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【解説】東日本大震災・原発事故「除染廃棄物のいま」

ゼロからわかる福島のいま 第10回
  • 2023年02月20日

除染とは?

除染は、生活空間の中で受ける放射線の量を減らすために、その元となっている放射性物質を取り除いたり土で覆ったりすることを指します。

東京電力福島第一原発の事故では、大量の放射性物質が周辺の広い範囲に放出され、田畑や家屋、森林など屋外にあるあらゆるものが汚染されました。

原発が立地する福島県では、国がまもなく除染作業にとりかかりました。田畑の表面の土をはぎ取ったり、道路や屋根を洗浄したり、草木を刈り取ったり。放射性物質が付着したこれら除染廃棄物は「フレコンバッグ」と呼ばれる黒い袋に詰められ、県内各地の「仮置き場」には黒い袋がうずたかく積み上げられました。なかには学校の敷地内、公園や駐車場、家の庭などで一時的に保管されるケースもありました。除染は、県内59市町村のうち44市町村で行われ、帰還困難区域ではいまも続いています。


「東京ドーム11杯分」を「県外で最終処分」


除染廃棄物の多くは土で、大熊町と双葉町にまたがる中間貯蔵施設(面積約1600ha)に搬入されてきました。その量は東京ドーム11杯分にのぼっています。中間貯蔵施設では、草木などの可燃物は燃やして灰にし、土は石や砂利などを取り除いたうえで保管されています。これらは、2045年3月までに福島県外で最終処分することが法律で決められています。原発事故から4年後の2015年、施設の建設を受け入れた大熊町・双葉町と福島県、受け入れをお願いした環境省の4者が協定書を交わしていて、その中で県外の最終処分は前提条件になっているんです。


負担軽減へ「再生利用」

とはいえ、東京ドーム11杯分もの除染廃棄物を、福島県外に運び出して最終処分することなど本当にできるのでしょうか。環境省は、大部分を占める土について、放射性物質の濃度が国の基準を下回れば、全国の公共工事などで再生利用する方針を示しています。

具体的には、保管されている土の4分の3がすでに1キログラムあたり※8000ベクレルを下回っています。これらについて国は適切に管理しながら全国の公共工事などで「資材」として再生利用するとしています。一方、残り4分の1の8000ベクレルを超える土は、減容化を図ったうえで県外に持ち出し、最終処分する考えです。

環境省は、再生利用にあたって安全性を確かめるため、南相馬市や飯舘村で盛り土への利用や野菜の試験栽培などの実証事業を行いました。また、県外では、東京・霞が関の環境省が入る合同庁舎の入り口に植物のプランターを置くなどして、放射線量に問題がないか確認を進めてきました。

※8000ベクレルの根拠
ICRP(国際放射線防護委員会)は、一般公衆の1年間の追加被ばく線量の限度を、1ミリシーベルトと定めています。これを守るため国は、再生利用に用いる土の基準を1キロあたり8000ベクレル以下と設定しています。


福島県外での実証事業も

2022年12月、環境省は福島県内での実証事業を通じて安全性などを確認したとして、県外でも実証事業を進める計画を発表しました。

具体的には、▼埼玉県所沢市の「環境調査研修所」▼東京・新宿区の「新宿御苑」▼茨城県つくば市の「国立環境研究所」の3か所で、いずれも環境省の関連施設です。これまでに所沢市と新宿区で住民説明会が開かれましたが、安全性について懸念の声が上がりました。また、所沢市では一部の地区の自治会が反対決議を行うなど、住民の理解を得ながら計画をどうやって前進させるかが課題となっています。


「自分事」と考えられるか

大熊町・双葉町の住民は、苦渋の思いで中間貯蔵施設を受け入れました。広大な施設の建設にあたっては、先祖代々の土地を複雑な思いで手放した人もいましたが、大切な土地を手放したくないとの思いから所有権を残している人たちもいて、地権者の数は2300人以上にのぼります。国は、住民たちに「2045年3月までに県外で最終処分する」という約束をしていて、重い責任があります。

一方、県外では実証事業の計画が示されただけで拒否反応が起きました。放射性物質の濃度が国の基準を下回っているとはいえ、除染で出た廃棄物の受け入れに抵抗感を持つ人は少なくありません。このような状況下で再生利用や最終処分が本当にできるのか。相手の理解なしには進まない話であり、法律では決まっているもののその約束が果たされるのか、福島の人たちには強い疑念があります。

政府・国は、これまで科学的な根拠を示しながら安全性をPRしてきましたが、住民の安心に直接的につながっていない現状があります。放射線や放射性物質についての正しい知識を政府一体となって、今まで以上にわかりやすい形で国民に示していくことが求められています。そして、除染廃棄物の問題を決して福島だけに押しつけることなく、一人でも多くの人が「自分事」として関心を持つようになるかが、解決の第一歩だと思います。

  • 金澤隆秀

    NHK福島放送局・記者

    金澤隆秀

    2010年入局。福島県鮫川村出身。初任地の鹿児島局で東日本大震災発生。2012年福島局に異動し県政・南相馬支局担当。その後、社会部で震災取材・環境省担当。2019年~再び福島局。

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