ページの本文へ

NHK福島WEB特集

  1. NHK福島
  2. 福島WEB特集
  3. 気象予報士泣かせの“会津の霧”

気象予報士泣かせの“会津の霧”

予想最高気温が10度近く外れてしまうことも 午後も解消されない会津の霧
  • 2023年12月14日

全国的に季節外れの暖かさとなった先週末の土曜日(12月9日)。最高気温は福岡で22.2℃、札幌で11.3度を観測するなど九州から北海道にかけての広い範囲で平年よりも6度以上高くなりました。天気予報では週末は晴れて季節外れの陽気、大掃除や行楽日和と言われたなか、福島県会津地方の一部地域では日差しはなく期待を裏切る天気と寒さが続きました。(気象キャスター・本橋淳也)

喜多方だけ平年以下の寒さに

12月9日 最高気温の平年差 出典:気象庁ホームページ

 12月9日、喜多方の最高気温は4.3度。平年よりも2度低く、12月下旬並みでした。この日、全国のアメダスの観測地点の中で最高気温が平年よりも1度以上低くなったのは喜多方の1地点だけでした。福島県と周辺地域の最高気温をみると一目瞭然で、ここだけ寒かったことが分かります。

12月9日の最高気温 画像提供:ウェザーマップ

 周辺の新潟県・南会津・中通り・浜通り・山形県は15度を超える暖かさでしたが、喜多方・会津若松・西会津・金山は10度未満で、喜多方は5度に届きませんでした。前日夕方発表の予報では会津地方は晴れのち曇りで、最高気温は会津若松で14度予想でしたが、実際に観測された最高気温は7.2度と7度も外れてしまいました。

予報が外れた原因を現地調査

 喜多方を中心に気温が上がらなかったのは「霧」が発生したことによって日差しが遮られたためです。9日の福島県は高気圧に覆われ、朝から快晴の天気がほとんどでした。標高約500mの猪苗代町では雪山になった磐梯山と澄んだ青空が広がり、雪解けが進む暖かさでした。

猪苗代町 青空と磐梯山 撮影:本橋淳也

しかし、隣の磐梯町に入ると急に霧の中となり、喜多方市にかけての道のりは濃霧で慎重な運転を余儀なくされました。青空と太陽は消え空気は冷たくなりました

磐梯町 県道337号線 撮影:本橋淳也

 磐梯町と喜多方市の標高450m以上の高台では、会津盆地一面に広がる雲海を撮影することができました。予報が外れてしまった原因はこの地上付近に発生している低い雲です。会津盆地の幻想的な風景を見ることができた喜びと、その下では予報が外れている申し訳なさとで複雑な気持ちになりました。

磐梯町の高台から会津若松方面 撮影:本橋淳也
喜多方市の高台から市街地方面 撮影:本橋淳也

低い雲は午後も広がり続け、喜多方や会津若松にいる間は青空を見ることができませんでした。

喜多方市押切公園付近 撮影:本橋淳也
会津若松インターチェンジ付近 撮影:本橋淳也

「朝霧深きは晴れ」ない冬

 天気のことわざに「朝霧深きは晴れ」という観天望気があります。霧は秋の季語で、朝霧の発生原因が晴れて冷え込むこと、昼は日差しで暖まることで霧は消散され、晴れるからです。ただ会津盆地では冬になり冷え込みが厳しくなると、午後になっても霧が消散されないことがあります。その結果、予想最高気温が10度近く外れることがあり、先週の12月5日も同様な現象が発生しました。

はまなかあいづTODAY じゅん天気 12月5日放送

 冬のはじめ頃、会津盆地ではこの霧によって予報が大幅に外れてしまうことから、私は「予報士泣かせの霧」と呼んでいます。コンピュータではこの霧をうまく予想することができません。はまなかあいづTODAY「じゅん天気」のコーナーでは毎年この時期に原因を解説しています。

冷気湖の形成

 「予報士泣かせの霧」は、風が弱く、晴れた夜間、地表面が空に向かって熱を放出し冷却する「放射冷却現象」が強まった時に発生します。冷やされた空気は重いため、周囲を山で囲まれた盆地は湖のように冷気が溜まります。この現象を「冷気湖」(cold air lake)と呼びます。大気は無色のため目には見えませんが、盆地内の湿度が高いと、冷却された大気は凝結し霧が発生。雲海として姿を現します。冷気の湖のため、雲海の下は冷たく、雲海の上は暖かく安定した気層となります。霧が発生しなければ太陽の光で大気は暖められますが、霧が発生してしまうと太陽の光による気温上昇は期待できません。そして盆地内で風が吹かない限り冷気湖は維持されます。(風が吹くと大気はかき混ぜられ上にある暖かい空気がおりてくる)

 会津盆地の標高は200m前後。周囲を500m~1000m以上の高い山に「Cの字の逆向き」に囲まれており、全国的にも冷気湖が発生しやすい地域です。

会津盆地周辺の地形 出典:地理院地図

 12月9日、気象衛星「ひまわり」を見ると、雪に覆われている高い山に囲まれた会津盆地は白くなっている様子が分かります。それは雲(空気中を漂う小さな水滴)ではあるが東にある猪苗代湖よりも大きい「白い雲の湖」ができていました。

気象衛星ひまわり 白く写るのが雲 水色に写るのが雪や氷
 画像提供:ウェザーマップ

会津盆地は秋から初冬にかけての冷え込んだ朝、頻繁に霧が発生します。なので私は、会津盆地に霧が発生しそうな場合、会津の予想最高気温を疑います。気象情報では「霧が発生してこの予想よりも気温が上がらない可能性があります」とコメントする時があります。ただ、時に霧は足早に消えて予想通り気温が上がることもあり難しいです。

  • 本橋淳也

    NHK福島放送局気象キャスター

    本橋淳也

    福島県の気象情報を担当して3年目。海あり山あり盆地あり、複雑な地形と多様な気候で局地気象の癖が強い福島県。限られた尺の中で天気のポイントを決めるのに日々頭を抱え奮闘している。

ページトップに戻る