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「もう大丈夫」まで その手を握る 特定妊婦と支援の現場 福岡

  • 2023年11月22日

 

赤ちゃんを妊娠し「安心できる場所に逃げよう」と・・・

このまま家にいても何も解決しないなと思って、赤ちゃんも妊娠していたので。逃げようというか、安心できる場所に行こうと思って決心してきました。

取材に応じてくれたAさん(20代)は、パートナーから心理的な暴力を受けていたといいます。「安全な環境で子どもを産みたい」と家を出る決意をしました。警察や行政に相談する中で福岡県福智町にある支援ステーションにたどりつき、施設での生活を始めました。

産前産後母子支援ステーション
「MamaRizumuーママリズムー」

”産前から”つながり、支える

産前産後母子支援ステーション「MamaRizumuーママリズムー」です。
妊娠・出産、子育てにまつわる相談を受け付けたり、支援が必要な妊婦を受け入れたりするなどして出産前から産後までの支援をしています。

取材をしたこの日、出産を間近に控えたAさんが、赤ちゃんを再現した人形を使って助産師からもく浴の方法を教わっていました。 

もく浴の方法を教わるAさん

首やお尻を支えることや足から赤ちゃんをお湯に入れていくこと、体の拭き方の注意点など、落ち着いた雰囲気の中で丁寧に教わります。施設が決まるまで今後の生活への不安が強かったというAさん。職員や助産師に相談し話を聞いてもらえると楽になり、背中をおしてくれる言葉をかけてもらい心強かったと言います。アットホームな雰囲気の中で、自分のペースで生活を再スタートさせることができるようになりました。当初抱えていた不安が、少しずつ減っていきました。

Aさん

どうなるんだろうって。
こういう機関があるのを知らなかったので。施設にきて相談に乗ってもらったりとか、1人じゃないっていうか、安心感があるなっていうのはあります。

神社で安産祈願

ある日は、職員とともに神社に行き、安産祈願をしました。支援ステーションによると安産祈願をしたことがないという妊婦も珍しくありません。
Aさんは「元気に生まれてほしい」と願い、出産を前に気持ちも落ち着いていました。

Aさん

お参りとかはできないだろうなと思って、考えてなかったので。
うれしさはあります。

Aさんに付き添って神社を訪れた支援ステーションの副所長の大島千代さんが、支援側の気持ちを聞かせてくれました。

大島千代 副所長

わたしたちのところにご縁があって来ていただいて、本当に家族の様な気持ちで支援させていただいてます。

「特定妊婦」への支援は

予期せぬ妊娠や貧困、ドメスティックバイオレンス、障害などさまざまな事情で子育てについて特に支援が必要とされる「特定妊婦」。児童福祉法に基づいて支援の対象になっています。Aさんのように妊娠中から支援を受ける仕組みです。調査を所管するこども家庭庁によりますと、全国の特定妊婦の数は、児童福祉法に記載された2009年からの10年間でおよそ8倍に増加しています。潜在的な数が、制度開始以降、把握されてきたことが増加の背景にあるとみられます。
 

特定妊婦の数 データを基にNHKが作成

”大丈夫”が聞けるまでサポート

特定妊婦への支援は、赤ちゃんが生まれたあとも続いていました。

自宅を訪問してサポート

訪れたのは、別の母親の自宅です。母親は軽度の知的障害があり、周囲に頼る人がいません。1人目の子どもの育児に加えて2人目の出産を控えていて、職員が家事を手伝っていました。
この日は母親に職員が付き添って病院にも向かいました。母親は1人目の出産のとき、妊婦健診を受けていなかったことがあり、不安から支援を必要としていたためです。

医師がアドバイス
アドバイスを聞く女性
健診に付き添う職員

産婦人科では、医師から栄養のバランスに注意するようアドバイスを受けました。支援する職員も診察に立ちあって情報を共有します。次の4週間後の健診には必ず来るようにみんなで約束し合い、確認していました。継続的な支援が、母親とこれから生まれる命を守っていました。
母親は「MamaRizumuーママリズムー」とつながることができて良かったと話しました。

支援を受ける母親

どうしていいんだろうっていう時に電話したらすぐ答えがかえってくるので、やっぱり心強いなって思っています。(「MamaRizumuーママリズムー」とつながることができていなかったら)どうなっていたんでしょうね。たぶんずっと1人で抱え込んでいたと思います。

食品や洋服を提供

母親が日常生活に困らないよう食料品や洋服も提供しました。気持ちに余裕を持って、育児と出産に臨んでほしいという思いからです。切れ目がないように支援し、つながっていくことが大切だといいます。

大島千代
副所長

継続していかないと子どもの安心安全な成長に結びつかない場合もあるので、「大丈夫です」って言われるまで私たちは支援させていただきたいなと思っております

「誰にも頼れず、殺していたかも」

特定妊婦を支援する産前産後母子支援ステーション「MamaRizumuーママリズムー」が開所して2年になります。これまでに14人の女性が利用してきました。それぞれの女性たちは複雑な事情を抱え、支援にたどりついていました。 

大島修二 所長

施設の所長の大島修二さんです。孤立する妊婦たちを支援する必要性を強く感じた出来事があったといいます。

大島さんは、ある女性が出産を終えて支援ステーションを出て行く際に話した会話の記録を書き残していました。

会話の記録

ここを利用していなければ、私は、誰にも頼れずに、娘を殺してしまっていたかもしれない・・・

もう大丈夫という声を聞くまでという思いの背景には、孤立が引き起こす深刻な事態をなんとか防ぎたいという支援側の強い気持ちがありました。少しでも早くつながり支援を継続することで、妊婦本人だけでなく、生まれてくる赤ちゃんの負担もぐっと減るといいます。

大島修二
所長

女性への支援がいきとどかないばかりに、お子さんに手をあげてしまったりとか場合によっては遺棄とかですね、そういった事件が起こってしまうことがあるのかなと思いますので、そういったことを未然に防ぐっていうことは一番効果はあることではないかなと思っています。

生まれました

生まれたばかりの赤ちゃんとAさん

ことし9月、Aさんの赤ちゃんが誕生しました。Aさんは赤ちゃんとともに病院から支援ステーションに戻り、穏やかな時間を過ごしていました。これから子育てをしながら自立するという次のステップに進もうとしています。

Aさん

楽しみもあるし不安もありますけど、頑張っていこうかなって。赤ちゃんのかわいさに助けられるので。

問い合わせ先
産前産後母子支援ステーション「MamaRizumuーママリズムー」
電話 0947-23-0560(受付時間 午前9時~午後5時)

<取材を終えて>
当事者と関係者の協力により、特定妊婦支援の現場を取材することができました。
今回のような支援先の数は、まだ足りていません。産前産後母子支援ステーション「MamaRizumuーママリズムー」のように行政から委託を受けている産前産後の支援ステーションは福岡県内に4か所で、定員にも限りがあります。
支援ステーションでは、妊娠や出産についての相談にも応じていて「特定妊婦」に限らず、女性職員が対応して支援にあたっているということです。1人で悩んだり、問題を抱え込んだりせず、相談してほしいと話していました。

  • NHK福岡放送局 記者

    檀浦歩

    2022年入局。広島県出身。
    事件・事故の取材を担当

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