ページの本文へ

読むNHK福岡

  1. NHK福岡
  2. 読むNHK福岡
  3. なぜ全員への給食がないの?

なぜ全員への給食がないの?

公立の中学校で給食があるのは、実は当たり前ではないんです…
  • 2023年11月17日

みなさんの疑問やお悩みに答える『追跡!バリサーチ』。久山町の方から、こんな投稿を頂きました。

町の中学校の給食は選択制です。なぜ、全員への給食がないのでしょうか?

選択制給食とは、学校の昼食の時間にランチサービスなどを利用して給食を食べるか、弁当など給食以外のものを食べるか選べる制度です。県内の公立中学校では、ほとんどが全員への給食ですが、久山町など6つの自治体でこの選択制を採用しています。これがなぜなのかという質問です。
全国的にも、全員に給食を出している公立中学校がほとんど。選択式の給食は少数です。
そんななか、なぜ「選択式の給食」なのか?バリサーチしました。

さっそく久山町の教育委員会に問い合わせると…。

(久山町教育委員会) お答えしかねる。町議会の議事録に書かれていることがすべて。

と、回答されました…。いったい、どういうことなのか?


町議会の議事録を調べると、給食を巡って激しい議論が交わされてきたことわかりました。

もともと給食が無く、弁当制だった久山町。2015年、給食を提供するよう求める保護者からの請願が出されました。3年の議論の結果、選択制の給食を取り入れることに。

「給食を作る施設には工事費もランニングコストかかる」。主に町の経済的な負担を理由としてあげていました。

〝給食は無いのが当たり前〟の地域

2015年の時点で、久山町には給食がありませんでした。なぜなのか?
調べてみると「学校給食基本法」にその理由がありました。

昭和29年に定められた学校給食法では、給食について「普及と健全な発達を図るよう務めなければならない」と定められています。つまり、公立の学校での給食の提供は「努力義務」なのです。

小学校では、欠食児童対策と就学率向上のため、戦前から給食の導入が始まっていました。しかし、中学校では給食が無いほうが当たり前。戦後になって、小学校ではスムーズに給食の導入が進んだのに対し、中学校での導入はゆっくりとすすみ、施設の建設などコストの面で導入に踏み切れず、地域によっては全く進まない自治体もありました。そのまま給食がないのが当たり前、という地域も生まれたのです。

2000年代に入り、全国の公立中学校で普及率が約7割に達する一方、大阪(10%)や神奈川(12%)など極端に普及が進まない自治体も目立つようになります。福岡では、2006年の時点で久山町のほか、太宰府市や大野城市、北九州市など、およそ15の自治体で全員への給食は提供されず、給食は無いのが当たり前だったのです。

2017年 太宰府市議会 給食導入を巡って市長に不信任決議が

久山町だけではなく、そうした自治体で、給食の導入を巡り議会が紛糾するケースが相次ぎました。太宰府市では、給食の導入を巡る議論の末、不信任決議案を出された市長が失職。他の自治体でも、給食の導入は選挙の争点にもなる大きな課題となっているのです。

こうしたなか、なんとか給食を導入するため、考えられたのが選択制給食だったのです。

希望する生徒に対し、民間の業者に委託した給食を提供します。生徒は、弁当など、給食以外も選ぶことができ、自治体としては、施設費やランニングコストも抑えられる仕組み、というわけです。

給食は選択制か全員へか 続く議論

しかし、選択制給食を導入したものの、全員への給食が望ましいという保護者の要望が出され、議論が続いているケースも多いことも見えてきました。

2005年に選択制給食を導入した大野城市。

大野城市は、選択制を採用している理由について、「市内の中学生3100人を対象にしたアンケートで、選択制を望む声が多かった」ことや、「多様化した現在のライフスタイルに対応できること」を主な理由としています。また、その日の朝でも給食を注文できるなど、利便性をあげる工夫を重ねていて、これからも選択制給食の充実を図っていくとしています。

一方、一部の保護者は議会に請願書を出すなどして、「生徒全員への給食」を求めています。「選択制では、生徒個々の事情によって、栄養の偏りが出てしまう可能性がある」「貧困などが理由で食事そのものをとれない生徒に対し、対応しきれないのではないか」というのが、主な主張です。

2023年現在、福岡で選択制の給食を取り入れている自治体は6つ。給食のあり方を巡る議論が続いています。
 

選択制から全員への給食へ 生徒たちに聞いてみた

そんななか、去年選択制から全員への給食に切り替わった中学校があると聞き、取材しました。

向かったのは、直方市の植木中学校です。直方市では去年9月、選択制から全員への給食にかわりました。専門の会議を設置し、生徒や保護者へのアンケートを元に議論を重ねた結果だと言います。

導入から1年。生徒たちの声を聞いてみました。

おかあさんは弁当作らなくてすむって喜んでいる

給食は温かくていいと思う

きょうのメニューについて友だちと話せる

そのほか、学校で行ったアンケートには、「親のつくった弁当がいい」「弁当だったら好きなものを入れられる」など弁当を望む声も。ずっとお弁当だった生徒たち、とくに多かったのは「準備や片づけに時間をとられ、昼休みが削られるのがいやだ」という意見でした。
給食をめぐっては、当事者の間でも、生徒、保護者、教職員、自治体など立場のちがいによって意見は様々でした。
 

給食を巡るさまざまな課題が見えてきた

今回、なぜ給食が選択制なのか?という疑問を調べているなかで、給食は多くの課題を抱えていることが見えてきました。

放送後、今回の取材について、視聴者の方からたくさんの声をいただきました。
「給食を取り巻く現代の問題が分かった」という声をいただいた一方で、「子ども食堂がつくられ、子どもの貧困が叫ばれているなか、問題の重要性を理解していない」という厳しいご意見や「朝早くにお弁当をつくらなければならない親の大変さを理解していない」という声もいただきました。
この、子どもの貧困が問題になる中、全員への給食がその一助として必要ではないか、という意見に関して行政側の担当者に尋ねたところ、「学校給食とはそもそも、親が子どもに対して十分な食事を与えないネグレクトへの対策ではない」という答えでした。

また、選択制が導入されている自治体でも、実際には保護者が給食を選択しにくい実情があることも分かりました。選択制給食の見直しを進めていた太宰府市の調査では「選択制の中で給食を選ぶと、弁当を作るのをサボっていると周りから思われそうで、給食を頼みにくい」という保護者の声があがりました。太宰府市では、来年から全員への給食に切り替えることにしていますが、その判断材料の一つにしたといいます。

一方、給食を実施している自治体でも、大きな課題が持ち上がっていました。食材費の高騰による負担の増加です。学校給食法では、給食にかかる費用のうち食材費は保護者、その他の費用は自治体の負担と定められていますが、実際には、県内の複数の自治体で、保護者への負担を抑えるために国からの交付金や一般財源を使って高騰分の食材費を補い、保護者に負担がかからないよう対応しています。しかし、安定した財源では無いため、材料の高騰が進むなか、どこまで今の状況を維持できるのか、先が見えないというのです…。


こうした給食を巡る課題については、今後も取材を続けていきます。
みなさまもぜひ、情報やご意見をお送りください!追跡バリサーチでした。

 

疑問やお悩み、ご意見はこちらから☟

ページトップに戻る