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水害から命と暮らしを守るために、いま私が伝えたいこと

~福岡で“防災”に取り組む3人の声~
  • 2023年07月04日

ことしも各地で大雨による被害が相次いでいます。いざという時にどんなことが役立つのか。
福岡県内に住む3人の方に『みんなで助かるために伝えたいこと』を聞きました。

1.災害はひとごとじゃない “逃げて!”      

大雨の危険が迫っている時、“早めの避難”の必要性を訴えているのは、福岡県立朝倉高校の3年、冨田響葵(とみた・ひびき)さんです。冨田さんは、小学6年の時に九州北部豪雨を経験しました。

朝倉市は、九州北部豪雨で川の氾濫や土砂崩れが発生して35人の犠牲者が出ましたが、冨田さんの自宅がある松末(ますえ)地区は、被害が大きかった場所の1つです。2017年7月4日、大雨の危険が迫る中、冨田さんはほかの児童や住民らおよそ50人とともに松末小学校に避難していました。

 

「当時私は6年生で、あの日は朝から学校で授業を受けていました。午後から雨がひどくなってきて、学校のそばを流れる乙石川(おといしがわ)が氾濫しました。最初は体育館に避難していたのですがその体育館のすぐ横くらいまで水がきたので、少しでも高い場所へということで校舎の3階に全員で移動して避難しました。」

2017年7月4日 氾濫した朝倉市内の川の様子

「今まで自分が見てきた景色が豪雨のせいで数時間にして知らない世界に変わってしまったので、ホントに言葉にならなかったです。災害は自分にとってはテレビの中の世界でしかなかったですし、本当に自分の身にこんなことが起きるとは思わなかったです。」

家族とも連絡がとれずに不安な夜を過ごしましたが、校舎の3階に避難していたおかげで、翌日無事に救助されました。

豪雨災害はいつどこで起きるか分かりません。自分とまわりの人の命を守るため、大雨が迫っている時に冨田さんが必ずやることがあります。それはSNSを使った情報交換とみずからの言葉で避難を呼びかけることです。 

冨田さんはまず、高校の友人らと作るSNSのグループで、お互いの自宅周辺の状況を写真や動画で共有します。そして危険が迫る前に『私、今から逃げるよ!みんなもひとごとじゃないから早く安全な場所に逃げて』とメッセージを送り、友人らにも早めの避難を呼びかけると言います。

「1人がそういう発信をするだけでこの地域は危ないんだとか、自分も逃げようとか、そういう考えにつながると思うし、身近な友達が言ってるんだから自分もやばいなって、危機感を感じてくれるきっかけになると思います。」

友達どうしでSNSのやりとりをしていると、どうしても「まだ大丈夫じゃないか」と思いがちになります。そういう時こそ、まわりの状況を冷静に見て、誰か1人が「本当に大丈夫?もう避難するべきなんじゃないの?」と呼びかけることが大事。それが高校生になった冨田さんが一番伝えたいことです。

(取材担当:NHK福岡 鶴田幹人)


2.落語で楽しく身近に“防災”を考えて

大雨などで避難する時に、『人の助けを受け入れることが大事』だと訴えるのは、久留米市のアマチュア落語家、福々亭金太郎(ふくふくてい・きんたろう)さんです。金太郎さんは、筑後川の防災施設「くるめウス」で館長をしていて、日頃から地域の防災に取り組んだり、早期避難の呼びかけを行ったりしています。
 

防災講演をする金太郎さん

ここ数年の間でたびたび大雨特別警報が発令され、住宅街での浸水被害なども出ている久留米市。
金太郎さんが高齢者に避難を呼びかける時に課題だと感じているのは、「迷惑をかけるから」とか、「助けてもらうのは申し訳ない」といった理由で助けを断る人が多いことです。
 

2012年 久留米市の豪雨

どうすれば抵抗なく助けを受け入れてくれるのか。金太郎さんがたどりついたのが、大学時代から続けている“落語”でした。

「私の落語が役に立てばいいなということで始めました。水害への備えなんていうことを落語にのせて住民の方に柔らかく噛み砕いて伝えられればいいと思っています。」

金太郎さんが落語を通して一番伝えたいのは、避難時は周りの人に助けてもらっていいんだということです。5月29日、福岡市東区の若宮公民館で出水期に向けた防災講座が開かれ、地元の住民らおよそ30人が参加しました。

防災落語を楽しむ人たち

この日、金太郎さんが披露した落語は、防災訓練を前に避難の必要性について語り合う夫婦の話でした。
 

【落語】
「いやでもさ、俺は痛風持ちだろ。避難しろって言われてもすぐ走れないよ。」
「そういう時はね、ちゃんと誰か周りの人の力を借りて、助けてもらう。これも大事なのよ。
人を頼ることも大事なの。お隣さんとかに肩を貸してもらったりしたらいいじゃないのよ。」
「嫌だよ、あいつに借りを作りたくないよ。あいつは小学校の頃から知り合いだけれどもね、今までに一度も馬があったことがねえんだ。あいつにおぶられてみろ。あいつは俺のことを助けてくれるふりをして川にそのままドーンと落としたり。もう信頼ならねえ。」
「だから日頃から関係を作っていざという時に頼ること、これも大事よね。」

「助けをもらうために日頃から周囲に健康状態を話したり、コミュニケーションを取ったりしておくことが大切。そして本当に必要なときは遠慮無く助けてもらっていい。人に頼ることはとても大事なことなんです。」

防災を落語で楽しく届けたい。そして「助けてもらうことは決して恥ずかしいことじゃない。水害から命を守るために、ぜひ”助けを受け入れる力”を持ってほしい」。それが金太郎さんの伝えたいことです。

(取材担当:NHK福岡 畑谷和毅)

 


3.避難のときには“抱っこひも”が大事

災害などで幼い子どもと一緒に避難する時に、“抱っこひも”が大事だと訴えるのは、大野城市の渡邉恵里香(わたなべ・えりか)さんです。渡邉さんは防災士の資格を持ち、幼い子どもを持つ親を対象にした防災講座を開くなど、活動を続けています。
 

渡邉さんが防災の取り組みを始めたきっかけは、東日本大震災です。当時、渡邉さんは茨城県つくば市に住んでいて、まだ生後11か月の息子といる時に被災しました。

「地鳴りがすごくて、無我夢中で息子を抱いて廊下に逃げました。タンスから床に物が出てきて、赤ちゃんをハイハイさせられるような状況じゃなかったです。」

そんなときに役に立ったのが、抱っこひもでした。渡邉さんは、自身が経験したのは震災だったが、その教訓は水害の避難にも生かすことができるといいます。

「両手を空けられることっていうのは、すごくたくさんメリットがあります。安全確保をしながら避難できたり、必要な物を持って逃げることができる。また、雨の時には赤ちゃんと一緒にレインコートを着ることもできます。」

抱っこひもを装着した状態でレインコートを着る渡邉さん

今は県内各地で幼い子どもを持つ親に向けた防災講座を定期的に開き、みずからの経験をもとに抱っこひもの有用性や避難時のアイデアなどを伝えています。

小さな子を持つ親に向けたオンライン防災講座

「少し子供が大きくなって『もう抱っこひもはいらないかな』っていう子でも、足がすくんで動けなくなることは多々あります。『うちの子使わないな』という子でも抱っこひもを持っておいて頂いて、使えるようにしておくといいと思います。」

「小さな子どもがいるパパやママにとって抱っこひもというのは命を繋ぐ命綱になります。大切な命を守るために抱っこひもを使ってもらえればと思います。」

いざという時に備え、日頃から防災への意識を持つことがとても重要だと話してくれた渡邉さん。
取材の最後には、「誰かが助けてくれるだろうではどうにもならない。あなたの赤ちゃんの命はあなたが守るんです」そう強く訴えかけてくれました。

(取材担当:NHK福岡 畑谷和毅)



 

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