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2023年7月10日(月)

大谷翔平“異次元のその先へ”徹底分析・快進撃の秘密

大谷翔平“異次元のその先へ”徹底分析・快進撃の秘密

大谷翔平から目が離せない!投げては中5日のローテーションで白星を重ね、打ってはすでにHR30本超。打率打点もリーグ上位につけ「三冠王」も視野に。快進撃の秘密は?詳細なデータ分析から見えてきた“セオリーにとらわれない大谷独自のアプローチ”とは?「二刀流」のムーブメントは次世代にも。大谷に憧れ二刀流でMLB入り目指す高校生に密着!前例のない道を歩み続ける大谷。オールスター直前、異次元の活躍に迫りました。

出演者

  • 小早川 毅彦さん (NHK野球解説)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

オールスター直前! 大谷翔平“快進撃の秘密”

桑子 真帆キャスター:
メジャーリーグで投打二刀流の大活躍を見せる大谷翔平選手。日本時間の7月9日、前半戦が終わりました。

爪やまめのトラブルもありましたが、投手としては7勝を挙げ、被打率や奪三振の数もリーグ上位の好成績を収めています。
特に目覚ましい活躍を見せているのが打撃です。ホームランは7月9日も打っており、32本。2位に6本もの差をつけています。
さらに打率・打点もトップクラスの成績を残しており、三冠王も夢ではありません。二刀流で三冠王となると、史上初となります。

なぜ、これほどの成績を残しているのか。ポイントは新たな“構え”です。

“異次元の活躍”の秘密

WBCの優勝からわずか9日後に始まった、今シーズン。例年にも増して世界中の注目が集まる中、大谷選手はある目標を掲げていました。

「ホームラン」と「打率」の両立です。

その目標を初めて公にしたのは2022年の最終戦、試合後のことでした。

2022年10月 大谷翔平選手
「もう少し打率の部分で3割近く打てるイメージでシーズン前はいこうと思っていた。その中でホームランがどれだけ出るのかが、ひとつチャレンジではあった」

一般的にホームランをねらおうとすると大振りになり、三振や凡打が増えてしまうため打率との両立は極めて難しいとされています。

元メジャーリーガーで、2022年までロッテの監督を務めた井口資仁さんです。

元メジャーリーガー 井口資仁さん
「ことしは打率をまず3割打ちたいという思いの中でシーズンに入ってましたので、打率を上げながらホームラン数を増やすというのは本当に難しいこと。それをいとも簡単にやりのけてるなと思います」

2021年の大谷選手、ホームランは46本と自己最多を記録したものの、三振の数も自己ワーストまで増えてしまい、打率は2割5分台にとどまりました。
逆に2022年は2割7分台まで打率を上げましたが、ホームランは34本と大幅に減ってしまいました。

今シーズン、大谷選手は一体どのようにホームランと打率を両立しようとしているのか。

春のキャンプでの大谷選手のバッティングを見た井口さんは“構え”にある変化を感じとっていました。

井口資仁さん
「ことしはキャンプから打率残そうということで、スタンス広くして、構えも大きくして打っていた。自分の中でも力強く打とうという」

スタンスを広くした構えで挑み始めた、今シーズン。4月末の時点の打率は、3割まであと一息の2割9分4厘(4月30日時点)。ホームランも7本と順調に滑り出しました。

ところが5月に入ると、それまで捉えることができていたボールにタイミングが合いません。特に打ちあぐねていたのは、ホームベースの手前で沈む“抜き球”と言われるチェンジアップなどの変化球。ホームランはペースダウンし、打率も急降下してしまいました(5月“抜き球”打率 .167)

井口資仁さん
「5月からチェンジアップとか“抜き球”に対してなかなか反応できなくなってきて。どうしても下半身で粘り強く振らなくてはいけないので、下半身が疲れてくると、どうしても体が前に出されたりとか、自分の思ったところにアプローチできなくなってきたというのがひとつある」

WBCからの連戦で疲れが残っていたのか、沈むボールに対して下半身が粘りきれず体勢を崩されていたというのです。理想のバッティングを確立するために大谷選手は、この間、自分のフォームやデータを繰り返し確認。打席では1球ごとにスイングの軌道を修正しました。さらに、ふだんはめったに行わない屋外での練習に取り組み、打球を飛ばす感覚を再確認するなど試行錯誤を繰り返していました。

大谷翔平選手
「いろいろトライはしていますし、何事もやってみてよかった悪かった、分かると思うので。当たり前のことですけど、1試合1試合やっていくことによって、いい打席を送れるんじゃないかと思います」

模索を続ける大谷選手。井口さんは意外なきっかけが復調につながったのではないかと指摘します。

5月中旬の試合。大谷選手は寝違えて、首を痛めた状態で臨んでいました。

井口資仁さん
「首痛めたとき、オリオールズ戦があった。力感なくスッっと立ったときがあった。自然体に構えるようになってきた」

この日以前の試合では、上半身がやや前傾姿勢になり、両腕に力がこもっているように見えます。一方、この日以降の試合では、直立してゆったりと構えているように見えます。

この結果、苦しんでいたチェンジアップなどの変化球に対しても柔軟に対応できるようになったというのです。

井口資仁さん
「素直にバットが出てきてるので、どのコースに対してもしっかりアプローチできている。だんだん力感のない形に変わってきて、インパクトのところだけしっかりと集中してヘッドスピードを走らせて打てる」

そこから大谷選手は、かつてないほどの快進撃を見せます。

チェンジアップだけでなく、あらゆる球種、コースのボールをことごとく打ち返し、6月のホームラン数、打率、打点は月別の自己記録を塗り替えました。

6月
ホームラン 15本
打率 .394
打点 29

そして打球の飛距離も、およそ150メートルの特大ホームランと、今シーズンのメジャーリーグ最長記録を更新しました。

大谷翔平選手
「一番は“構え”だと思っている。構えている段階で立ち遅れてるなら振り遅れるし、いい構えなら難しいボールに対しても素直にバットが出てきたりするので一番はそこ」

さらに、大谷選手は野球の常識をも覆そうとしています。

解説
「大谷が内角の際からボール3個分くらい離れたボールを強打した」

本来は手を出すべきではないとされるボール球をホームランし、打たれた相手ピッチャーは「この地球上であの球をホームランにできる人間は大谷だけだ」とコメントしました。

メジャーリーグのデータ解析を専門に行うアナリストは、規格外のスケールがデータにも表れているといいます。

データスタジアム アナリスト 小林展久さん
「ストライクゾーンの外側10センチ前後、なかなか打てないもの。大谷選手にとってはヒットコースに思えるような対応をしている」

際どいボールゾーンを捉えたホームランは、2022年、わずか1本だったのに対し、2023年はすでに6本。打率も1割6分台から3割2分台へと大幅に向上しています(※ストライクゾーンから約10センチのボール球)。

小林展久さん
「(投手としては)この際どいボールゾーンの球も自分のヒットゾーンにしてしまう進化をされると、投げるボールが相手ピッチャーからしたら無かったんじゃないか」
井口資仁さん
「(際どいボール球を)あえて狙うことで、そこに投げさせない。そこを常に見送っていると必ず厳しいところ突いてきますので『そこは打てるよ』と相手に分からせて次の相手の配球を変えさせる。われわれの考えをはるかに超えている」

NHK野球解説・小早川毅彦さんに聞く 3つの注目ポイント

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、NHKのメジャーリーグ中継で解説を担当し、大谷選手を見続けてこられた小早川毅彦さんです。改めて一緒に今シーズン前半の成績を振り返っていきたいと思います。
「ホームラン」と「打率」を両立するという目標をまさにかなえているという。どれぐらいすごいことなのでしょうか。

スタジオゲスト
小早川 毅彦さん (NHK野球解説)
現役時代は広島・ヤクルトで打者として活躍

小早川さん:
解説者の私たちの想像をはるかに超えていますよね。チームメートでMVPを過去3度受賞したことがあるトラウト選手は、今シーズン、投手と打者の大谷選手をどう表現しますかという質問に対して、こう言いました。“He is unbelievable.”と。

桑子:
信じられない?

小早川さん:
これは私も同感ですよね。

桑子:
打者としてだけではなく、投手としてもいい成績を収めている。

小早川さん:
バッターと投手のふたつでこれだけの数字を残すというのは考えられないです。

桑子:
小早川さんが注目される3つのポイントを見ていきたいと思います。

打球速度
185.2km/h(6月30日のホームラン)

その1。驚異的な「打球速度」ということで、185.2キロというのは6月30日、150メートル飛ばしたときのホームランです。これはどうすごいのでしょうか。

小早川さん:
185キロってすごすぎます。私たちプロ野球の世界でも160キロに届けば本当にすごい打球で、日本プロ野球の超一流の長距離バッターでも170キロに届けばすごい打球なんです。それが185キロ。なおかつ150メートル以上の飛距離を生むわけですから、これはもう本当に考えられないです。

桑子:
その2。「バットの長さ」ということです。今シーズンから1インチ伸ばしています。

バットの長さ
+1インチ(約2.5センチ)

どれぐらいかといいますと、五百円玉を用意しました。

ちょうど2.5センチぐらいということで、ほんのちょっとかなと思うのですが。

小早川さん:
わずかなんですけど、単純に長さを長くしたら遠心力がついて飛距離が伸びるということなんですが、私も現役時代のころ飛距離が欲しくて実際に0.5インチ長くしてみたことがあるんです。だけど、やっぱり操れなかったです。というのもバットのバランス、使いなれたバットよりもバランスが長くなります。バットの先から芯の位置が決まってきますので、その分バットの芯の位置がずれてきますし、バットのバランス、重量も変わってきて操るのに苦労しましたし、長くなった分、ストライクゾーンのベース板との間隔も違ってくるんです。

桑子:
一般の人の日常生活の中でいうと、どれぐらいのことなのでしょうか。

小早川さん:
分かりやすく言えば、ふだんごはん食べる箸から料理に使う菜箸、あれでごはんを食べるぐらいの感覚。それぐらいの違いはあると思います。

桑子:
それを使いこなせていると。本当に異次元ですね。

小早川さん:
すごいと思います。

桑子:
その3。大谷選手は過去の発言で休養日の過ごし方を聞かれたとき「10時間以上寝る」と答えています。

休養日の過ごし方は?
“10時間以上寝る(日本時間 5月4日)”

もう1つ、遠征先のニューヨークのお気に入りスポットは?と記者から聞かれたとき「1回も出たことがないから分からない」と答えたということです。

小早川さん:
すべてを野球にかけているということなんでしょうけど、もともと睡眠が大好きだった大谷選手、これは有名な話です。でも、あの世界一魅力的な町・ニューヨークでも外に出たことがない。私だったら現役時代、試合が終わればストレスもたまりますので、終われば外に出て食事をしてストレスを少し発散し、次の日のゲームに臨みたくなるのですが、全くそういったこともないんですよね。

桑子:
1回も出たことがない。

小早川さん:
ニューヨークでも出たことがないのですから、恐らく他の都市でもないのではないかと思います。

桑子:
しかも、苦じゃなくやっていらっしゃるんでしょうね。

小早川さん:
野球が好きなんですね。

桑子:
二刀流でメジャートップの成績をたたき出す大谷選手。これまで1つの専門性を突き詰めることがよしとされてきたアメリカ野球の常識、そのものを変え始めています。

大谷が変える大リーグ “二刀流”目指す選手たち

この時期行われるメジャーリーグのドラフト会議。2022年から“二刀流枠”が新設されました。その枠で2022年、1巡目で指名されたレジー・クロフォード選手は現在マイナーリーグでプレーしており、投打での活躍を「まるで大谷」と評されています。

実は今、大谷選手の後を追うようにメジャーリーグで二刀流を目指す若者が次々登場。2023年のドラフトでも注目されています。

高校で二刀流選手として活躍する、ブライス・エルドリッジ選手。

身長2メートル1インチ。体重101キロ。大谷選手と同じ右投げ左打ちです。

2022年9月に行われた、野球の18歳以下のワールドカップにアメリカ代表として出場。4番・指名打者で先発した決勝戦では、勝利を引き寄せるスリーランホームラン。最終回は投手としてマウンドへ。ノーヒットに抑え、アメリカを優勝へと導きました。
打っては3割超えの13打点。投げてはクローザーとして失点0。大会MVPに選ばれました。

ブライス・エルドリッジ選手
「二刀流選手としてメジャーリーグにドラフトで指名されることを目指しています。皆が“次の大谷”“アメリカの大谷”を見たがっているんです。二刀流での成功を諦めることはありえません」

その実力はメジャーリーグからも注目されています。“二刀流候補”として、たびたび取材を受けています。

2022年9月 MLBネットワーク

「あなたは投手であり野手でもありますが、大谷選手のような二刀流のプレーヤーであり続けることについてどう思っていますか?」
ブライス・エルドリッジ選手
「大谷選手は野球そのものを一変させました。5年前までは(二刀流は)不可能でした。彼が状況を変えてくれて、本当にワクワクしています。プロはもちろん、高校生、より若い世代の可能性が広がりました。(二刀流は)かなえられる夢だと大谷選手が示してくれたのです」

2023年6月 MLBネットワーク

「あなたは二刀流で大谷選手のレベルまでなれますか?何度も聞かれてうんざりしているかもしれませんが」
ブライス・エルドリッジ選手
「よく聞かれます。でも高いレベルで二刀流を続けているのは彼だけです。最高の、そして歴史を創っている選手と比べられて、うんざりなんてしませんよ。ほんとうにほれぼれします」

エルドリッジ選手の母親・ケニーさんは、大谷選手が息子の夢を後押ししてくれたといいます。

エルドリッジ選手の母親 ベス・ケニーさん
「2年ほど前、大谷選手が二刀流で出場した試合をエンジェルスの球場で生で見ました。その時、彼の活躍を見て息子の夢は頂点に達したのです。大谷選手がいなかったら息子は投手か野手、どちらかを選ばざるをえなかったでしょう。夢を信じ続けることはできなかったと思います。私たちは大谷選手にとても感謝しています。いつも彼の事が話題になります」

エルドリッジ選手の高校時代の監督、マーク・ジョーマンさんは、長年高校野球の指導に携わってきました。

ジェームズ マディソン高校 野球部 マーク・ジョーマン監督
「私のチームでは、ほとんどの投手が二刀流です。大谷選手がマインドセット、固定観念を変えてくれたのです。エルドリッジもメジャーリーグですばらしい二刀流の選手になってくれるでしょう」

大谷翔平がもたらす大リーグの“変化”とは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
実は日本時間の7月10日、ドラフト会議の1巡目の指名が行われました。
エルドリッジ選手がどうなったのかといいますと、サンフランシスコ・ジャイアンツに二刀流として指名されました。この変化、どういうふうにご覧になっていますか。

小早川さん:
野球の母国・アメリカでプレーヤーの意識を変える。これはすごいですし、何といってもまだプロになっていない選手たちの背中を大谷選手が後押ししていますよね。
今シーズン、大谷選手は二刀流でのゲーム、ピッチャーとして投げるとき、よく打つんですよ。やはりそういった使命感もあるのではないでしょうか。

桑子:
この“二刀流枠”がドラフト会議の中で今後どうなっていくのでしょうか。

小早川さん:
引き続き採用されて、もっともっと窓口が広くなっていくのではないかなと私は思います。その結果、後に選手として契約した後、どちらか選べるようにもなっていくんじゃないですかね。

桑子:
新しいアメリカの野球がこれから広がっていくかもしれないですね。
小早川さんが他にも大谷選手の影響によって変わったと見ていることがあります。日本のセ・パ交流戦に当たるインターリーグの形式です。これまでは一部のチームと対戦するだけだったのですが、2023年からすべてのチーム同士が対戦することになりました。これも大谷さん効果ですか。

小早川さん:
と、言われています。大谷さんがそういうふうにしたのではないかと。
アメリカじゅうのファンの方、大谷選手のプレーが見たいんです。ファンの方はもちろんですが、選手も大谷選手と実際にプレーしてみたい。その結果こういうルールができましたし、本当に誰もに愛されているプレーヤーなんだなと。今シーズン、レジェンドたちも大谷選手に会いに来たと。

レジー・ジャクソンさん。ミスターオクトーバーといいまして、ホームランバッターです。ホームランを現役時代563本、すごいですよね。
そして、カル・リプケン・ジュニアさん。連続試合出場、いま世界記録を持たれている英雄です。彼の地元であるボルティモアで今シーズン、ゲームがあったときにリプケンさんのイベントが開かれまして、その時にリプケンさんもいらっしゃって、一緒に大谷選手と写真を撮って。

桑子:
そのリプケンさんが表舞台に出ることは…

小早川さん:
めったにないですね。これまであまり表舞台に出てこられなかったのですが、そういったところに出てこられた。それも話題になっていました。

桑子:
そして563本のホームランを打ったジャクソンさんも、表舞台にはなかなか…

小早川さん:
あまり出てこられないですけれども、わざわざ大谷選手のところまで行って、あいさつをされていましたね。

桑子:
レジェンドをも動かす大谷選手ということで、今週末にはシーズンの後半が始まります。
大谷選手が活躍できるポイントを小早川さんに挙げていただきました。

小早川さん:
「コンディションの維持」だと思います。コンディションがしっかりと維持できれば、今のようなパフォーマンスで数字はついてきますので。
メジャーというのは平気で20連戦とか長い連戦もありますし、アメリカ大陸を移動していくので移動距離もすごいんです。それだけで本当に疲れそうなのに、ゲームで二刀流として活躍する。本当にこれ(コンディションの維持)がすべて。大事だと思いますね。

桑子:
これまでの経験もありますし、大谷選手はきっとやってくれると思いますし。

小早川さん:
ファンの期待に応えるのも大谷選手ですから。

桑子:
結果として三冠王というのも。

小早川さん:
シーズンオフ近くになれば見えてくるのではないかなと思います。

桑子:
小早川さんは現実的に期待をされていると。

小早川さん:
期待しています。

桑子:
ありがとうございます。
日本時間の7月12日、メジャーリーグのオールスターゲームが行われます。大谷選手も出場予定です。
NHKでは午前8時からBS1で生中継いたします。そちらもぜひご覧ください。

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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