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震災12年 被ばくした牛と共に生きる 福島県浪江町

  • 2023年04月12日

 

福島県浪江町の畜産農家、吉沢正巳(まさみ)さん。
12年前の原発事故で被ばくし、国から任意の殺処分指示が出た肉牛たちを飼い続けています。

吉沢正巳さん

全く外れてる訳だ。畜産とかから。でも牛飼いなんですよ。
牛の世話をするのが、牛に餌を与え世話をするのが牛飼いなんで。
牛飼いには変わりないんだ。

命の扱いを問う

牧場にとどまり続けた吉沢さん

震災当時、330頭の肉牛を飼っていた吉沢さん。避難指示が出されましたが、牛の世話をするためにとどまりました。そこで近くの牧場の牛たちの悲惨な姿を目にしたといいます。

吉沢正巳さん

全滅、餓死。生き地獄をそこらじゅうで見た訳ですよ。
もう、「牛ごめんなさい」 人間は避難したのに牛たちを殺してしまったり、繋いで餓死させたって思いがずっと残った。

いても立ってもいられず、吉沢さんは他の牧場で生き残った牛も譲り受け、飼う事にしました。

吉沢正巳さん

つまり人間が命をどう扱うかということを実際の行動でここで示してるわけだ。
見捨てないんだと。やはり仲間なんだ。友達なんだと。
だから俺は牛飼いだし、その牛飼いの仕事を、生涯の仕事として最後まで続けるんだということなんだよね。

厳しい現実と揺らぐ思い

今も一人牛の世話をする吉沢さん

吉沢さんはエサ代を全国からの寄付やボランティアの協力でまかなってきました。
震災当初はたくさんの申し出があったといいます。しかし時が経つにつれ徐々に社会の空気は変わり、寄付も少なくなりました。
廃棄野菜を加工場から分けてもらうなど、工夫しながら牧場を維持しているのが現状です。

そうまでして牛を生かすことに何の意味があるのか?
時には知り合いの酪農家から厳しい言葉を投げかけられもしました。

吉沢正巳さん

お前は馬鹿か?いつまでそういう事をやってるんだと言われたんだ。
そう言われれば確かに馬鹿かもしれないし、おかしいのかもしれない。

それでも❝生きる❞

ボランティアの方たちとの一コマ

未だに吉沢さんを支えてくれるボランティアもいます。
東京から通っているという会社員の男性は、牧場の牛たちを自分自身と重ねて考えたといいます。
 

ボランティア

自分の身に考えたら、お前金稼げなかったら死んでいいみたいな。そんなのあり得ないでしょ。
命の扱いには正々堂々反対するし、そういうところのものを言う強さっていうのが、吉沢さんすごく説得力があるので。だからその活動は応援したい。

昔からの仲間に支えられながら、牛飼いとしての生き方を貫く吉沢さんです

吉沢正巳さん

これからも葛藤が続くわけだ。
だけど生きてるじゃん。生きてる事が意味あるんだよ。
俺も人間で生きてるし、この牛たちも死んではいないんだよ。生きてる。
元気よく。あらゆる矛盾を抱えながら、矛盾とともに、生きるんですよ。

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