困っているという話だったら、一緒に練習して子どもができるようにサポートするとか」

プログラムは全体で18時間。参加者は学び合う中で、それぞれの家庭に合った子どもとの接し方を見いだしていきます。

「子どもの好きなお菓子を用意しておくとか、しゃべりやすい空気をつくっておく。『先生からこういう連絡あったけどどうなの?』と、もう直球で聞く。一緒に解決策を考える」
森郁子さん
「『どなっちゃった どならないで伝えられなかったかな』とやっぱり後悔するというか、『違う方法があればよかったな』と思っている方が多いなと思うので、子どもを育てている人だったら誰でも来られる場所があるというのが大事かなと思っている」

子どもとの橋渡しをしてくれる人の存在に救われたという親もいます。

働きながら5人の子どもを育てているミサコさん(仮名)です。中学生の長男と進路をめぐり、たびたび衝突してきました。

ミサコさん(仮名)
「『よそのうちの子になる』とか言うときがあるんで、『じゃあ出ていけばいい』とか、自分の子だからどうしてもきつく言ってしまう。いろんな思いが混ざって」

スポーツの強豪校への進学を希望している長男。親から投げかけられる言葉に傷ついてきました。

長男
「高校の話していて『高校どこ行きたい?』みたいな。志望校言ったら『お前なんか行けるわけねえやろ』『行ってなにすんの?』とか。本当に自分の親なんかなって思う」

2人の関係改善を支えたのが、地元のNPO法人です。児童相談所に勤務していたスタッフが関係に悩む親子の間に立って支援しています。

ミサコさん
「親心として見たら、やっぱりつまずかないでいってくれたほうがいいなって思うし。そのへんがいま悩んでいるというか」
親子関係支援センターやまりす 理事長 敷田万里子さん
「部活を3年間続けてきて、そこでそれなりに頑張ってきて、たぶん調子も上がってきたっていうのもあるんかなって」

親子の口論が収まらなくなったときには自宅までスタッフが出向き、仲裁したこともありました。

敷田万里子さん
「本当はうまくやりたいんだっていう気持ちの方をなるべく引き出せるように聞いたり、親御さんが子どもさんを育てているのにつき合うというか、そんな感覚ですね」

スタッフの支えを受けて2年。2人は徐々に将来について冷静に話ができるようになってきました。

ミサコさん
「バドミントン部入りたいんでしょ?」
長男
「うん。ちゃんと科目(勉強)もやるよ」
ミサコさん
「いいんじゃない?」
ミサコさん
「親じゃない、兄弟でもない。敷田さんに聞いてもらうことで視野が広がるというか冷静になるというか。子どもたちとの関係も変化が生まれるきっかけになった」

子どもと接する上で心がけることは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
「保護因子」は子どもだけではなく、親に対してもとても重要だということを感じますね。

奥山さん:
そのとおりだと思います。親御さんにも「あなたの存在は大切」ということを伝える人が必要だ思います。

桑子:
効果的に親の「保護因子」をつくるにはどうしたらいいと思われますか。

奥山さん:
子育てはいくつか大変な時期があると思うのですが「イヤイヤ期」とか「思春期」とか。その前あたりに子どものことを学べたり、同じ年ごろの子どもを持ったお母さんたちとおつきあいができたり、それから相談にものってくれるようなことができる場があるといいなと思います。

桑子:
子どもと接する上でどんなことを心がけたらいいのか。

発達心理学がご専門の北川教授によりますと、子どもがつらい時に親は支えてくれるだろうと思えることが重要なんだと。
そのためにも親は、子どもは今不安かな、泣いているな、といったサインにまず気づく。そして共感してあげることが重要だということでした。
ただ、この「気付いて共感してあげること」は完璧でなくてもいいんだと。3割で十分なんだというお話もありました。完璧でなくてもいいわけですね。

奥山さん:
そうですね。親子関係というのは築いていくもの、つくっていくもので100点満点があるわけではありません。完璧にしようと思ったらば、親も追い詰められてしまうんですよね。

桑子:
いつも臨床現場などで親御さんにアドバイスをされていることはどんなことですか。

奥山さん:
親御さんが叱っても叱っても子どもがよくならないという時に、やはりお子さんが悪いことをした時、その行為はいけない、でもそれをしちゃったプロセスは受け止めてあげながら今度はどうしたらそれを防げるかを一緒に考えてあげる。それが必要だと思いますし、跳べないハードルをいっぱい跳ばそうと思っても無理なので、跳べるハードルを作ってあげて褒めてあげるということも必要なことだと思っています。

桑子:
子どもと接する中で、どういう気持ちを大事にすることが必要でしょうか。

奥山さん:
子どもと楽しむ気持ちを共有して、お互いに楽しかったね、よかったねと言い合える。そんなことがとても大切だと思っています。

桑子:
具体的に日常の中で、どういうことをした時に共有することができますか。

奥山さん:
一緒に遊んだ時とか本当に何かができた時、向き合うだけではなく同じものを見ながら「やったね」ということを親子で共有する。それがとっても大切ではないかなと思っています。

桑子:
一方で「これはいけないよ」と指摘する時は指摘するということも必要ですよね。

奥山さん:
先ほども言いましたように行為に関してはいけなかった。でもそのプロセスとして、例えば「何か言われて頭にきて殴っちゃったんだ」としたら、頭にきたことは受け止めてあげて「次、頭にきたらどうするか」。それを一緒に考える。それが大切なことだと思っています。

桑子:
ありがとうございます。
親の言葉に傷ついてきた15歳のアスカさん。親子の立ち直りを支えた存在とは。

言葉に傷ついた15歳 前を向くきっかけは

学校に行けないことへの親の言葉に傷つき、自傷行為にまで及んでいたアスカさん(仮名)。体調が回復し、この春、定時制の高校に進学しました。

アスカさん(仮名)
「なにも分かってくれないんだって思っていたけど、ママの対応が少しずつ、ああ、理解してくれているって」

親子を支えたのは、通っていたクリニックを中心としたチーム。学校や行政の福祉課などとも連携し、二人の関係改善を支援してきました。

この春、アスカさんには新しい目標ができました。

アスカさん
「ママとディズニーに行くって目標を立てていて、今はそのためにバイトを頑張ろうと思っています」
アスカさんの母親
「親としては一番うれしい。もう言われたとき、泣いちゃいました」
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