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ひとりぼっちのラッコ リロ

  • 2023年05月02日

    福岡市の水族館「マリンワールド海の中道」にいるラッコのリロ。2022年のサッカーのワールドカップで日本戦の勝敗を予想したことで話題になりましたが、実は、国内の水族館では唯一のオスで、貴重な存在なんです。ことし16歳になり、人間でいえば60代後半のリロに、元気に長生きしてもらうための水族館の取り組みを取材しました。(福岡放送局記者 松木遥希子)

    水族館きっての人気者

    ごあいさつのポーズ

    穏やかな性格で水族館きっての人気者、リロ。その姿を一目見ようと、全国からファンが訪れています。

    リロを見に大阪から親子で来ました。
    なんだかのんびりしている様子に癒やされますよね。

    “決め”ポーズ

    ほっぺたをこんな風にしているところがかわいい!

    リロのこれまで

    リロは和歌山県の動物公園で生まれ、2012年、4歳のときにマリンワールドに引っ越してきました。その年にマリンワールド海の中道で産まれて人工哺育で育ったメスのマナと交配するためでした。

    赤ちゃんのころのリロ

    9年後の2021年、リロとマナの間に待望の赤ちゃんがいることが確認されましたが、マナは出産間近に赤ちゃんとともに死んでしまいます。のちの調査では、もともと子宮に病気があったことがわかりました。

    マナ(左)とリロ
    画像提供:マリンワールド海の中道

    マナと仲むつまじく暮らしてきたリロ。突然、マナがいなくなって動揺した様子が見られたため、水族館はしばらく公開を控えたといいます。それから2年近くたち、ひとりぼっちでの生活に慣れてきたものの、広い水槽にぽつんといるリロはときに寂しげに映ります。

    広い水槽にひとりぼっち

    水族館でただ1頭のラッコとなったリロは、国内でも貴重な存在です。2023年4月末の時点で、国内で飼育されているラッコはリロを入れてわずか3頭。リロは唯一のオスで、三重県の水族館にメス2頭がいますが、1頭はリロより高齢で、もう1頭はリロの妹のため、繁殖の道は閉ざされています。

    ラッコをめぐる状況は

    1980年代にアメリカから輸入されたラッコは各地で繁殖を繰り返し、国内の水族館などではピーク時の1994年には122頭のラッコがいました。しかし、その後は繁殖がうまくいかず、アメリカが輸出のためのラッコの捕獲を禁じたことも重なって国内のラッコは徐々に減ってきました。

    かつてたくさんいたラッコたち

    日本動物園水族館協会のラッコ繁殖計画の統括で、三重県の鳥羽水族館で長年、ラッコの飼育に携わっている石原良浩さんにラッコの現状などについて聞きました。

    石原良浩さん

    国内外のラッコをめぐる状況について教えてください。

    石原さん

    かつては日本にもたくさんラッコが生息していましたが、毛皮目当ての乱獲で激減しました。絶滅を防ぐため、1911年に日本とアメリカなどでラッコやオットセイの捕獲を禁じる国際条約ができ、この条約を守るため、日本ではよくとしの1912年にラッコやオットセイの捕獲を禁じる法律を作りました。
    一方、アメリカでも保護法が作られてラッコは大切に守られてきましたが、だんだん数が増えてきて、1982年あたりから日本に輸入されるようになりました。ところが1989年に野生のラッコが多数生息するアメリカのアラスカ沖でタンカー事故が起きて原油が流出し、3000頭から4000頭のラッコが死んでしまいます。このことや人間の生活排水の影響で毒性があるプランクトンが発生してラッコが死ぬことなどが重なり、アメリカでは保護法を強化して輸出するためのラッコの捕獲を禁じました。こうしてラッコが日本に入ってこなくなったのです。

    最大で122頭いたとのことですが、国内で増えなかったのはどうしてですか?

    石原さん

    ラッコは繁殖力が旺盛で、日本でもこれまでにたくさんの子どもが産まれました。しかし、高齢のラッコがリタイヤしていく一方で、理由はわかっていませんが繁殖がうまくいかず、この30年ほどで今のような状況になりました。各地の水族館でも話し合いを重ねてきましたが、なかなか繁殖に結びつきませんでした。今ラッコに関心を持つ人が増えているのはとてもうれしいので、興味を持ち続けてもらえるように水族館も考えていかないといけないと思っています。

    長生きして!水族館の挑戦

    ラッコの寿命は20年ほどと言われていて、ことし3月に16歳になったリロは人間でいうと60代後半くらいにあたります。皮下脂肪が少なく、いわゆる「食いだめ」ができないため、1日に自分の体重の4分の1から5分の1を食べなければならないというラッコ。リロもかつては、1日5回の食事をぺろりとたいらげてきましたが、最近、食欲が落ちてたといいます。

    リロのための特製のエサ

    そこで水族館が始めたのが特製のエサ作り。魚が苦手で、ふだんはホタテとイカしか食べないというリロに栄養価が高いサケを与えて、元気に長生きしてもらうことが目的です。サケに好物のホタテとイカを加えて1センチ角に刻んで凍らせ、食事の時間に差し出してみると…。

    キャッチ!

     しっかり受け取り、食べました!

    飼育員の秋吉未来さん

    秋吉未来さん
    「イカなどは水分は補給できるもののカロリーが低いことが気になっていました。サケを食べられれば、今後えさの量が減ってもカロリーを稼げると期待しています」。

    口の中も見せてね

    水族館の取り組みは、特製のエサ作りだけではありません。飼育員たちは食事の時間に、リロの体をさわるようにしています。健康チェックに加え、ふだんから体をさわられることに慣れさせることで、採血などの検査の際に暴れることなくスムーズに受けられるようにする意図があります。

    リロを通じて感じてほしいこと

    水族館では、リロに長生きしてもらうことで、より多くの来場者にラッコの生態や海の環境について知る機会を提供できると考えています。

    お昼寝中のリロ
    秋吉さん

    リロたちラッコがいる世界は私たちが住んでいる世界とはまったく別のように見えますが、しっかりとつながっています。こうしたかわいい生き物たちを通じてちょっとでも海の環境など周りのことに目を向けてもらえたらと思っています。

      • 松木遥希子

        NHK福岡放送局 記者

        松木遥希子

        2006年入局、福岡県出身。マリンワールド海の中道には子どものころから通っています。

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