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記録の先にメダルがある

水泳・世界選手権 遠賀町出身・鈴木聡美選手
  • 2023年07月28日

    「私まだ応援してもらえてるんだ」「30歳超えてもまだできる」
    水泳の世界選手権。100m平泳ぎでは14年ぶりの自己ベスト更新で8位入賞を果たし、7月29日から行われる50mでメダルを狙う遠賀町出身・鈴木聡美選手の言葉です。
    一度は引退を考え「この大会が競技生活のモチベーションになった」と語る鈴木選手に、代表入りが決まった直後、話を聞きに行ってきました。
                           (NHK福岡アナウンサー 姫野美南)

    私まだ応援してもらえてるんだ

     

    ー世界選手権の代表が決まって嬉しかったことって何ですか。ー

    「たくさん連絡が来たことですかね。同じ福岡の選手なんですけど、もう全力で応援しにいきますってコメントくれたりだとか。あ、私まだ応援してもらえてるんだっていうその点が一番うれしかったですね」

    日本の競泳女子最年長として、今大会・水泳の世界選手権で50mと100m平泳ぎに出場する鈴木選手(32)。
    水の抵抗が少なく、水面を滑るような伸びやかな平泳ぎが持ち味です。

    取材に行ったこの日は「タイムを縮めるならここしかない」と、
    スタートからのひと掻きひと蹴りを重点的に練習していました。

    「あ、私まだ応援してもらえてるんだ」
    インタビューをしていてハッとした何気ない一言です。
    決して平坦ではない長い競技生活に向き合ってきた鈴木選手ならではの言葉でした。

    長いトンネルを走り続けてきた

    2012年、21歳で出場したロンドンオリンピックでは、女子の競泳選手として、国内で初めて3つのメダルを獲得。
    25歳でリオデジャネイロオリンピックにも出場しました。

    「もう一度メダルを」
    自国開催の東京オリンピックに向けて追い込んでいた2020年3月。 
    新型コロナウイルスの感染が拡大。大会の延期が決まります。

    「私も非常に気にしいというか、周りが大変なのに自分は何やってんだとか、このままでいいのかとか、どんどん負の連鎖に陥ってしまって全く水泳に向き合えない時期が1年間くらい続いてしまって。エゴサーチじゃないですけど、周りが大変な状況なのにいいよねアスリートは泳いでるだけで。みたいなコメントも、常にそういうのも気になってしまっていたので。半分目標を見失ったような感じでしたね」

    気持ちの整理がつかないまま臨んだ選考会では、 力を入れていた200m平泳ぎで7位。 
    代表権を得ることはできませんでした。 当時30歳でした。

    「特に悔しさはなかったですね。逆にホッとしてる自分がいたりだとか。今後の在り方、私どうした方が良いのかなって考えた時に、私辞めた方が良いのかな、引退した方がいいのかなって悩む時期はありました。非常に長いトンネルをずっと走り続けていたなという印象ですね」

    聡美なら、まだいける。

    そんな鈴木選手が気持ちを切り替えるきっかけになったというのが、大学時代から14年間練習を見続けた監督の一言でした。 

    「 “聡美なら、まだいける” っていう言葉をかけてくださったのでより自分を信じられるようになりましたね。自分でも、トレーニングもできてる、泳ぎもできてる、健康体でいる、全く問題ないのに逃げるわけにはいかないと。あ、絶対だめだって思い返して踏みとどまることができました。」

    山梨学院大学水泳部 神田忠彦監督

    4歳の時、地元遠賀町のプールで水泳を始めた鈴木選手。 
    高校まで過ごした福岡で行われる世界選手権は、何よりのモチベーションになったといいます。

    「なんていうんでしょうね。これは私が絶対に出なきゃいけないでしょうって思うような、私が主役ってわけではないんですけど、そのモチベーションで頑張ってきたのはありますね。何が何でも福岡の世界水泳は出たい。その思いでずっと頑張ってました」

    ーこうして聞くと、すごく強い言葉ですね。やっぱり地元というのは大きいですか。ー

    「大きいですね。2001年に福岡で世界水泳があった時は、日本のトップクラスにも全く興味がないくらいのただの小学生スイマーでしたけど。ただそれが今となってはしっかりと目の前で自分がつかみ取れるくらいの位置にいるということで、地元で私の泳ぐ姿をみんなに見せたいなっていう思いが、年々出てきまして。」

    “まだできる” “まだやれる” 可能性を信じ続けて

    今年4月。世界選手権をかけた日本選手権、 女子平泳ぎ50m決勝。
    5年ぶりの自己ベスト更新で、代表入りを決めました。 

    2023年4月日本選手権

    「気持ち良かったですね。やはり。あ、私まだできるんだ。もうそこで一番の自信につながったレースだったと思いますね。30歳前後はもうタイムが出ないとか、もうしんどいとか、ネガティブな印象を持たれがちなんですけど。30歳超えても私まだできるんだってポジティブな意味で自信を持てることができたので、じゃあまだやれるんだって思いましたね」

    “まだできる” “まだやれる” インタビューの中でそう繰り返していた鈴木選手。
    自分の可能性を信じて泳ぎ続ける姿は、女性としてもアスリートとしてもまぶしいものでした。

    あれから2カ月・・・

    そして、福岡で始まった水泳の世界選手権。

    7月24日・25日に行われた女子100m平泳ぎでは14年ぶりに自己ベストを更新し、8位入賞を果たしました。
    実は鈴木選手、インタビューの中で「100mで自己記録を超えて、50mに向けて自信になるようなレースにしたい」と話していました。

    「細かい点ですと、50mでは29秒台を目指して頑張りたいなと。記録を超えた先にメダルとかの功績があると思うので、私の中の目標は常に自分の記録なんですよね。だからといって今回の50mの記録を超えたからじゃあオッケーではなくて。いやまだいけるでしょう、限界ではないよねって。」

    ー地元福岡での世界選手権。50m・29秒台できそうですか。ー

    「できそうですし、やるしかないなという思いで頑張っていきたいなと思っています。苦しい表情をしたまま試合には臨みたくないので、楽しみながら泳ぐ姿を見せられたらなと。もう悪い結果は見せたくない。」

    飾らないまっすぐな言葉が印象的でした。
    ふるさとで全力で泳ぎ抜く鈴木選手を、陰ながら応援しています。

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